僕らの目指した甲子園(2)

創作の怖い話 File.161



投稿者 でび一星人 様





と言うと、皆にも挨拶しに歩いていった。

・・・下葉は今日の試合大丈夫だろうか・・・。



【 1番 ピッチャー  八木 鎌司 (三年)

  2番 セカンド   貝塚 マモル (一年)

  3番 ショート   美角 優真 (一年)

  4番 キャッチャー 下葉 みつお (三年)

  5番 レフト    平田 凡人 (一年)

  6番 センター   中田 九 (二年)

  7番 ファースト  一枝 七郎 (二年)

  8番 ライト    右本 新八 (二年)

  9番 サード    綿 保 (三年)   】



 先発メンバーは不動のオーダー。

・・・といっても、部員は9人しか居ないのだが・・・。



 試合が始まる。

今日は後攻なのでまず初回のマウンドには僕があがる。

軽い打ち合わせの為、下葉が僕の元に歩いてくる。

「・・・下葉?・・・本当に大丈夫か?凄くしんどそうだけど・・・。」

「あ・・・あぁ、大丈夫大丈夫。 鎌司はおれの事は気にせんと、自分のペースで投げたら良いから・・・。」

「・・・そう・・・まあ、ムリはしないように・・・。」

「お、おう・・・。」

やっぱり下葉は様子がおかしい・・・。

 

 初回、僕は難なく三者三振で切り抜ける。

下宮高校の皆は僕の速球に唖然としているようだった。

OL学園戦での好投が新聞に載り、

格強豪高校はそれぞれ僕に対して対策を立てているらしかった。

だが、僕の速球は少し特殊なようで、

何度も実際に打席に立たないと対応できないらしい。


そして1回のウラ・・・。

下宮高校先発の闇田は140キロ近い直球と切れ味鋭いフォーク、あと根性が凄いらしい。

貝塚君の持ってきてくれたノートのデータだ。

 僕は初球を三塁側にセーフティーバントし、出塁した。

下宮高校サードのニ木は守備があまり上手くないというデータの通りだった。


 「す、すまん!闇田!」

謝る二木に闇田は、

「はっは・・気にすんなや。」

と言いながらも顔は引きつっていた。


 1塁に半分エラーのランナーを出し、闇田のコントロールは荒れ始めた。

そして打者は2番の貝塚君。

貝塚君の選球眼はバツグンで、際どい球をカットする技術もズバ抜けていた。

結局貝塚君は闇田に24球投げさせた後、フォアボールで出塁した。

 あきらかに闇田はイライラしている。

そして3番の優真君の打席・・・。


カキーン!!


優真君はカッカして真っ直ぐを投げた闇田の配球を完璧に読んでいた。

センター前ヒット。

あたりが良すぎて僕は本塁まで還れず、これでノーアウト満塁となった。

そしてバッターは・・・


『四番 キャッチャー 下葉君』


1回戦では全打席三振の下葉の打席が回ってきた。

下葉に限らず、1.2.3番の僕ら以外はOL学園の好投手【桑太】の前に全打席三振を喫していたのだ。

二度三度素振りをする下葉は本当に顔色も悪く、しんどそうだった。

風邪気味と言っていたが、本当に大丈夫だろうか・・・。

















カキーン!

快音が鳴り響いた。


「う・・・嘘やろ・・・。」


マウンドの闇田がその場にひざまづいた。


自信を持って投げたであろうフォークボール。

キレもバツグンだったし、高めに浮いたわけでもない。

低めのボールゾーンに見事に決まっていたであろうフォークボール。

下葉はその球をフルスイングし、バックスクリーン左に叩き込んだのだ。


下葉はしんどそうにベースを回る。

4-0


僕らは初回にあっさりと4点を先制した。


「・・・下葉・・本当に大丈夫か・・・?」

「・・・あぁ・・・。気にすんなや。 今は試合に集中しろや・・・。 それにしてもおれ・・・風邪引いてたほうが打球飛ぶんかな。

アハハ・・・。」


あきらかに下葉は回りに心配をかけまいとムリをしているように見えた。


5番以降の下位打線に対しては、やはり闇田は力の違いを見せつけ、まったくボールを前に飛ばさせなかった。


僕も2回のオモテ、また連続三振を奪い無失点。


そして二回のウラ、ツーアウトから僕に打席が回ってきた。


 僕はまたサードにセーフティーバントをした。

サードの二木は警戒していたみたいだが、

僕の足と絶対にいけるコースにバントを決めたので1塁は悠々セーフだった。

そして初回と同じように2番の貝塚君が執拗にファールで粘る。

あきらかにボールでもわざとカットしているようだ。

結果、この回は32球を投げさせ、最後はコントロールミスをした闇田が貝塚君を歩かせる格好となった。

「ちくしょう!」

闇田は悔しそうに土を蹴る。


 精神的に冷静でない闇田は優真君に対してもフォアボールを与えてしまう。


ツーアウト満塁。

そして四番の下葉は・・・。












カキーーーン!!!







「う・・・うそや・・・うそやうそや・・・。」



闇田は半ば放心状態で呟いている。


内角高めの難しい球。

打ってもファールにしかならないようなややボールの球。

下葉はそれをレフトポール際へと運んだのだ。


二打席連続、満塁ホームラン・・・。


8-0。


大阪で5本の指に入ると言われるあの下宮高校に序盤で8点差をつけてしまったのだ。


僕はその後も連続三振を奪い続けた。


そして四回のウラ。

僕と貝塚君がフォアボールで出塁した後、優真君は大きいのを狙いすぎて三振。

そしてバッターは




四番の下葉・・・。










カキーーン!

二度あることは三度あるとは言うが、

下葉は本来ここまでバッティングの良い選手では無いはず・・・。



なんと変化球を上手く追っ付け、ライトスタンドまでもって行くホームランを打ったのだ。


11-0



「はは・・・ははは・・・・あはははは・・・。」

闇田は泣きながら笑っていた。


4回コールド勝ち。


僕らの二回戦は、下葉が全打点を挙げるという形で幕を閉じた。


 帰り際の通路で、新聞記者たちが僕と下葉を囲んだ。

「八木投手! あの下宮高校から12連続三振を奪った感想は?」

「八木投手! これで優勝候補の2校を破りましたね! 感想を一言!」

「下葉主将!初戦とはうってかわっての大活躍、一体何があったのですか!?」


僕と下葉は適当に受け答えし、パパラッチ共を上手く撒いた。


それにしても下葉はインタビューの間もずっとしんどそうだった。

普段ならば絶対によろこんで受け答えするタイプなのに・・・。


「・・・下葉・・・本当に大丈夫か・・・?」

「・・あぁ・・。気にすなって言うてるやろ・・・。それより、今日はもうしんどいからお先に帰らせてもらうわ。」


そう言うと、下葉は愛想なく皆より先に一人で帰っていった・・・。




EEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE




夜―――

青年はまた暗い部屋で本を開く。

そして昨日書いた紙を広げる。

「あぁ。

ありがとうございます・・・。

デンドロアレチン様・・・。



→僕らの目指した甲子園(3)



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