恐怖体験(2)

創作の怖い話 File.178



投稿者 でび一星人 様





「い、いやwww何もないよ父ちゃんwww それより、今日はどこか泊まるアテはあるのwww?」

「ん。いや。何も考えずに来ちゃったよ。」

「そ、そうなんだwww じゃあ、とりあえずウチに泊まりなよwww長旅疲れたろうから家かえろっかwww」

「そうだね。そうさせてもらうよ。」

「OKwwwじゃあ、鍋衣ちゃん、ちょっと店番頼むね。

父ちゃんを送ってくるよwww」

「りょ、了解ですわ。ホ ホ ホ・・・。」

・・・このキャラ疲れる・・・。

 そしてモモ天はオトンを連れて、一旦自分の家へと帰っていった。

「・・・ふぅ・・・。一体何やこの展開は・・・。

なんでウチがあんな中年の嫁やねん!

・・・まあ時給増えたからエエけども・・・。

ぶつぶつ・・・。」


ウチがぶつぶつ言いながら店番をする事15分。

「ただいまww」

モモ天が帰って来た。

「・・・オカエリ・・・。」

「www鍋衣ちゃん、怒ったwww?」

「・・・別に怒っては無いけど・・・とりあえずワケを話してもらおうか・・・。」

「・・・うんw」


 モモ天はゆっくりとワケを説明し始めた。

モモ天の説明によると、

モモ天が物心ついた頃には、既に両親は離婚していて、

モモ天は父に育てられたらしい。

モモ父は仕事が安定せず、全国各地を点々とした。

モモ天も、中学まではそんな父に連れられていろんな学校を点々としたらしい。



そんな生活が嫌になったモモ天は中学を卒業してすぐに就職。

そして働きながら夜間の定時制高校に通い、卒業後もうちょっと良い会社に再就職した。

 それから役20年の間、

モモ天自身がリストラに会ったりもしたが、月に1度は遠く離れて暮らす父と手紙のやりとりをし、

お互いを励ましあいここまでやってきたという事やった。


「モモ天・・・エエ話やないか・・・。」

その話を聞いたウチは涙ポロポロになった。

「うんwwwありがとねwww」

「・・・でも、モモ天、何や、大事な部分をもしかして話してへんのんちゃうか?

ウチがお前の嫁とかって、一体どういう事やねん・・・。」

「う・・・うんwそ、それはね・・・w」


 モモ天はモジモジしながら話しだした。

モモ天が30歳を過ぎた頃、

オトンがやたらと「結婚はまだか」、「孫はまだか」と言い出したらしい。

モモ天は適当にはぐらかしとったらしいが、

40歳近くになってくると、父も心配しすぎて、自分の行きつけのスナックのママとかを無理やり紹介しようとしてきたらしい。

さすがに身の危険を感じたモモ天は嘘を付いた。

「若くてカワイイ子と結婚したからwww一緒にコンビニ経営してるんだwww」

って・・・。









 「・・・えっらい迷惑やでぇ・・・モモ天さんよぉ・・・。」

ウチは腕を組み、超上から目線で言った。

モモ天の顔は汗まみれになった。

そしてモモ天は、

「ほ、本当にごめんなさい!鍋衣ちゃん!w」

と、凄い勢いで土下座しだした。


「ちょ・・ちょっと、そこまでせんでエエわ! おい、顔上げって!」

モモ天はオデコを床にこすり付けている。

ウチが持ち上げようとしてもものすごい力であがらない。

「ちょ・・・オイ!ところでなんでお前そんなに力強いねん!?」

モモ天の頭を引っ張りながらウチが聞く。

「ああww僕ね、こう見えても昔グレイシー柔術習ってたんだwww」

頭を床にこすりつけながらモモ天が言った。

「そ、それは凄いな!・・・っていうか、頭あげろや! その体勢キショイねん!」

モモ天は一向に顔をあげようとしない。

「鍋衣ちゃん!夫婦ついでにもう一つお願いがあるんだ!!www」

「な ん や ね ん! とりあえず顔あげろって!」

「お願いを聞いてくれるならあげるよ!ww」

「その理屈おかしいやろが! 早く顔を あ げ ろ !」

「お願いだよwww鍋様!」

「ヨン様みたいな言い方せんでもエエわ! とりあえずお願いって何やねんな!」

「・・・あのね・・・僕の父ちゃんさ、実はもう長くないんだよ・・・w それでね・・・

明日の夕方には家に帰るみたいなんだけど、

それまで鍋衣ちゃんに僕の嫁を演じてほしいんだよ・・・w

父ちゃんに心配かけたくないんだよ・・・w

お願いしますっ!」



 ウチは感動話に弱い。

父が長くないと聞いて涙が滝のようにあふれた。

「うわあああん。わ、わかったでぇ!モモ天! まかしときぃ! ウチが若美人妻演じたるさかいにな!」

モモ天はようやく顔をあげた。

「本当ww? ありがとうねw鍋衣ちゃんwww

ところで若美人妻って、

当てはまってるだけに反応に困るよwww」


モモ天の満面の笑みを見て、ウチはイラっとした。



―― PM10:00 ――


夜勤の高橋君が来たので、ウチとモモ天は着替えて店を出た。

ウチは家に電話をする。

「あ、もしもし、鎌司か?」

鎌司とはウチの双子の弟。

「鎌司、姉ちゃんちょっと今日友達の家に泊まるわ。

・・・え?男?

そ、そんなワケないやろ!

男として見てへんわアンナ奴!

え、あ・・・何でもない。

とにかく大丈夫やから。

うんうん。

オトンにも言うといて。

ほな!おやすみ!」


・・・これでよしっと。

ウチは夫婦を演じる為、

今日はモモ天の家に泊まる事になった。

あくまで【一緒に住んでる】という事にする為に。


「・・・ところでモモ天、一緒に住んでることにするとか言うてるけど、

女物の服とか下着とか家に無かったら、さすがにオトンもおかしいと思うんちゃうか?」

当然の疑問をウチは口にした。

「あwwwそれは大丈夫だよ鍋衣ちゃんwww

僕ね、女装が趣味だから、女物の衣類いっぱいあるんだよwww」


「・・・ウチ、やっぱり家帰る・・・。」

ウチは冷ややかな目でモモ天を見て、引き返そうとした。

「鍋衣ちゃん!そんな事言わずに助けてよ!!!www」

するとモモ天はまた地面に頭をこすりつけはじめた。

「わ・・・わかったから顔上げろって! 公衆の面前で恥ずかしいやろうが!」



 コイツは絶対誰とも結婚できへん!!!!

著しくそう思った。





 「やあ。君達遅かったねぇ。」

モモ天のオトンが玄関まで出迎えてくれた。

「ただいま父ちゃんwww」

「お、お父さま、ただいまですわ・・・。」

(鍋衣ちゃんwww堅いよ!)

モモ天が耳元で焦りながら言った。



「本当に、いつも息子が世話になってすまないねぇ。」

モモ天のオトンは丁寧に頭を下げた。

「い、いえ・・・。ウチのほうこそ典男さんに迷惑ばかりかけて・・・。」

う〜ん・・・こんなしゃべり方するのはムズガユイ。

「とwwとりあえず僕お風呂入ってくるねwww」

モモ天はそういうと浴室があるであろう方向へ歩いて行こうとした。

「ちょっとまちなさい!典男!」

モモ父が呼び止める。

「なwなんだい父ちゃんwww」

「君達夫婦だろう。一緒に入らないのか?」

な、なんて事を言うんやこのオヤジ!


モモ天はウチの顔をチラ見している。

この目は、あわよくば期待している目や・・・。

ウチはものすごい殺気あふれる目でモモ天を見返す。

死の危険を予感したであろうモモ天は、

「えwwwいっっうぃや、今日は別に入る日なんだよwww」

と弱冠噛みながら言った。

「・・・そうなのか・・・。なら入ってきなさい・・・。」

モモ天はそそくさと風呂場に歩いていった。

モモ父はなぜか残念そうな顔をして、イスに座る。


・・・ふぅ・・・。

・・・っていうか、なんでウチはこんな家に泊まる事になってもたんやろう・・・。

よく考えたらありえへん事や・・・。



 「鍋衣ちゃん・・・と言ったかな?」

モモ天のオトンが声をかけてきた。

「え?あ、は、はい。八木 鍋衣ですわ。」

「・・・ん?八木?」

・・・あ、しまった。モモ天と結婚してる設定やった・・・。

「あ、きゅ、旧姓が八木でして。アハ、アハハハハ。」

「あぁ。八木という名字だったんだね・・・。

そういえば、昔後輩に八木君という元気な子がいたなぁ。

元気にしてるのかなぁ。」


・・・ふぅ・・・。切り抜けた・・・。

モモ天のお父さんは、そう言うと、あらあじめ沸かしていたであろうお茶をウチに注いでくれた。

「あ・・・お父さんすいません・・・気がきかずに・・・。」

「いやいや。 僕の事は気にせんで。

あんなバカ息子の嫁になってくれただけで有り難いよ・・・。」

・・・本当はなってないんやけどね・・・。

モモ天のお父さんは、お茶をすすりながら続けて、

「それと・・・お父さんって呼ばなくてもいいよ。

【モモマー】で良いよ。」

「・・・モモマー?」



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