雨の夜の出来事(3)

創作の怖い話 File.193



投稿者 でび一星人 様





(裕史・・・。)




花子ママの手は、鞄の中の携帯電話に伸びていた。



現実ではありえない事が起こっている今、



頼れるのは裕史しかいないと思った。




・・・でも、もし電話をしたとして、そっけなくされて、すぐに切られたら怖い・・・。



過去、何度か電話をして裕史が出た事があったのだが、話そうとすらしてくれなかった事がほとんどだった。




(でも・・・今頼れるのは・・・。)



花子ママは老眼鏡をかけ、携帯電話の電話帳から【八木 裕史】の番号を探そうとした。
























   【電池切れ】












「アウチ!!!!」




花子ママの叫び声が、雨音を切り裂いて響き渡った。









 ガチャッ、ガチャガチャッツ。




「誰か居るの!???」




花子ママの声に気づき、家の中にいる【もう一人の自分】が飛び出してきた。






とっさに隠れる花子ママ。






 「・・・おかしいわねぇ・・・たしかに今、声が聞えたと思ったんだがねぇ・・・。」


もう一人の花子ママは、ツッカケを履いて外に出てきた。




 ジャリッ・・・




    ジャリッ・・・・。




  ジャリッ・・・。




  
・・・コンクリートの軒下を、すり足で歩いてくる音が聞える・・・。

ドキドキ・・・。



   ドキドキドキドキドキ・・・。



花子ママの胸が恐怖と緊張で高鳴る・・・。







 ガサゴソ・・・



   ガサッ・・・。






 【もう一人の花子ママ】が、玄関横の物置を探っている。



・・・誰か隠れていないか、調べているのだろう・・・。




「おかしいわね・・・。確かに声が聞えたと思ったんだけど・・・。」



ギィィ・・ バタン。





 (ホッ・・・。)



安堵感。



 花子ママは、もう一人の自分が家に入ってドアを閉めた音を聞き、また物陰から顔を出した。










 そして時間が止まる。









 そこには、自分と同じ顔の人間が立っていた。



玄関のドアノブを、【外から握った状態】で・・・。







「やっぱり居た・・・やっと見つけたよ・・・。」



もう一人の自分はニタっと笑い、花子ママにそう言った。




「あ・・ぁ・・・。」


花子ママは声にならない声を出し、腰を抜かしてしまった。




ジャリッ・・・




   ジャリッ・・・。




 もう一人の自分は、笑顔のまま近づいてくる・・・。

ジャリッ・・・



   ジャリッ・・・。




ツッカケのかかとを引きずりながら、もう一人の自分は近づいてくる・・・。


「なんで・・・そんなところに居るんだい・・・?」



もう一人の自分はニヤリと笑いながらそう聞いた。


「ぁ・・あぁ・・・。」

花子ママは恐怖のあまり、声を出す事が出来ない。


「・・・さ、私の手につかまって・・・。」


もう一人の自分は、花子ママに手を差し伸べる。




(触れたらダメ!なんだか嫌な予感がする!)



「い・・・嫌っ!」


花子ママは後ろに飛びのいた。


もう一人の自分は、少し驚いたような表情でじっと花子ママを見ている。



「・・・どうしたんだい?一体何を怖がってるんだい?」


もう一人の自分はそう言うと、また花子ママに向かって歩き出した。




「や・・・やめて!私に一体何をしようって言うの!!」





ザァァァァァ・・・・






雨は依然として降り続いている。

「・・・はぁ・・・。」



もう一人の花子ママは、腰に手をやり小さくため息をついた。



そして、





「・・・久しぶりに会ったっていうのに、それは無いだろう・・・沙織・・・。」



と、眉を悲しそうな形にして言った。





(・・・沙織・・・?)



沙織というのは、花子ママの本名だ。



・・・しかし・・・。


もう何年もこの名前で呼ばれていない・・・。



1年に数度来る、自分の子供たちからの手紙でしか見ない名前だ。



 もう一人の自分は、腰に手をやったまま花子ママを眺めている。



「ぁ・・・久しぶりに会ったって・・・いつ会いました・・・?」


花子ママはなぜか敬語でそう聞いた。



「・・・フ。」


もう一人の自分は、クスっと笑った。



「・・・そっかそっか・・・。しばらく会わないうちに、私の顔を忘れちまったのかい・・・


まったく・・・困った子だよ。」



もう一人の自分はそういうと、花子ママの肩に手をやり、抱き起こした。




パンパン・・。


そして座り込んで汚れた花子ママの服を手で払ってくれた。



「え・・・ぁ・・ありがとうございます・・・。」


お礼を言う花子ママ。




 「・・・なんだよ・・・よそよそしいね。


アンタ、本当に私が誰か解んないのかい?」



・・・誰だろう・・・。



自分にはもしかして、生き別れになった双子が居たのか・・・?



居たっけ・・・?




そういえば、居たような気がする・・・。



居たような気になってきた・・・・。

・・・・




・・・・




・・・いや、やっぱり居ない・・・。



私は一人っ子だ・・・。



好きなお菓子は小粒っ子だ。





「・・・ごめんなさい・・・。解りません。」


花子ママは頭を下げた。




「・・・そうかい・・・悲しいねぇ・・・。

せっかく数十年ぶりに帰ってきたっていうのに・・・。」






・・・帰ってきた??



花子ママはとっさに、もう一人の自分の顔を見た。




・・・私だ・・・・いや・・・・私にソックリだ・・・。



でも・・・




・・・微妙に違う・・・!



私はこんなに化粧が下手では無い!





「・・・アナタ・・・私じゃないのね?」



「あたり前だよ!何言ってんだいこの子は!」



もう一人の自分・・・だと思っていたその女性は軽くこぶしを作り、花子ママの頭をコツンとやった。



「とにかく、こんなに雨降ってるんだから家に入るよ! 沙織の大好物、作っておいたから、さっさと食べな!」




・・・大好物?



 自分にソックリのその女性が玄関のドアを開けた。



家の中から、良い香りが漂ってきた。




「こ・・・この香りは・・・。」



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