僕らの目指した甲子園(7)

創作の怖い話 File.166



投稿者 でび一星人 様





本の表紙には【デンドロアレチン】と書いてあった。

タケシ君は僕の話を聞いて、

「そうか・・・信じるか・・・っていうか有るか・・・。

オレはな、信じてへんかったんや・・・。

そんなもんある訳無いと思っとたんや・・・。」

と静かに言った。


「・・・『無いと思ってた』・・と言うと、今は信じているという意味だよね・・・?」

「・・・あぁ・・・そうや・・・。」

「・・・何があったのか話してみて・・・。」

「ありがとう鎌司・・・実はな、

大阪予選が始まる少し前、

オレは家の倉庫で古いバットを探しとった。

小学校の頃オトンに買ってもろうたマスコットバットや。

オレの原点とも言える。

そのバットで素振りをして、高校生活最後の大会を迎えたかったんや。

そんな時、倉庫で見つけたのがこの本や。

【デンドロアレチン】

なんとなく気になって、オレは本を部屋にもって行った。

そしてその夜、本をパラパラと捲ってみたんや。

ほしたらなんと、願い事が叶う方法というのが書いてあってな。

少し読んで見る事にしたんや。

 方法は至って簡単やった。

真っ暗な部屋の真ん中にろうそくを灯し、

床一面に本の通りに模様を描く。

模様は紙を敷き詰めて書いたんやけどな。

 そして本に書いてある呪文を唱えるんや。


・・・最初はほんの気休めのつもりやったんや・・・。

でも、オレたちのチームは勝ち進んだ・・・。

いや、勝ち進む事自体は不思議やなかった。

それなりにバランスの取れたチームやし、

OL学園ほどの総合力は無いが、チームワークは完璧やったからな。

・・・せやけど、勝ち方が異様な勝ち方やったんや・・・。

・・・途中で止めたバットにボールがあたってもうたのがホームランになったり、

ありえへんイレギュラーヒットがサヨナラ打になったり、

出てくる相手ピッチャーが毎回怪我をしてもうたり・・・。

オレは怖くなった。

たまたまにしては、おかしな事が起こりすぎる。

・・・そこで気づいたんや。

もしかしたら、まじない程度にやってたあの【デンドロアレチン】の願い事、

あれが原因やないんかって・・・。


 その日家に帰り、本のページをめくっていって怖くなったよ。

本の最後のページにははっきりと【呪】の文字が記されとったんや。

まさか呪いやなんて思ってなくてな、

オレはその日から【儀式】をやめようとしたんや。

・・・でも、なぜか部屋は勝手に儀式の準備がされてるんや。

そして耳元で声が聞こえるようになった。

【悪魔】の声が。

・・・実は今でも聞こえとるんや・・・。

『イ ラ ヌ コ ト ヲ ス ル ナ 』

って・・・。」



 タケシ君はそこまで話すと、ビクっとして後ろを振り返った。

「・・・後ろに何か居るの・・・?」

僕がそう聞くと、

「い、いや・・・今、耳をひっぱられたような気がしてな・・・はぁ・・・。」

タケシ君はそう言うと顔を伏せた。

・・・どうやらタケシ君はウソを言ってる様子じゃぁない。

僕も呪いに巻き込まれた人と接した事がある。

だからなんとなく解る。

タケシ君は精神を傷めて幻聴を聞いているのでは無い。

【ナニか】が憑いている。

 
 こんな時、僕が頼れる人は一人しか居なかった。

「・・・タケシ君、話はよく解った。

僕に付いてきて・・・。」

「鎌司・・・助けてくれるんか・・・。」

「僕が助けるわけじゃ無いけど・・・助けてくれそうな人に頼んで見るよ・・・。」




【おしょう】

僕がそう呼んでいる人が居る。

小学校1年の頃にたまたま知り合い、当事霊が普通に見えていた僕はよく遊びに行った。

そして簡単な除霊等いろいろと教えてくれた人だ。

 【おしょう】のお寺の前に着き、おしょうを呼ぶ。

「・・・すいません・・・。」


 おしょうが玄関を少し開け、その隙間からコチラの様子を伺っている。

・・・どんだけ警戒心強いんだよおしょう・・・。


 僕らは広い部屋に通されお茶を頂いた。

「鎌司君、またまた久しぶりやねぇ。元気やった?」

「・・・おかげさまで・・・なかなか顔を出せずにすいません・・・。」

「いやいや・・・しかし鎌司君、今回はまたエラいのを持ってきたねぇ・・・。」

「・・・この本って、そんなにヤバいんですか・・・?」

僕はタケシ君から預かっていた本をおしょうに見せた。

「・・・ものすごい邪気だと思ったら・・・君、こんなモノをどこで・・・?」

おしょうは顔を歪めてタケシ君にそう言った。

「ウチの家の倉庫にあったんですわ・・・あの・・・それほどヤバいもんなんですか・・・?」

タケシ君も不安そうにそう聞いた。

そんな不安そうなタケシ君の顔をじっと見つめるおしょう。

しばらくそうしていると、


ニコッ


おしょうは優しく笑った。

「はっはっは。大丈夫や。

この本はウチで預かろう。

西洋と東洋の違いはあれど、出来ん事は無い。

きちんと供養してしんぜよう。」


「よ、よかったぁ・・・。」

タケシ君の顔がほころんだ。

心からホっとしているのだろう。


僕もホっとして、

「・・・おしょう、ありがとうございます・・・。よろしくおねがいします・・・。」


「かまへんかまへん。 この本はな、その筋では有名で、

全国に散らばっとるのを回収せないかんのや。 丁度よかったわ。」

「・・・そうなんですか・・・。」

よかった。

おしょうの仕事の手伝いもついでに出来ていたようだ・・・。

本当によかった・・・。

ホっとしてお茶をすする僕。

そんな安堵している僕らにおしょうが真面目な顔をして、

「ところで・・・。」

と身を乗り出して言う。

「ところで君達、まさかとは思うけど、 この本に書いてある方法で、悪魔と【契約】はしていないよな?」

みるみるうちにタケシ君の顔が真っ青になった。

「・・・もしかして・・・したんか・・・?」

おしょうは苦い顔をしてタケシ君に言った。

 そう。

タケシ君はチームを勝たせてくれと悪魔にお願いをしてしまっている。

そして事際勝たせてもらった。

つまり、【契約】は既に成立してしまっているのだ・・・。


おしょうは少し間をあけ、

「・・・そうか・・・契約してもうたんか・・・。」

と言うと、両手を合わせて、

「・・・すまん・・・契約してしもうたら、ワシにはどうする事も出来ん・・・。」

と、申し訳なさそうに言った。

「そ・・・そんな・・・。」

タケシ君はその場に崩れ落ちた。

「・・・何か・・・何か方法は無いのですか・・・?」

僕がそう聞くも、おしょうはうつむき、何か考え事をするように目を瞑っているだけだった。




「ただいま〜!」

その時だった。

玄関のほうから若い男の人の声が聞こえてきた。



「・・・息子や・・・。」

おしょうが目を瞑りながら言った。


「・・あれ〜パパ、お客さんかい? 玄関にたくさん靴が転がってるよ〜?」

玄関からおしょうの息子の声が聞こえてきた。

そして息子の足跡がだんだん近付いてきて、部屋の障子がスーっと開いた。

開いた障子の先には、カウボーイみたいな格好をしたおしょうの息子が立っていた。

・・・ん・・・この顔は見覚えが・・・。


そんな風に思っていると、タケシ君が唐突に口を開いた。

「・・・あ・・・ウッディーやん・・・。」


―― ウッディー ――

ウッディーは僕とタケシ君が通っていた中学の国語教師だった。

本名が【内場 駆】というので皆このアダ名で呼んでいた。

僕はこれといって絡んだ事はなかったが、

そのカウボーイのようなイデタチ、

マンガのキャラのようなキザな喋り方、

10段階で言うと7くらいな男前さ、


これらの理由で大多数の生徒にキモがられ、

そして少数の真面目な女の子に惚れられたりしていた先生だ。


「・・・おぉ!ベイビ〜 君達は八木君に雪村君! 久々じゃないかぁ! 

どうしたんだい?僕の実家になんか押しかけてきてぇ〜。」


ウッディーは数年前と変わらず、オーバーなリアクションをとっている・・・。


「・・・おしょう・・・内場先生って、おしょうの息子さんだったんですね・・・。」

「ん?何や鎌司君、息子の元生徒やったんかいな。

ほえ〜えらい奇遇やなぁ。 

そういえばワシの本名言うてへんかったな。

【内場 玄海】っちゅーんや。」

・・・そうだったんだ・・・。

世の中のなんと狭い事か・・・。


 「・・・ところでパパ。なんだか部屋に邪悪な気が漂っているようだけど、何か悪いモノでももらったのかい?」

ウッディーは少し真面目な顔になっておしょうにそう言った。

「・・ん、そうそう。 コレや。この本。」

おしょうが【デンドロアレチン】の本をウッディーに見せた。

みるみるうちにウッディーの顔色が変わる。

「こ・・・これは・・・。こんな危険なモノが・・・。」

ウッディーの話し方が【普通の人】になった。

このリアクションを見る限りでも、かなり危険なモノなのだろう・・・。



→僕らの目指した甲子園(8)



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