僕らの目指した甲子園(13)

創作の怖い話 File.172



投稿者 でび一星人 様





「八木さん、どうしたんスか?えらいコントロール乱れてますが・・・珍しい。」

優真君は基本勘で生きているので気づいていないようだ。

 そんな優真君をスルーして貝塚君がとある提案をした。

「鎌司さん。

とりあえずこの回は優真に投げてもらいましょう。

おれがショートに入ります。

鎌司さんはセカンドお願いします。

鎌司さん左投げですが、大丈夫ですよね?」


「・・・い、いや、僕がちゃんと投げるよ。

大丈夫だから・・・。」

「鎌司さん! 今は我慢してください。

この回が終わればおれが応急処置します。

だから今は優真を信じてマウンドを譲って下さい。」


貝塚君がいつになく強い口調で言っている。

きっとなにか策があるのだろう・・・。

「・・・

・・・

・・・わかったよ。

優真君、まかせたよ。」

僕はボールを優真君に手渡した。


「え?え? オレが投げるんスか???」

 優真君はマウンドに駆け寄ったどさくさに紛れて居眠りしていたようだ。

【立ち寝】で。

しかしそこは勘で生きる男。

下位打線という事もあり、この回を無失点で切り抜けた。

「・・・ナイスピッチング!優真君・・・。」

「いやぁ〜。照れるッスよぉ〜。」

優真君は嬉しそうだ。


ベンチに戻ると、貝塚君がカバンを持って僕に声をかけてくる。

「鎌司さん。 この回おそらくおれたちに打席は回りません。

ちょっと、裏まで来てください。」


貝塚君に言われるがまま、

僕はベンチの裏に歩いていく貝塚君について行った。

「じゃ、鎌司さん、服を脱いで横になって下さい。」

「・・・え?」

唐突にこんな事を貝塚君が言うものだからキョトンとした。

「・・・鎌司さん、説明は後です。

この回で肩の痛みをどうにかしたいんでしょう?」

「・・・あ、ああ。わ、わかったよ・・・。」

貝塚君の事だから大丈夫だろう。

僕は言われるがままに服を脱ぎ、

通路に置いてあるベンチの上でうつ伏せになった。


「少しチクっとしますよ・・・。」

貝塚君がそう言った瞬間、



ズキン!


肩に何かが刺さったような痛みが走った。


「・・・痛い・・・。」

肩を見てみると、大きな針が刺さっていた。

「・・・貝塚君、これは・・・?」

「ええ、実はおれの実家、針治療やってましてね。

小3の頃から見ててある程度の治療ならできるんですよ。」

「・・・そ、そうなんだ・・・。」

貝塚君はその後もカバンから大きな針や小さな針を取り出し、

合計で16本僕の肩に突き刺した。

最初は刺されるたびに激痛が走っていたのだが、

10本を超えたあたりからほとんど痛みを感じなくなった。


「後はこれに電気を通せば完成です。

鎌司さん、もうちょい我慢しててくださいね・・・。」


貝塚君はなにやらコードのようなものを取り出して、

その先についている金属制の洗濯バサミで僕に刺さっている針を挟んだ。

「ちょっとビリっとしますよ鎌司さん・・・。」


 貝塚君がスイッチを入れると、心地よい電気が肩に流れた。

「・・・重症ですね・・・鎌司さん・・・。 電流強めますね・・・。」



バババババババ!

閃光が飛び散った。

僕の体の骨が透けて見えた。

タイム○カンシリーズの電撃くらったシーンみたいなあの感じだ。


 「・・・完了です、鎌司さん。」

貝塚君は針を抜いた。

「肩、回して見てください。」

貝塚君が言うままに、肩を回してみる。

「・・・痛くない・・・。」

肩の痛みが消えていた。

「鎌司さん、とりあえずこれは応急処置です。

痛みを感じにくくしただけなんで、当然後で反動が来ます・・・。

だから・・・だからムリはしないで下さい・・・。

ムリしちゃうと、もうボールを投げられない体になってしまう危険がありますので・・・。」


「・・・解った・・・ありがとう、貝塚君・・・。」

 貝塚君にお礼を言い、服を着替えていると・・・

「鎌司さん!鎌司さんっ!!!」

中田君がダッシュでやってきた。

「・・・あ!鎌司さんこんなところに居たんですか!

鎌司さんの打席ですよ!急いで下さい!

二死満塁です!頼みますよ!」


 二死満塁?

「・・・わ、わかった・・・すぐ行くよ、ありがとう・・・。」

僕は慌てて服を着てグラウンドに向かって走った。


 バットを手に取り、グラウンドに出ると太陽の強い日差しが僕を照らした。

「お!出て来たな鎌司!」

タケシ君が僕を睨みながら言った。

お互いに気合は十分。

7回のオモテ

二死満塁。

この試合、もうこんなチャンスは訪れないだろう・・・。

1塁上のモヤシ君を見ると、右側のメガネが割れて、メガネフレームにボールが食い込んでいた。

(モヤシ君・・・君は、顔面デッドボールをくらってまでもチャンスを作って・・・。)

二度三度素振りをする。

大丈夫、肩は痛くない。

「いくで!鎌司!!」

タケシ君の投げた1球目。

ボールは風を切りながら僕に向かって来た。

ヤバイ!あたる!


とっさに身をかわす。


ククッ・・・


ス、スライダー!?

ズバン!


「ストライーク!」

どうやらボールは変化して内角ギリギリに入ったようだ。

なんてキレの良い変化球なんだろう・・・。

 タケシ君は無言でキャッチャーからの返球を受け取る。

満塁の為、1球1球に神経を集中させているようだ。

 1球目に内角を意識させつつストライクをとったタケシ君。

次は外か?

2球目。

僕の読み通り、外角の低めにストレートが投げ込まれた。

ズバン!


「ボール!」

しかしわずかに低くボール。

タケシ君は顔をしかめる。

ストライクとコールされても仕方のない高さだったからだ。

 そして第三球。

また同じコースにボールが来た。

際どいコース。



ズバン!


「ストライーク!」


「・・・えっ・・・?」

僕は審判の顔を見た。

「ん?なんだい?今の判定に不服があるのかい? 主審権力で退場にするよ?」

「・・・。」

僕はヘルメットをかぶり直してマウンドのタケシ君に視線をやる。

タケシ君は帽子をかぶり直して深呼吸している。

やはり、あのタケシ君も満塁のピンチで緊張している。


・・・勝機はある・・・。

 僕はバットを更に短く持ち直す。


そして4球目


また外角低めいっぱいの同じコース。

読み通り!


僕は追っ付けてバットを出す。





ブンっ!



「ストライーク!バッターアウト!!!」


空振り・・・。


キャッチャーがワンバンドで捕球した球を僕にタッチする。


スリーアウトチェンジ。


タケシ君は「よしっ!」と言ってガッツポーズをしていた。


まったく同じコースに三球・・・。

最後のボールだけ、落としてきたのだ。


・・・してやられた・・・。


7回のオモテ、親指高校は無得点に終わってしまった。


「・・・皆、せっかく作ってくれたチャンスを生かせずにゴメン・・・。」

僕が謝ると皆は、

「何言ってんですか! 切り替えて行きましょう!」

と、逆に励ましてくれた。

モヤシ君も右側のメガネにハマったボールを必死に取り出そうとしながら

「普段力になれないのは僕らのほうだから・・・気にしないでね!」



→僕らの目指した甲子園(14)



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