僕らの目指した甲子園(14)

創作の怖い話 File.173



投稿者 でび一星人 様





と僕の肩を叩いた。

けっきょくモヤシ君はボールが抜けずにそのまま守備に就いた。



 7回のウラ、

先頭打者の2番バッターをショートゴロ。

3番打者をセカンドフライに打ち取った。


やはり痛みは無くなったものの、貝塚君がしてくれたのはあくまで応急処置なので全力で投げる事は出来なかった。


そして二死ランナー無しでバッターは・・・。

『四番 ピッチャー 雪村君』


タケシ君との三度目の対決。

大阪近蔭高校応援団の声援も一段と大きくなる。

二度三度素振りをし、タケシ君が打席に入った。


 第1球。



カキーーン!



おもいっきり引っ張った打球はレフトスタンド上段に飛び込む特大ファールだった。


「鎌司ぃ!!!」

タケシ君が怒鳴った。

「お前の球はそんなしょんべんボールとちゃうやろうがぁ! しっかり放らんかい!」

・・・タケシ君・・・。

・・・そうだよね。

今日、君とは真剣勝負をしなきゃいけないんだった。

ゴメンね・・・タケシ君。

僕は振りかぶる。

そして第2球目をこん身の力で高めに投げ込んだ。





ブンッ!!!


「ストライクツー!」

タケシ君も豪快にフルスイングして転んだ。


そして僕を見て嬉しそうに笑う。

「鎌司・・・そうや。 それや!」

ヘルメットをかぶり直し、タケシ君はまた打席に入る。


そして振りかぶり、第三球。


僕の投げる球は決まっている。


高めのストレート・・・






ブン!


ズバン!




「ストライーク!バッターアウトぉ!」



「さすがや!鎌司!」

タケシ君はそう言って寂しそうにベンチに引き上げていった。

7イニングを終えた。

おそらくタケシ君はこれが最後の勝負になるかも知れないと思って全力を注いでいたのだろう・・・。



ズキン・・・


肩が少し疼いた。


8回のオモテ、先頭の貝塚君がレフトフライに終わった後・・・




カキーン!!



優真君の打球が空高く舞った。


そしてそのままライトスタンドに飛び込んだ。


「や・・・やったーーー!やったっスよオレ!」


飛び上がって喜びながら優真君はダイヤモンドを一周する。

2-1

親指高校は勝ち越しに成功した。

その後、4番下葉は三球三振。

どうした事だろう。

下葉は風邪が治ってからというもの、三振しかしていない。

ある意味【酔拳】的な男なのかもしれない・・・。



 5番の平田は三振。




8回のウラ、僕は大阪近蔭高校の5.6.7番を全て内野ゴロに仕留めた。


9回のオモテもタケシ君はウチの6.7.8番を三者三振。




 そしていよいよ

僕は最終回のマウンドに向かう。

 キャッチャーの下葉がマウンドにやってくる。

「鎌司!打順は下位打線。 お前の球なら絶対に抑えられる!

ムリはすんなよ!」

「・・・ああ、心配ありがとう下葉・・・。」




 試合再開

先頭の8番打者をセカンドゴロに打ち取る。

「くそう!!」

八番打者は、1塁にヘッドスライディングをした後泣いてベンチに戻っていった。


大阪近蔭の選手は全員ベンチの中で座らずに立っている。

9回ワンアウト。

1点ビハインド。

彼らの夏がもうすぐ終わるかもしれない。

そんな状況で座ってなんか居られないのだろう。


9番打者の所で代打が告げられた。

震えている。

背番号は15

おそらく三年生で今まで試合に出ていなかった選手だろう。


ズバン!!


「ストライク!バッターアウト!」

「グ・・・。」

背番号15の選手は泣きながらベンチに帰っていった。

その選手を笑顔で出迎え、タケシ君は肩を叩いている。


 タケシ君・・・君は人間としてもとても大きくなったんだね・・・。



 9回ウラ、ツーアウトランナー無し。

最後の打者が打席に入った。



 初球―――

簡単にひっかけた打球はショートの優真君の所に飛んだ。

優真君は軽快に捌き、1塁に投げた。

打者走者はヘットスライディングをする。

ファーストの一枝君がボールを取る。










「アウ・・・セ、セーフ!」



一枝君がボールを落としたようだ。

「ス、スイマセンでごわす・・・。」

1塁に出た選手はガッツポーズを取る。

大阪近蔭ベンチは選手総動員で1塁に生きた選手に激を飛ばす。


 2番の選手が打席に入る。



カキーン!


レフト前に運ばれた。


ツーアウト1.2塁。

バッターは3番。


 ここに来て、肩の痛みが蒸し返してきた。


とっさにセカンドの貝塚君が駆け寄る。

「・・・鎌司さん、落ち着いて。

冷静に打たせてくれたら大丈夫です。

四番の雪村以外は打たせてくれれば大丈夫です。

冷静に。

ここで斬りましょう。」


・・・貝塚君はいつも冷静だな・・・。

まだ15歳にして凄い男だ・・・。


 3番打者が打席に入る。

ネクストバッターズサークルにはタケシ君。

第1球を僕は投げ込む。



ズキン!


肩に激痛が走った。




ガシッ!



痛みの為に、僕はコントロールミスをした。


「デ、デドボール!!」


 足に投球が当たった3番打者は転びながらガッツポーズを取った。

そしてタケシ君に声をかける。

「や・・・やったで雪村!

なんとか繋いだで!

後は・・・後は頼んだで!」


涙目でそういった3番打者は、立ち上がる事が出来ず、

代走で出て来た選手が代わりに1塁に走って行った。



9回ウラ

2-1

二死満塁。


1打出れば逆転サヨナラのピンチ。


ここでバッターは四番の雪村タケシ。


「よお回してくれたお前ら!

お前らの思い、無駄にはせえへんで!」


タケシ君はゆっくりと、そしてしっかりと大地を踏みしめ打席に向かう。



→僕らの目指した甲子園(15)



★→この怖い話を評価する



[怖い話]


[創作の怖い話4]