僕らの目指した甲子園(6)

創作の怖い話 File.165



投稿者 でび一星人 様





「ん?何や鎌司。」

「・・・タケシ君、覚えてる・・・?」

「おう、当たり前やんけ。タケシとはよう他所の学校に乗り込んだからな。

・・・タケシがどないかしたんか?」

「・・・うん。次の試合で出るみたいだよ。

・・・そして結構打ったりしてるみたい・・・。」


「えええっ!ホンマかいな! タケシ、まだ野球やっとったんやなぁ。

ほぉ〜。

ほしたら、姉ちゃんタケシの試合見てから帰るわ。

鎌司も見て行くか?」

「・・・いや、僕はこの後師匠の所へ行かなきゃならないから・・・。」

「えぇ〜。 あんなつるっぱげ、放っといたらエエやんけ〜。」

「・・・そんなわけにはいかないよ。・・じゃぁ。」

「ケッ。気をつけてな!」

「・・・うん、姉ちゃんも・・・。」


 


 明後日の対戦校は、今日の第一試合の勝者、【龍球義塾】

噂では派手な空中戦を好むらしい。

そして監督の【亀 仙一】という人は、エロ界では憧れの存在らしい。(右本君が言ってた)

 でも相手が誰だろうが関係ない。

僕は僕のできる野球をやるだけだ・・・。





DDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDD

青年は怖さを感じ始めていた。

今日も勝ってしまった。

自分の活躍で・・・。

 今日青年は本を広げなかった。

部屋の電気をつけたままにしておいた。

元々【呪い】なんてものは信じていなかった。

ほんの好奇心のつもりだった。

 家の倉庫で見つけた【デンドロアレチン】という呪いの本。

青年は最初遊びのつもりでそれを試したのだ。

そうしたら、たまたま願いが叶った。

そのたまたまが三回、四回と続いた・・・。

さすがに青年は怖くなってきたのだ。

 青年はトイレに行き、用をたした。

そして部屋に帰り凍りつく。

部屋の電気が消えていた。

そして今日は閉じていたはずの本が開けられていた。

そればかりではない。

床一面に、本に書いてある模様が描かれていた。

 親が自分の部屋に入るはずがない。

いや、その前に、この短時間で床一面にこの模様を描く事なんて不可能だ・・・。

青年の体は震えていた。




「 ム ダ ダ ヨ ・・・」


どこからともなく声が聞こえてきた。

青年は部屋を見回し、窓の外やドアの外を確認する。

しかし誰も居ない。



「 ニ ゲ ラ レ ナ イ ヨ・・・」

今度は耳元で声が聞こえた。

しかし誰も居ない。

誰も居ないのに、

耳元に生暖かい吐息を感じる。


(悪魔だ・・。)

青年はその存在が実在するのだと確信した。

そして恐怖と後悔が心を覆う。



青年は今日も【儀式】を行う。

恐怖に支配され、【儀式】を行う。


「明日・・・も・・・勝利を・・・。」


 恐怖に支配された心。

 青年に逃げ道はなかった。

進まなければ何かが来る・・・。

青年は進むしかなかった・・・。

悪魔はそれを見て大笑いする。

恐怖に満ちた心。

知らぬ間に後戻りできないところまで進んでしまった愚かな人間の姿。

それでも尚抱き続ける小さな野望。



どれも悪魔の大好物ばかりだった。


DDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDD


「おい!鎌司起きろや!!! 今日は準々々決勝やで!!!」


「・・う〜ん・・・さすがに【々】多すぎだろ姉ちゃん・・・。」


・・・寝起き頭のため、普段ならスルーするところを姉ちゃんにツッコんでしまった・・・。

時計を見るとまだ朝の五時半だった。

「・・・姉ちゃん・・・どうしたんだよこんな朝早くに・・・。」

「ん?おう。 実は今日は早起きしようと、昨日めっちゃ寝てんや。

ほしたら目が覚めた。」


・・・非常に迷惑だ・・・。

だが起こされて目が覚めてしまったのは仕方ない。

姉ちゃんが久々に作ってくれた朝食を食べ、二人で学校に向かった。

 今日はさすがに早すぎるので貝塚君はまだ来ていなかった。


「鎌司・・・さすがに来るの早すぎたなぁ。」

姉ちゃんが腰に手をやり言う。

「・・・誰のせいだよ・・・。」


 部室の前で2人座って、とりあえず皆が来るのを待った。

「そういやぁ、小六の頃の林間学校は怖かったなぁ鎌司。」

「・・・そんな事もあったね・・・。」

姉ちゃんと話をしながら待っていると、トコトコとこちらに歩いてくる人影を発見した。

「ん?誰やろうアレ?」

姉ちゃんが立ち上がる。

「あ!下葉やんけ!お〜〜い!下葉〜〜〜!」

姉ちゃんが手を振る。


・・・しかし、最近体調不良でいつも来るのが遅かった下葉が今日はやけに早いな・・・。

下葉は部室の前まで歩いてきて、

「おはよう。鎌司、鍋衣ちゃん。」

と軽く手をあげた。

「・・・おはよう・・・風邪は治った・・・?」

下葉の顔色はまだ悪かった。

「ん・・・少しはよくなったっぽいけど・・・まだしんどいかな。

でも、今日も風邪治ってないってウチボに知れたら、試合出してもらわれへんから黙っといてな。」


・・・もしかしたら、下葉は【少し良くなったフリ】をしているのかもしれない。

本当はしんどいままなのかもしれない。

試合に出る為に無理をしているのかもしれない。

だが、僕はそんな下葉に何をしてやれるわけでもなく、

「・・・わかった・・・。黙っておくよ・・・。」

と返す事しか出来なかった・・・。







 試合が始まった。

初回、ライト前ヒットで出塁した僕が盗塁。

2番の貝塚君が送ったあと、3番優真君のタイムリーであっさり先制。

・・・そして下葉は今日もホームランを放った。

7−0。

結局、下葉の3本のホームラン等で親指高校はベスト8へ駒を進めた。



「おめでとう!鎌司!」

スタンドを見ると、タケシ君が観戦していた。

「・・・タケシ君・・・見てたのか・・・。」

「おう、今日は試合無いからな。

鎌司、ところでこの後暇か?」


・・・今日は第一試合だった為、夕方師匠の家に行くまでは暇だ。

「・・・夕方までなら暇だけど・・・。」

「ホンマか! ほしたら、ちょっと付きおうてくれへんか?」

「・・・別にいいけど・・・。」

「よしゃ! ほしたらオモテで待っとくからな!」

昼過ぎ。

僕とタケシ君は吉牛で昼食を食べていた。

姉ちゃんは今日バイトの為居ない。

でもそれで良かったと思う。

きっと姉ちゃんがいたら僕とタケシ君の会話が出来ないと思うから・・・。

「・・・鎌司、あのキャッチャーの下葉って選手、よう打つなぁ。」

タケシ君が5杯目の牛丼をバクバク食べながら言った。

「・・・そうなんだよ・・・あそこまで打てる選手じゃないはずなんだけど・・・。」

「やっぱそうか・・・いや、スイングとかバッティングフォーム見とったら、

あんなにホームラン連発できる選手や無いと思ってたんやわ・・・。」

「・・・最近体調も悪そうだし・・・何かあるのかな・・・。」

「ん〜・・・まあ、たまたまっちゅー可能性もあるけどな・・・。

ありえへん奇跡的なたまたまが・・・。

あ、ところで鎌司、オマエ、心霊現象とか詳しかったよな?」

「・・・詳しいって事は無いけど・・・何かあったの?」

「ん・・・いや・・・ちょっと場所代えようか。」

タケシ君はいつになくマジメな顔をして立ち上がった。


 タケシ君は僕に『心霊現象が詳しかったよな』と言った。

それは僕が昔、霊を当たり前のように見ていた時期があったからだろう。

時期と言うか、生まれつき見える体質だったようで・・・。

でも、大きくなるにつれて見えなくなって行き、

中学に入る頃にはほとんど見る事も無くなった。(でもたまに見る)

 そんな事があったのでタケシ君はそう言うのだろう。



 タケシ君と僕は人気の少ない空き地に移動した。

「ここ、オレの穴場なんや。 ほとんど人も通れへんし、よく素振りとかするねん。」

タケシ君は土管に腰をかけた。

「ちなみに、小学校の頃はこの土管の上に立ってリサイタルもようやったもんや。」

「・・・そうなんだ・・・ところで心霊現象がどうとか言ってたけど・・・何かあったの・・・?」


僕がそう聞くと、タケシ君は急にガクガクと震えだした。

「・・・鎌司・・・オレ・・・取り返しのつかへん事してもたかもしれへん・・・。」

「・・・取り返しのつかない事・・・?」

タケシ君は呼吸を整え、深呼吸をした後カバンから本を取り出した。

「・・・鎌司、呪いって信じるか・・?」

タケシ君は本を僕に見せながらそう言った。

「・・・信じるよ・・・っていうか有るよ呪いは・・・。 その本は何・・・?」



→僕らの目指した甲子園(7)



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