雨の夜の出来事(4)

創作の怖い話 File.194



投稿者 でび一星人 様





間違いない。


花子ママ・・・沙織は思った。



この香りは・・・私の大好物だった、【肉を皮で包んで蒸したようなもの】の香り・・・。



・・・昔、母さんがたまに作ってくれた・・・。


母さんが、今から30年近く前、この家を出て行った時に、私に作り方を書いた紙を残してくれたけど、


私が作ったらいつも皮から中身がこぼれだして【皮とその他】みたいな料理にしかならなかったアレの香り・・・。



もしかして・・・


もしかしてこの人は・・・。




沙織は家の中に向かっていく自分ソックリの女の人の背中ごしに思わず声をかける。


「もしかして・・・あなたは母さん!?」




 部屋の中に向かう女の人の歩調がとまった。


そしてゆっくりと振り向く・・・。



「・・・私・・・?私はね・・・。」



そう言うと、その女性はアゴのあたりの皮を左手で掴んだ。





・・・そして、皮をベリベリと剥がす・・・。





「・・・えっ・・・。」



沙織は両手を口にやった。








ベリベリと皮を剥がした中からは・・・。

まったく同じ顔が出てきた。




「・・・まったく、やっと解ったのかい・・・ただいま、沙織。」



母さんはニコっと笑った。



「母さん!」




沙織は思わず母に駆け寄り抱きついた。





「お母さん!一体・・・一体今までどこ行ってたのよ!うわあああん。」



沙織、号泣。



「フフ・・・ちょっと・・・ね。 修行というか、弱った体と心を鍛錬して来たんだよ。


ごめんね。沙織。」




「わあああん。母さん、今、顔からマスク剥がした意味がわかんないよ!」



「フフ。ほんのイタズラ心さ。」




・・・間違いない。


このイタズラ心は、間違いなくお母さんだ。


沙織は妙な安心感を得た。














 ムシャムシャムシャ。


「母さん!おかわり!」


「・・・はいはい。まったく、沙織は西武の中村だねぇ〜(伝わらない人ゴメン)。」


「やっぱり、このコリコリしたやつおいしいよ!体が癒されるよ!」




 家に入り、沙織は母の手料理をバクバク食べていた。


そして積る話を交わした。




 母が治療?の為、人里離れた山奥に篭りに行った後、裕史と付き合い、そしてケコーンした事、


双子の息子、娘が生まれた事。


・・・子供達が小学校二年の頃に離婚した事・・・。


息子がプロ棋士を目指している事。


息子が現在プロ野球で大活躍している、東武オンラインズの清腹の居た【OL学園】に、高校野球時代勝った事。

・・・娘がとんでもない問題児で、現在でも近所の数隊の族に顔が利く事。




いろいろ話した。



時には涙し、


時には笑い、



数十年ぶりの母との再会のひと時を心に刻んだ。

「・・・そうかい・・・沙織、裕史君と別れちゃったのかい・・・。

良い子だと思ったんだけどねぇ・・・やっぱり、原因は浮気とかの類かい?」


「・・・う、うん・・・まあ・・・そんなところかな・・・。もう、あまり触れないで・・・。」



「あ・・・ゴメン・・・そうかいそうかい・・・やっぱり裕史君も男の子だったって事か・・・。」


「・・・。」







 沙織はその夜、久しぶりに母と布団を並べて眠りに就いた。




そして朝、



隣で寝ている母を見る。



「おはよう。母さん。」


「・・・。」




声をかけたが、返事が無い。



(きっと疲れてるんだろうな・・・。)



沙織は自分の布団をそっとたたみ、朝食を作りに台所に向かった。



「・・・えっ?」



台所に行くと、味噌汁と、沙織の大好物の【コリコリ蒸し】が既に用意されていた。



「・・え?母さん、既に起きてたの???」



沙織は慌てて寝室に戻った。




「・・・ちょっと母さん、いつのまにゴハンなんて作った・・・。」


ふすまを開け、母にそう言いかけたところで体がピタッと止まった。



「・・・母さん・・・?」



沙織のたたんだ布団の横には、母の布団が敷かれていた。



・・・だが、そこに母の姿は無かった。



「・・・母さん?どこ・・・?またイタズラ心で、どこかに隠れてるんでしょ?」


沙織は部屋の中を妙な警戒心と共に探した。


・・・でも、どこにも母の姿は見当たらなかった。

「・・・ん?」


ふと、母の布団の上に手紙が置いてある事に気が付いた。



【沙織へ】



手折りたたまれた手紙には、そう書かれていた。


沙織はその手紙を手に取った。







【沙織へ



 沙織、元気そうで母さんホっとしました。


でも・・・ごめんね。沙織。


母さん、もうオマエと会う事が出来ない存在になっちゃったんだ。


 実はね、


昨日の夜、母さんこの世の存在じゃなくなっちゃったんだよ。


神様が・・・ね、


生前の母さんの働きに免じて、1日だけ、アンタと会う事を許してくれたのさ・・。


信じられるかい?


アンタ、霊とかそういうのが小さい頃からまったく見えない子だったからね。


信じれないと思う。


でも、これは現実に起こった事なんだよ。


これからは、視野を広げて生きて行って欲しいと願ってるよ。




 覚えてるかい?沙織が小学校4年生の頃。


運動会の徒競走で1位になたよね。


アンタは小さい頃から足が遅く遅くて、


あの運動会、友達にバカにされて、アンタ一生懸命に努力したよね。


その努力が実って、1位になった。



母さん、嬉しかったなぁ。


あんたに見えない所で、母さん泣いてたんだよ。


おんたのあの嬉しそうな顔、母さん忘れないよ。



 あの時の努力を、忘れちゃダメだよ沙織。


一生懸命にやれば、願いは叶うんだよ。


何事も、諦めちゃぁダメだよ。


・・・裕史君にも・・・本当は未練があるんじゃないのかい?



素直になる事だよ。沙織。


がんばって・・・ね。



それじゃぁ、母さんもう行くよ。


本当に本当に、


今までありがとうね。



大した事、母さん沙織にしてやる出来なかったけど、


ダメな母親だったかもしれないけど、


本当に、母さんの子として生まれてきてくれて、








ありがとう。









          母より。         】

ポタ・・・



          ポタ・・・







  昨夜の雨が嘘のように、空は雲ひとつない青空だった。



そんな青空とは反対に、母からもらった手紙は濡れていた。



沙織の目から零れ落ちる涙で・・・。




 「母さん・・・バカ・・・。何で、最後の挨拶も無しに行っちゃうんだよ・・・。」


沙織はただただ悲しかった。

ずっと離れて暮らし、

やっと会えた母さん。


その母さんと、これから一緒に過ごせると思っていたのに、


まさかこんな急にまた別れが来るなんて、思っても居なかった。


「母さん・・・。」



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