雨の夜の出来事(2)

創作の怖い話 File.192



投稿者 でび一星人 様





ピチャッ・・・




 ピチャッ・・・





 ピチャ。




足音は、花子ママの目の前で止まった。







目の前に、二本の足が見える。






 どうやら、その人は花子ママの方を向いているらしい。




花子ママは、ゆっくりと顔を上げた。



そして、その相手の顔を見て驚いた。

















「ん・・・ん?・・・・丼丸さん!」



「花子ママ・・・何しとるんや?こんなところで?」




真っ赤な傘をさした、神谷 丼丸が立っていた。



「あぁ・・・傘持ってなくて・・・急にこんな雨が降ってきたんで・・・。」



困った顔でそう言う花子ママ。



「なんやぁ〜。せやから、タクシーで帰ったらよかったんや。」



「・・・ごめんなさい。丼丸さんの言う通りだわ。」



「はっはっは。まあ、いろいろあるわな。人生。」



丼丸はそう言って笑うと、花子ママに傘を手渡した。

「それ、使いぃや。ワシは今日は濡れても良い日やさかいに。」



「・・・え?悪いです!」



「かまへんかまへん。 もう、差し出したもんを返すんやないで!」



丼丸は半ば強引に、傘を押し付けるように渡した。



そして雨に打たれながら帰ろうとして、何かを思い出したように立ち止まった。



そして花子ママに、


「・・・あれ?せやけど・・・花子ママ、あんた、さっき店の反対方向に引き返して歩いて行かへんかったか?」



と、不思議そうな顔をして聞いた。



「・・・え・・・?私はずっとこっちに歩いて来たけど・・・。」



別に寄り道も何もしていない。


花子ママは、まっすぐ一本道を歩いてきたのだ。




「おっかしぃなぁ・・・。確かに、向こうに花子ママが歩いて行ったんを見たんやけど・・・まあええわ。


もしそうやとしたら、今ここに花子ママがおるわけ無いわな。がっはっは。ほな!」



 丼丸は雨にうたれながら歩いていった。





 花子ママは、丼丸の言葉が少し気になりながらも、真っ赤な傘をさして家に向かった。






 ピチャッ・・・




 ピチャッ・・・。




ザー・・・



 雨の音と、自分の足音が夜の闇に響いている。




5分ほど歩き、花子ママは家に到着した。

一人で暮らすには広い家。



小さい頃は両親と共に暮らしていた家。



花子ママは鍵を取り出そうと、鞄をゴソゴソとやりだした。







 ピチャッ・・・




ピチャッ・・・



    ピチャッ・・・




ふと、



その時。





後ろから足音が聞えている事に気がついた。




(誰だろう・・・。)



ゆっくり振り向く花子ママ。





後ろを振り向き、ギョっとした。





「え・・・。」




花子ママは鞄を落っことした。


そしてすぐに拾いあげる。




向こうからは、真っ赤な傘をさした人影が近づいてきていた。



そして、その顔は・・・








花子ママ本人だった。





(ヤバイ!)




とっさに花子ママは物置のかげに隠れた。

ピチャッ・・・




  ピチャッ・・・。



足音は近づき、そして玄関の前で止まった。




ガチャッ・・



ガチャガチャガチャッ・・・。





どうやら、その【もう一人の自分】はドアノブをガチャガチャやっているらしい。





 花子ママは怖かった。


体は震えていた。









   ガチャリ。






(・・・えっ・・・。)






その、【もう一人の自分】は、玄関を開けて、自分の家に入っていった。




慌ててドアに駆け寄る花子ママ。





 ガチャッ!



ドアノブを回す。






・・・中から鍵がかかっている。






(え?え? どういうこと?どういう事?どういうこと・・・?)



花子ママは混乱していた。







 そんな混乱している花子ママの目の前のドアノブが、ゆっくりと回る。




ガチャリ・・・。





 防衛本能が働き、またとっさに物陰に隠れる花子ママ。





 中から出てきたもう一人の自分は、



「・・変ねぇ・・・。ネコかしら・・。」



と言って、またドアをガチャリと閉めた。





(一体・・・これはどういう事・・・?)


花子ママは泣きそうになっていた。


でも一応、



「ニャ〜ン」



ネコの鳴き真似をしておいた。




『なんだ、イタチか・・・。』


中から自分の声が聞えた。

ザーーーー・・・



雨はまだ止まない。



花子ママは、自分の家の軒下にたたずんでいた。




そして頭を整理する。






まず、土砂降りの中、家に帰ってきた。


丼丸さんに借りた真っ赤な傘をさして。






すると、真っ赤な傘をさした【自分】が後ろから帰ってきた。



ただならぬ恐怖を感じ、とっさに物陰に隠れた。



帰ってきた【自分】は、ドアをガチャガチャと開け、中に入っていった・・・。









 まるで、自分の家のように・・・。





(私は夢でもみているのだろうか・・・。)


花子ママは頬っぺたをつねった。


雨に濡れた手でつねった為、化粧が少し剥げた。



(痛い・・・。これは夢じゃ無い・・・。)



 花子ママは困惑し、その場に座り込んだ。

雨は依然として降り続く。


 


 今、自分に起こっている事・・・。



現実では考えられない事・・・。








裕史・・・。



ふと、裕史の顔が頭の中に浮かんだ。





裕史とは、元旦那の名前だ。





(そういえば・・・裕史はよく霊が見えるとか、おかしな話をしてたっけ・・・信じた事なかったけど。)



 離婚して、元旦那と連絡を取ったのは本当に1度か2度しか無い。



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