恐怖体験(3) |
創作の怖い話 File.179 |
投稿者 でび一星人 様 |
|
「うんうん。 僕のフルネーム、【百瀬 真一】って言うんだ。 だから皆僕の事はモモマーって呼ぶんだよ。」 「そ、そうなんですか。 では、お言葉に甘えてモモマー。」 「フフ。鍋衣ちゃんか。 元気そうで、本当に良い嫁さんだね。 嬉しいよ。心から。」 「い、いや・・・そんな事あれへんですよ・・・。あ、無いですよ・・・。」 モモマーとぎこちない会話が続く。 「あ、あの、モモマー 一つ気になる事聞いても良いですか・・・?」 「ん?なんだい。なんでもどうぞ。」 「あの・・・息子の百瀬典男君、やたらと語尾に 【w】←が付くみたいなんですけど、 アレは昔からですか?」 「あぁ・・・。アレか・・・。 アレはね、百瀬家に13代続いてきたしきたりなんだよ。」 「し、しきたり?」 「そう。しきたり。 百瀬家の男児は、20歳を超えると語尾に【w】をやたらと付けなきゃいけないんだ。 そして還暦(60歳)を迎えたら【w】を付けなくて良いようになる。 そういう決まりがあるんだよ。」 「そ・・・そうなんですか・・・。 それでモモマーは【w】←をつけずに話しているんですね・・・。」 「当たり前だよ。 あんなめんどくさいの、好き好んでつけるワケないでしょ〜。」 「そうですよね。ハハハ がっはっはっは」 「ケラケラケラ。」 モモマーとウチの笑い声が軽く家にこだました。 「それより鍋衣ちゃん。」 「ん?なんや・・・なんですか?」 「鍋衣ちゃん、無理やり敬語使ってるでしょ?」 「え・・・。」 「ムリしなくて良いよ。鍋衣ちゃん、典男と話してる時バリバリ関西弁つかってたよね?」 「あ・・・ばれてましたか・・・ハ ハ ハ・・・。」 「ムリは体に毒だよ〜 ささ。 遠慮せずにタメ口どうぞ。」 「ほ、ほんじゃあお言葉に甘えるわ。モモマーエエ奴やな。」 「フフ。歳とると丸くなるんだよ人間。」 モモマーはそう言うと照れた感じでポリポリと頬を掻いた。 「・・・ん?」 ふと、モモマーの頬に小さな丸い痣があるのを見つけた。 なんとなく気になり、ウチがじっとそれを見つめていると、 「・・・鍋衣ちゃん、気になるのかい? ・・・この痣が・・・。」 ピカッ!! モモマーが静かにそう言った時、 窓が一瞬眩しく光った。 そして数秒後・・・ ドーン!・・ゴロゴロゴロ・・・。 どうやら雷のようや・・・。 ザー・・・ 雷鳴を合図にしたように雨が降り出した。 モモマーは痣を指で触りながら、窓から雨を眺める。 「雨か・・・。そう言えばあの時も、雨の降りしきる夜だった・・・。」 と、静かな表情でポツリと言った。 「モ、モモマー?何や、あの夜とか、痣とか、 何かあったんか?」 ウチがそう聞くと、モモマーは静かに目を閉じた。 「・・・鍋衣ちゃん、 今から僕がする話は、息子の典男にもした事の無い話だ。 なんだか鍋衣ちゃんは不思議な雰囲気を持ってるね。 ・・・あ、そうそう。 鍋衣ちゃんが聞きたいか、まだ意思表示を聞いていなかったね。 この頬の痣がどうして出来たか、 話せば長くなるんだけど、聞いてみるかい?」 普段なら、メンドイので間違いなくこういうのは聞かへんウチやけど、 今日はなんだか空気的に聞いてみようと思い、ウチはゆっくりと頷いた。 「フフ。 本当に長くなるから、もし疲れたら言ってね。」 モモマーはゆっくりと話し始めた。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 ―――――昭和20年―――― 米軍の都心への空襲は日に日に激しくなり、 当事小学三年生だった僕は、大阪に住んでいる家族と別れ集団疎開で鳥取に行く事になった。 鳥取はのどかなものだったよ。 眩しい太陽。 キレイな海。 そして沢山の自然に囲まれて、 友達も沢山出来たし、家族と離れ離れで暮らしてる寂しさを忘れさせてくれるような毎日だった。 八月――― 終戦。 日本が負けたと言うのを先生に聞かされたんだけど、 僕らが暮らしていたところはのどかな所だったので、いまいちピンと来なかった。 しばらくして、母さんが僕を迎えに来てね。 あの時はなんだかしらないけど泣いたね。 嬉しさや安堵感や・・・。 よく解らないけど、色んな感情がこみ上げてきたね。 列車に乗り、大阪に帰って来た時、僕は目を疑ったよ。 疎開先に行く前の景色は微塵も残っていなかった。 あたり一面瓦礫の山・・・。 残ってる家なんて本当に一つもなかったよ。 それに、まだ燃えてる瓦礫もあったね・・・。 「真一、さあ。こっちよ。」 母さんに手を引かれながら、僕は歩いた。 しばらく歩いていると、父さんが目に入った。 父さんは、なにやら一生懸命に家を作っていた。 僕は目を疑ったよ。 なんでって、まだ周りでは瓦礫が燃えたりしてる所で家を建ててるんだよ? そんなアホな事する人は他に一人もいなかったよ。 母さんは父さんの所に駆け寄り、 「こんな時になんで家なんて立ててるんですか!」 と呆れてるような怒ってるような口調で言ってたね。 父さんは、 「アホ!今やから建てるんや!w 早く建てたもん勝ちや!!ww」 と母さんを一喝し、継続して家を建て続けていたね。 鍋衣ちゃんは【家を建てる】というのにピンと来ないかもしれないけど、 終戦後の大阪では、【家セット】みたいなのが売られてたんだよ。 壁になる木材、屋根、窓、玄関、畳。 これらが付いて1000円くらいだったかな。 【豪邸】とは言えないけど、組み立てたらそこそこ住める家になるんだよ。 父さんはそれを3セット買って来て、セカセカと作ってたんだ。 周りの人に手伝ってもらったりしながらね。 父さんは元々木材を取り扱う事業をしていてね。 戦争で全てを失ったけど、 あの時の父さんの目は【また1からやってやる!】って希望に燃えてた目だったんだろうね・・・。 しばらくして、あたりが落ち着いてくると父さんが急いで建てた家のありがたさが解ってきたよ。 周りはまだ瓦礫だらけで、ようやく皆がポツポツと家を建て始めた時に、 僕らは雨風をしのげる家で寝ることができたんだからね。 父さんは更に色々と考えていたようでね。 家を建てる時に手伝ってくれた人達を、その家に一緒に住まわせたんだ。 「困った時はお互い様でっせw」って言ってね。 その為に【家セット】を3つも買って来てたんだね。 いくつもの家族の奇妙な集団生活だったよ。 でも僕は楽しかったなぁ。 当事は珍しい一人っ子だったから、大勢でワイワイ過ごすのが楽しくて仕方なかった。 同年代の知り合いからは、この頃食べる物が無くひもじい思いをしたって話をよく聞くんだけど、 僕に関して言えばまったく食うに困った事は無かったよ。 どこから仕入れてくるのかわかんないんだけど、 父さんが食糧を持ってくるんだよね。 事業をやっていた時に蓄えてたお金や、 その事業で作り上げたコネや、 当事子供の僕はわからなかったけど、 色んなルートがあったんだろうね。 辺りの瓦礫もだんだんと片付いていき、 仮設の家も大分建ってきた頃、 台風が来てね。 それもかなり大きいのが。 あの時は焦ったね。 なんてったって【家セット】で作った家。 家ごと浮いたりするんだよ? 生きた心地がしなかったね。 外に出るわけにもいかない。 出たらそれこそ地獄。 僕らはポンポン浮き上がる家でじっとしてるしかなかったんだよ。 その台風は風だけでは治まらなくてね。 洪水を巻き起こした。 風の次は水。 水は量を増し、家にも浸水してきた。 周りの人は学校に避難して行く。 学校は3階か4階まであるからね。 周りの人は非難していくのに、父さんは寝転がってるんだよ。 さすがに僕も怖くなってね。 「父さん!非難しなくていの!?」 って聞いたんだよ。 父さんは 「大丈夫やw お前も家でじっとしとけ。」 と余裕をかまして寝てる。 母さんはそんな父さんを不安げな顔で見てるだけ。 そうこうしてる間にも、水かさは増すばかり。 →恐怖体験(4)へ ★→この怖い話を評価する |
|
[怖い話] [創作の怖い話4] |