僕らの目指した甲子園(10) |
創作の怖い話 File.169 |
投稿者 でび一星人 様 |
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「・・・内場先生・・・諦めたら・・・?」 僕が声をかけると、さすがにウチボ先生も観念したようで、ゆっくりと顔をあげた。 「・・・兄さん・・・ゴメン、私嘘言ってたわ。 華道なんてまったくわかんないの。 でもほら、なんか女の子っぽいかなって思って見得はってたの。 ゴメンネ。」 「なんだい!そうだったのか! 野球もステキじゃないか! 野球の監督をする女性もステキだよ! 自信持ちなよ! 歩!」 「ほ、本当?駆兄さん! よかったぁ。 私、勇気がわいてきたよ!」 ウチボは拳を握った。 「歩!兄さん、今日は頑張ってお前を応援するからね! 必ず勝って、家で祝賀会をやろう!」 「ありがとう兄さん! 私、バンバルからね! 頑張ってベンチで読書するわ!」 「ああ!がんばれ!」 ウチボとウッディー・・・。 ウチボに後から聞いたところ、2人は【二卵性の双子】らしい・・・。 ・・・そういえば名字が同じだった・・・。 顔もよく似ている・・・。 なぜ今まで気づかなかったのだろうか・・・。 僕は2人の会話を聞いて、 『そら、国語教師になるわこいつら』 という思いが口から出るのを押し込んで試合に臨む・・・。 「ケッケッケ・・・ようやくお前らを殺せるで・・・。」 整列の時、 対戦相手の【薬挫高校】の選手が不適な笑みを浮かべた。 「・・・中田・・・一枝・・・右本・・・相手にするんじゃないよ・・・ 僕たちは野球をするんだ・・・ わかったな・・・?」 僕は三人が触発されてはいけないと思い、釘を刺した。 「く・・・わかりましたよ鎌司さん・・・。」 中田は悔しそうだが納得してくれた。 「・・・ありがとう、中田。」 僕は精一杯我慢してくれている中田にお礼を言った。 「プレーボーイ!」 審判の掛け声とともに試合が開始した。 「がんばるんだよ!親指高校の勇者たちっ!」 スタンドからウッディー先生の大声が聞こえてきた。 さすが声を出す職業なだけあって、良く声が通る。 そして隣に座っている姉ちゃんは凄く静かだ。 やはり【ニガテキャラ】の出現により、普段の自分でいられなくなっているのだろう。 ものすごく不機嫌な表情をしている。 そんなスタンドの2人を見た後、僕はいつものように真っ直ぐを投げ込む。 ドシィ! ドシィ! ドシィ! ドシィ! ドシィ! ドシィ! ドシィ! ドシィ! ドシィ! 「ストライク!バッターアウト!チェンジ!」 今日も初回を三者三振に仕留めた。 「クックック・・・。」 三振したバッターが不適な笑みを浮かべながら守りに着く。 やはり、なにか不気味さを感じる・・・。 1回ウラ、 打席に向かう僕に中田が耳打ちをしてきた。 『鎌司さん・・・ホンマに気をつけて下さい・・・。 アイツら、きっと鎌司さんにボールをぶつけるとか、 そういう汚いプレーをしてくると思います・・。』 ・・・たしかに・・・。 情報によるとルールの枠内で殺人プレーをするという事らしいし・・・。 『わかった。ありがとう。』 僕がそう言うと、中田は頷いてベンチに戻って入った。 「ケッケッケ・・・。」 不適な笑みを浮かべ、相手ピッチャーがマウンドに登る。 わざとぶつける等という汚いプレーを本当にしてくるのだろうか・・・。 振りかぶり、ピッチャーが初球を投げる。 「ボール!」 外角に外れるボール球。 球速はそんなに速く無いようだ。 「ボール!」 「ボール!」 「ボール!フォアボール!」 全て外角に外れるボール球だった。 (当ててこなかった・・・。) やはり、中田君は心配しすぎていただけなのだろう・・・。 いくらなんでもぶつけてしまえばランナーを背負う事になる。 そんなチームにリスクのある野球はさすがにやらないんだろう。 僕はゆっくりと1塁ベースに着いた。 「ケッケッケ・・・。」 1塁手が不適に笑っている・・・。 僕は無視をした。 「ケッケッケ・・・無視しているんかい?八木さんよ。 エラい三振奪ってるみたいやなぁ。 もう有名人になってもうたな。アンタ。」 (なんだか人をバカにしたような喋り方だな・・・。) 「あ、そうそう八木さん。アンタが今立っている所、どこだかわかるかい?」 (・・・1塁ベースだけど・・・何が言いたいんだ・・・。) 僕は尚も無視した。 「ケッケッケ・・・今アンタが立ってる所は、 【地獄の入り口】や。 ケッケッケ・・・ケーッケッケッケッケ。」 ・・・地獄の入り口? 何言ってるんだろうこの1塁手は・・・。 僕が数歩リードをとった時だった。 バッ!! ピッチャーが急に牽制球を投げてきた。 (う・・上手い・・・全然解らなかった・・・!) 逆をつかれた僕は慌てて頭からベースに戻る。 「ボーク!ボーク!」 審判がコールする。 ・・・やはりボークか・・・全然わからなかったはずだ・・・。 「あぶない!鎌司さん!!!」 ベンチから中田の声が聞こえた。 「・・・え・・・?」 ガツン! 左肩に激痛が走った。 「オイこらぁ!お前!!!」 中田たちがベンチから一斉に飛び出してくる。 ・・・一体何がおこったんだ・・・。 俊足で1塁手に詰め寄ろうとする中田を1塁ベースコーチの右本が制する。 「落ち着けでゲス・・・。 ここで乱闘でもしてしまったらコイツらを試合で殺し返せなくなるでげしょうが!」 「はぁ・・はぁ・・・ で、でもよ、この1塁手、ワザと送球を取ろうとせんかったやろうが! それにピッチャー!お前もわざとぶつける所に放ったやろう!」 中田の目は血走っている。 どうやらピッチャーが投げた牽制球が僕の右肩に当たったようだ・・・。 「な、何を言ってるんですか・・・変な言いがかりやめてくださいよ・・・。なあ。ピッチャー。」 「ああ、ファースト。 僕らは普通に野球をやってるだけなのに・・・。」 薬挫高校のピッチャーとファーストが急に真面目ぶった態度に変わった。 そんなヤリトリを見て駆け寄って来た審判が、 「おい!親指高校!球児らしい態度で挑みなさい!退場にするぞ!」 と、中田に上から目線で言い放った。 「何ィ・・・!」 中田は審判にも詰め寄ろうとした。 「・・・中田君!・・・僕なら大丈夫だから・・・。」 「・・・か、鎌司さん・・・。」 「・・・行くんだろ、甲子園に。」 じっと目を見てそう言うと、中田はようやく落ち着きを取り戻したようで、 「・・・そうでしたね・・鎌司さん・・・スイマセンでした・・・。」 と、審判にも謝りベンチに引き上げて行った。 僕はボークの為、二塁に進んだ。 ・・・ズキン・・・。 左肩が痛む・・・。 カキーン!! 試合が再開し、2番の貝塚がセンター前に鋭い打球を放った。 センターがそれをお手玉した。 僕はそれを見て三塁を蹴った。 「気をつけて!鎌司さん!」 ベンチから中田の声が聞こえる。 ・・・でも大丈夫。 今度は僕も送球に警戒している。 送球はワンバウンドしている。 大丈夫・・・。 僕はホームベースを踏んだ。 「セーフ!ホムイン!」 審判のコールが鳴り響く。 これで1点先制だ・・・。 ゴンッ!!! 頭に鋭い衝撃が走った。 →僕らの目指した甲子園(11) ★→この怖い話を評価する |
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