恐怖体験(7)

創作の怖い話 File.183



投稿者 でび一星人 様





おまけに20歳を超えたので言葉の語尾にやたらと【w】をつけなきゃならない。



「そんなに緊張するなよ!モモマー!」

先輩は僕をリラックスさせようと気をつかってくれた。


「は・・・はいw」

僕は緊張を隠せないまま席に着く。

飲み物が出され、僕と先輩がしばらく話しをしていると、2人の女の人がやってきて隣に座った。

「こんばんは。」

僕の隣に座った女の人はそう言っておしぼりを手渡した。

「こ・・・こんばんはw」

僕は緊張のあまり女の人の顔を見る事ができなかった。

女の人もそれを察したらしく、あまりムリに話しかけるような事はしなかった。

ただ、とても優しく、僕から話を引き出すように接してくれた。

 お酒も入り、10分ほどすると僕も序々に緊張が解けてきて、

そこで初めて女の人の顔を見たんだ。

 とてもキレイな人だった。

商売柄少し化粧は濃い目だったけど、元の顔立ちも整っているんだろうなと察する事が出来た。

それと同時に、僕はその女の人の面影を過去に見た事があるような気がした。

・・・母さんか? いや、違う。

誰だろう・・・。

答えが出ない。


「オイ!モモマー!楽しんでるか? これ、食べなよ。」

先輩がお皿に入った団子を渡してくれた。

「あ・・ありがとうございますw」

僕がそれをうけとると、僕についてくれた女の人は

「わぁ。おいしそうなお団子やなぁ。」

と、関西弁が少し出てうれしそうに笑った。

「・・・あれ?お姉さん、関西出身なの?ww」

僕も子供の頃はずっと大阪に住んでたから、そこに反応したよ。

「はい。 モモマーさんもそうなんですか?」

女の人はそう言って、爪楊枝で団子を一つ刺し、僕に食べさせようとしてくれた。

・・・僕はその爪楊枝で団子を刺す動作を見て、気づいたんだ。

この女の人は・・・。


「・・・花子ちゃん?・・・w」

僕はとっさにそう口にしていた。

女の人は驚いたように僕の顔を見た。

そして向こうも気づいたらしく、

「も・・・もしかして、坊ちゃん?」

と、キョトンとした顔で言ったんだ。

そう。

この女の人は、父さんが回転焼き屋をやってた時に雇っていた花子ちゃんだったんだ。

女の人が花子ちゃんだとわかり、僕たちは昔話に花を咲かせたよ。

失敗して塩辛い回転焼きを作った事。

やたらと回転焼きが膨らんだ事。

屋台が爆発して皆真っ黒になった事・・・。


昔は真剣に凹んだ失敗も、

今はとてもおかしい笑い話として語れた。

花子ちゃんと話している時間はあっという間に過ぎて行き、

僕と先輩はもう店を出なきゃいけない時間になった。

「・・・花子ちゃん、また、会いに来ていいかな?w」

僕はきっと嬉しかったんだと思う。

一人、東京に就職して、そこで昔の知り合いに会えた事が。

花子ちゃんは、「私も待ってます。でも・・・ムリはしないで下さいね。」と、気を使って言ってくれたね。

その日僕はテンションMAXで先輩を送った後家に帰った。

布団で横になってもなんだか胸が収まらずに、なかなか寝付けなかった。




数日後

 「モモマー、お前、あの花子って子に惚れたんじゃないの?」

休憩中、ボーっとしている僕に先輩が言った。

「ち、違いますよw何を根拠にそんな事・・・w」

「ははは、お前、わかりやすいからな。今日店行くか?」

「・・・行きます・・・w」

「本当にわかりやすいな、モモマーは。」



 店に行くと、花子ちゃんはいつも笑顔で僕の隣に座ってくれた。

花子ちゃんの年齢は僕より6つ上。

まだ二十歳の僕にとって、花子ちゃんは大人の女性という感じで、

会うたびに僕は花子ちゃんの魅力に惹かれて行った。


 何度か店に会いに行った時、花子ちゃんは僕に電話番号を書いた紙を渡してくれた。

「わざわざお金払ってまで何度も会いに来てくれるの悪いですし・・・。」と言って・・・。


 
 それから2人は電話で連絡を取り、花子ちゃんが休みの日に食事をしたりした。

そしていつからか、花子ちゃんと一緒に居る時間が僕の癒しの時間になっていった。



 何度か会ううちに、花子ちゃんは自分の身の上話を聞かせてくれるようになった。

花子ちゃんはが中学三年の頃、戦争が終わった。

家族は戦争で全て失った。

避難所の学校に逃げる途中、花子ちゃんは家族とはぐれた。

そして倒れて気を失った。

幸か不幸か、花子ちゃんはそれで助かったのだ・・・。

避難所には沢山の爆弾が投下された。

絶対に安全とされていた場所で多くの人が死んだのだ。

 やがて戦争は終わった。

だが、全てを失った花子ちゃんには【生きる】という試練が待っていた。

何も無い中、一人で生きていかなければならなかった。

花子ちゃんは自らの体を売って生きる糧を得た。

そうしなければ生きて行けなかったのだ。

 序々に花子ちゃんの心は陰に覆われていった。

そんなある時だった。

「ねえちゃん、昼とか暇なんか?w もし暇なら、ちょっと考えてる仕事あるんやけど手伝ってくれへんか?ww」

仕事前、公園で座り景色を眺めていた花子ちゃんにそう声をかけたのが僕の父さんだった。

花子ちゃんは少し考え、お金はいくらあっても損は無いと言う結論を出し、

例の回転焼き屋を手伝う事にした。


昼は回転焼き屋。

夜は別の仕事。



 そんな大変な生活だったが、

花子ちゃんは序々に明るい心を取り戻していった。

屋台で回転焼きを売るときのお客さんの笑顔が、

心に光を与えてくれたらしい。



・・・そこまで話した後、花子ちゃんは静かに泣き出した。

「・・・どうしたの?w」

僕は心配して聞いた。

花子ちゃんは泣きながら、

「・・ゴメンネ、坊ちゃん。 坊ちゃんが優しくしてくれるのは嬉しいけど・・・

私はこんなに汚れた女なんです・・・。

だから坊ちゃんは・・・私なんか構わずに、他に良い人を・・・。」

花子ちゃんがそこまで言った時、

僕は思わず花子ちゃんを抱きしめていたんだ。

「・・・もう泣かないでw」

花子ちゃんの涙を止めてあげたいと思った。

僕にとってこの人は大切なんだと解ったんだ。

そう。

僕は生まれて初めて恋をしていたんだ。


「・・・ありがとう・・・。」

花子ちゃんは一言そう呟いた。



「また、会おう。

いでも会えるじゃないw」

その日の別れ際、僕は笑顔で花子ちゃんにそう言った。

花子ちゃんは優しい笑顔で頷いていた。

彼女と僕の心の距離がぐっと縮まったような気がしたんだ。

・・・気がしたんだ・・・。



 次の日、

花子ちゃんは町から姿を消した。

連絡が取れずに心配になった僕は店に行き、

他の女の子から「昨日急に辞めたよ。」と聞かされたんだ。

僕は思わず花子ちゃんを探しに町を駆け周った。

アテは無かったんだけど、そうせずには居られなかった。

・・・でもやっぱり見付かるわけもなく、

深夜、疲れ果てた僕は道端に座り込んだ。

そこで僕は泣き崩れた。

僕はまた独りになってしまったんだと感じた。



 次の日、僕は仕事を休んだ。

何もする気になれなかったんだ。

すると夕方先輩が家に来てくれた。

怒られる・・・そう思った。

・・・でも、先輩はやさしく「明日は来いよ!」とだけ言って帰って行ったんだ。

先輩は、昨日店に行き、女の子から僕の事を聞いていたそうだ。

情けないのと、有り難いのと、色んな感情がこみ上げてきて僕はまた泣いたよ。

でも次の日は会社に行った。

先輩は僕をかばってくれた。

先輩の為にもがんばらなきゃいけない。

僕は気持を切り替え、仕事に励む事にした。

 花子ちゃんが姿を消したのは紛れも無い事実。

自分と会いたくなかったのかもしれないし、

他に好きな人が出来たのかもしれない。

 僕は花子ちゃんを思い出にしてこれから生きて行こう。

そう心に決めた。



 それからの僕は、仕事が全てになった。

ただがむしゃらに突き進んだ。

失敗もした。

でもめげなかった。

何度も何度もぶつかっていった。


そうこうしてるうちに、だんだん仕事にも馴れ、それなりに結果も残せるようになってきた。

 いつからか、僕はオトボケキャラが定着してしまった。

そうしたほうが営業先でのウケが良いからだ。

 

 そんなある日、少しばかりゆとりが出て来た僕は花子ちゃんの事を思い出した。

僕は色恋に振り向きもせず、ただひたすら仕事に打ち込んでいた。

接待でそういうお店に行く事はあったが、女の子に心を奪われる事は1度もなかった。

きっと、それは仕事だけを見ていたからではなく

僕の心にはずっと花子ちゃんが居たからだろう・・・。



 25歳のある日。

僕は花子ちゃんを探そうと思った。

仕事に余裕が出て来たのと、

後は自分の気持の中のモヤモヤを吹っ切る意味もあった。

過去の存在の花子ちゃんを心に抱えたまま、新しい女性を好きになんかなれないと思ったからだ。



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