夏に咲く桜(14)

創作の怖い話 File.155



投稿者 でび一星人 様





ココまで練習試合で強豪高相手に打ちまくってきたOL学園ナインは焦りを覚えた。


 そんな雰囲気を察し、すかさず監督は

「お前ら! まだ焦る時期ではない!

今までお前らは二打席ヤツの球を見てきた。

それが最大の情報となる!

三打席目、必ず仕留めろ!」

「はいっ!」

「ハイっ!!」

 選手たちは気持を切り替え、守備に就く。


7回オモテ

回は終盤に入った。

『2番 セカンド 貝塚君』

この回先頭打者は2番の貝塚。


(コイツも、嫌な存在だな・・・。)

マウンドの桑太は、初回完璧にバントを決められ、

二打席目も打ち取りながらも12球粘られているこの2番の貝塚に嫌なイメージを抱いていた。

ズバン! ズバン!


1・2球目。

貝塚は簡単に2球見送り、ツーストライクとなった。

そして3球目。


がすっ!!


「ファール!」


(やはり・・・コイツ、意図的にカットして球を見ているな・・・。)

桑太はここを終盤最初のヤマだと捉えた。

そしてキャッチャー喜怒のサインに二度、首をふった。


喜怒は(・・え?まさか、この1回戦であの球を使うのか・・・?)

と思いながらも、秘密兵器の魔球のサインを出した。

ゆっくりと頷く桑太。

構える貝塚。


桑太が4球目を投げた。

遅いボール。


貝塚はカーブだと反応した。

そして左方向にカットしようとした。

しかし・・・


ブン!

「ストライク!バッターアウトぉ!」

貝塚のバットは空を切った。


「よしっ!」

珍しく桑太がガッツポーズをとった。


(・・・球が消えた・・・。)

貝塚はたしかにカットできると思ったのに、空振りした事を不思議に思った。

(カーブじゃなかったのか? 落ちる球?)

半信半疑のまま、貝塚はベンチに戻って行った。

(これで、後全てアウトで片付ければコイツには回らない。)

桑太はもう一度気合を入れ直した。



ズバン!!!


「ストライク!バッターアウト!! チェンジ!」

桑太の速球が増す。

3番美角と4番下葉を難なく三振に斬って取り、この7回も無失点で切り抜けた。



 7回ウラ

『1番 ショート 待井君』

待井の三打席目。

(二打席も三振を喰らって、このままズルズルと行くおれだと思うなよ。)

待井はバットを短く持つ。

ブン

 ブン

   ブンッ


「ストライク!バッターアウトォ!!」

(こ・・・このまま行ってしまった・・・。)

待井はションボリしてベンチに帰っていった・・・。


「待井!」

監督が待井を呼ぶ。

「・・は、はい・・・。」

怒られると思い、オドオドしながら待井は監督の方へと向かう。

「でかしたぞ、待井。」

「・・・へ?」

「今のお前の打席でな、【科学班】が素晴しい発見をしたんだよ。」

「は、発見?」

「そうだ。 このデータを見ろ。」

監督はプリントアウトした資料をベンチの全員に見せる。

皆が監督の下へと集まったが、清腹だけはベンチの端っこで昼寝をしていた。

「おい!清腹!お前も来い!」

清腹はムクっと起き上がり、

「ワシァ嫌ですよ・・・。 そんな皆で寄ってたかって研究なんざ。

弱いやつのやる事デスワ。

それにワシァそんなしょーもないデータなんざ使わんでも自分で十分打ちますわ。」


「・・・チッ・・・勝手にしろ!」

監督はまた帽子を深々とかぶり昼寝する清腹を無視し、その他の選手に説明を始める。

「最初、八木の速球に対してオレは初速と終速を睨んだ。

だがそれはむしろ桑太の方が上だった。

しかし今さっき、科学班の測定でこんなデータが出た。

それはボールの回転数だ。

1秒間の直球の回転数は、普通のプロの投手で約37回転。

桑太は更に上を行く40回転。

打席に立つと桑太の球が速く感じるのはその為だ。

そして驚いたことにあの八木という投手の回転数は・・・。

なんと45回転もしているんだ。」


「よ、45回転!?」

「そうだ。

45回転。

それだけ回転してんだ。

当然ボールが伸びてくる感覚を受けるだろうよ。

打席に立つと球が速く感じるのはその為だ。」


「そ・・そうだったんですか・・・。 で、監督、具体的に対策は?」

「え?対策?

・・・そ、そうだな。

始めから言ってる通り、

伸びてきてるからスコシ上目を振る〜


みたいな。」


「そ・・・そうですか監督・・・。」


「ストラーイク!バッターアウトォ!!!」

2.3番打者もあえなく三振。

鎌司は7回も三者三振に斬ってとった。



 「ぐ・・・。」

さすがにOL学園の監督も焦りを感じていた。

「がっはっは。 監督、だからそういう細かい事やっても下手なやつらはよう打ちませんて。

あの八木ってピッチャー、本物ですよ。 まあ、次の回ワシがでっかいの打ってやりますけどね。

がっはっは。」


清腹は大笑いしながら守備に就いていった。


 8回のオモテ

5.6.7番打者を桑太は簡単に斬って奪る。


 そして8回のウラ・・・。

『4番 ファースト 清腹君』


「オオオオオオオ!!!!!」

大歓声の中、清腹が打席に入る。


「八木ぃ! 次は打つでぇ! 覚悟してかかって来いやぁ!」

「・・・。」

鎌司は静かにふりかぶる。

ズバン!

ブン!


「ストライーク!!」

清腹の豪快な空振りの風圧で、三塁手モヤシの帽子が吹っ飛んだ。


2球目


ブン!

ズバン!

「ストライク2!」

清腹の豪快な空振りの風圧で、スタンドで応援している鍋衣のスカートがめくれあがった。

「こらぁ!お前何してくれとんじゃぁ!」

キレる鍋衣。

清腹はスタンドをチラっと見て、

「エラい騒がしいな・・・。」

と笑う。

そして3球目。

「よっしゃぁ!」

清腹が掛け声と共にフルスイングする。


カキーーン!


快音が鳴り響いた。


ボールは一直線にバックスクリーンへと突き刺さった。


「見たか!八木!! これが4番やぁ!」

清腹は鎌司にそう言うと、笑いながらダイヤモンドを一周した。

1-1 OL学園は4番の一振りで追いついたのだ。



「でかしたぞ!清腹! さすが4番だ!」

監督も少し焦っていたせいかベンチの前で清腹を出迎えた。

「いやぁ。がっはっは。 せやから言うたでしょう。 次は打つって。」

清腹はどっかりとベンチに腰を降ろす。

「で、清腹、どうやって打てたんだ?あの球を?」

部員が清腹に群がり聞く。

清腹はベンチにもたれかかりながら答える。

「そら、お前ら、アレや。

『スッ トッ パン』や。」


「・・お、おお。なるほど・・・『スッ トッ パン』か・・・。」

「なるほどな・・・。スッ トッ ポン・・やな・・。」


5番の今丘はは清腹のアドバイスを生かせずに三振。


 そして6番の桑太が・・


カキーン!

打球は勢いよくレフトへと飛ぶ。

レフトの平田が落下点に入った・・かと思われた。

だが、ボールを後ろにはじいてしまった。


桑太は2塁を蹴り三塁へと向かう。


俊足のセンター中田がカバーに入り、ボールを内野に返す。

・・・のが精一杯だった。


1アウト三塁。

OL学園は8回にして絶好のチャンスを得た。

監督が打席に向かう7番咲来を呼ぶ。

「オイ!咲来! ここは絶好のチャンスだ。 しかしスクイズをさせる気は無い。

自分を信じて振りぬけ。 迷うな。 いいな!」


「・・は、はいっ!」

(監督はおれを信じてくれている・・・。)

咲来はうるっときて打席に立つ。


一方、親指高校は鎌司の元へタイムをかけ、内野陣が集まっていた。

「八木先輩! 切り替えて行きましょう! まだ同点。

この回切り抜けたら次は先輩まで周りますし!

オレん所に打たせたら軽く捌いてやりますんで!」

優真が鎌司を励ます。

「・・・あぁ。頼むよ・・・。」

咲来が打席に入り、内野陣も守備位置に就く。


 (同じ高校生や・・・ オレは名門OL学園のレギュラーを取った男や・・・。

打てへんワケ無い!)

咲来は少し震えていた。

1球目。

ズバン!!!

「ストライーク!」

(や・・・やはり速い・・・。)



「咲来!!振らんとあたらんぞー!」

清腹がベンチから激を飛ばす。


(そ、そうやな・・・振らんと当たらん・・・。 次は振ろう・・・。)


ブルン!

「ストライク2!」


(アカン!ボール球に手だしてもた! ヤバイ、追い込まれた!)

咲来は内心ビビリまくっていた。



そして3球目。

桑太がスタートを切った!


「鎌司! スクイズや!はずせ!」

キャッチャーの下葉が立ち上がる。

鎌司も反応してボールを外す。



(え!? ス、スクイズ??? そんなサイン出てへんし!!!?)

咲来は焦った。

なぜならスクイズは無いと聞いていたからだ。


ブルン!


外に大きくはずれたボール球を空振りした。

「ストライク!バッターアウト!!!」

焦ったのはキャッチャーの下葉。


目の前でバットを振られて、ビックリして球を横にはじいてしまった。


「ヤ、ヤバイ!」

すぐに拾いに行く下葉。


ホームに突入する桑太。


ベースカバーに走る鎌司



下葉がボールに追いつき拾う。

「鎌司!」

ホームに走る鎌司に投げる。



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