夏に咲く桜(9)

創作の怖い話 File.150



投稿者 でび一星人 様





変化球がまったく打てない・・・。

だから下位に置いといて【あわよくば】を狙ったほうが生きると思ったんだ・・・。」


「ほぅ・・・。やっぱ考えてるな・・・。

じゃ、これが最後やけど、

綿 保。

あいつ、言うたら1番へたくそやのに、

重要なサードって、何考えてるんや・・・?

まだ平凡にプレーする平田のほうがマシとちゃうんか・・・?」


「綿 保・・・モヤシ君がノックを受ける姿を見た事ある・・・?」

「ん・・・。ああ。 よくポロポロこぼしよるやんなぁ・・・。」

「・・・そう。 ポロポロこぼすんだ・・・。

でもね、こぼすけど、必ずボールを体で止めてると思わない・・・?」


「あ・・・そういえば・・・。」


「・・・モヤシ君は、筋金入りのいじめられっこなんだ・・・。

・・・彼の体は【M】で作られているといっても過言では無い・・・。

・・・本能なんだ・・・。

・・・彼は本能で、ボールに【当りに】行ってしまうんだよ・・・。

目をつむっててもね。

結果、ボールをはじく・・・。

・・・サードは打球が早いから、そこが重要なんだ・・・。

まあ、はじいたボールは、センスバツグンのショート優真君が処理してくれると考えているんだけどね・・・。

バント処理の時は・・・ピッチャーの僕がカバーするよ・・・。」

「りょ・・・了解・・・。 やっぱ鎌司すげぇな。

とりあえず納得してもうたわ・・・。

がんばろうな!OL学園戦!


・・・初戦からOLかぁ・・・。」


 下葉は引きつった笑顔で拳を突き上げていた。




 

 夕方―――

「ヘイ!ラッシャイ!」

「チョwww鍋衣ちゃんwww 寿司屋じゃないんだからwww」

今日鍋衣はバイトの日なのでコンビニでレジを打っている。

「まあまあ、硬い事言うなやモモ天。はっはっは。」

「・・・ちょwwその『モモ天』って言うのもやめてよww 店長ってちゃんと呼んでよねww」

「どっちゃでもエエがな! 名字が【百瀬】で【店長】やってるんやから【モモ天】がしっくり来るやろう。」

「wwwタメ口だし、店長の威厳もクソも無いねwww」

 店長はなぜかやたらと【w】が多い。

38歳独身。

脱サラ後に雇われ店長をやっているパターンだ。

 ピロリロ〜ン・・・

店の入り口が開く。

「ヘイ ラッシャ〜イ!」

「・・・wwwだから鍋衣ちゃん・・・www」


 「お?何やここの店員は、エラい変わった挨拶しよるのぉ。」

 見ると、体のゴツイ高校生が2人のお供を連れていた。

 見るからに【番長】といった感じだ。

【番長】は、レジの鍋衣を見て、

「おお!えらいベッピンさんやないか。 バイト終わったらワシと遊ばへんか?はっはっは。」

と近付いてきた。

「うっさいわ! なんでウチがオマエみたいなやつと遊ばなアカンねん!」

鍋衣は捨ててあるレシートを丸めて投げつけた。

「ちょwww鍋衣ちゃん、お客さんになんて事をwww」

【番長】の顔色が変わった。

と、同時にお供の2人が前に出る。

「番長、どうしやす?この女、ヤりますか?」

【番長】はゆっくりとガクランのボタンを外し、上着を脱いで、

「・・・そやな・・・。女や思うて、調子のっとるんやろう。

怖い思いさせたらなアカンようやな。

オマエら、ちょっと揉んだれや。」

「ヘイ!」

「へい!」

 2人の子分はポケットからナイフを取り出した。

「・・・何やお前ら・・・そんなモン使わんとケンカできへんのか!

あったま来たで! ちょっと表出ろや!」

鍋衣はブチキレた。

上に羽織っているコンビニのユニフォームを脱ぎ捨て、【番長】達を外へと誘導した。

「www鍋衣ちゃんwww・・・お客さんに・・・ww」

モモ天はガクガクと震えながら、無人になったレジカウンターに入っていった・・・。


 

 店の外では、腕を組んで堂々と構えている鍋衣に、

【番長】の子分2人がナイフ片手にじりじりと間合いを詰めていた。

「お前ら! 今ウチはもの凄い機嫌悪いで!

それなりの覚悟してかかってこいや!」

「お、女に舐められてたまるかぁ!!!うらぁ!」

子分の一人が鍋衣に飛び掛る。

 「オ、オレは場所によっては舐められたいかも・・・。うらあ!」

もう一人の子分も少し遅れて飛び掛った。


 バシィ!!!


 鍋衣はまず最初に振り下ろされたナイフを真剣白刃取りした。

「ほんまは簡単にかわせるんやで! こんなションベンみたいな攻撃は!

でも、お前らウチを舐めとるやろ! 見せしめやぁ!オラァ!」

バキィ!!!

鍋衣はそのナイフを根元から折った。


カラーン・・・

そして折り取ったナイフの刃をその場に捨てた。

ナイフの柄を握ったまま、最初の子分は失禁した。

続いて後から飛び掛ろうとしたもう一人の子分もそれを見て失禁した。


「・・・何やねん・・・お前ら、超へタレやんけ・・・。

辞めや辞め。 もう帰れや。」

鍋衣がそう言って仕事に戻ろうとした時だった。

「ちょっと待たんかい。」

【番長】が鍋衣を呼び止めた。


「・・・何や、番長はちょっとはマシなケンカできるんか?」

「・・・試してみいや。」

番長は上の服を全部脱ぎ去り、上半身裸になった。


「ほほう。 番長、けっこうエエ体しとるやんけ。 少しはやりそうやなぁ。」

鍋衣が構える。

番長も構える。


 (コイツ・・・そこそこやりよるな。 隙があれへん・・・。)

鍋衣の額に汗が滴る

 
(コイツ・・・ホンマにコンビニで働く女の子か・・・。 ものすごい気を感じるで・・・。)

番長も全身汗びっしょりだ。

こう着状態が続く。

戦いは、『先に動いたほうが負ける』という勝負になっていた。





 「・・・何やってるんだ!カズヒロ!」

鍋衣の左側から突然声が聞こえてきた。

鍋衣と番長は同時に声のするほうを見る。


「あ・・・マスミ・・・。」

番長がそう言った。

 声の主は、ジャージを着た、か細い青年だった。


青年は、ゆっくりと番長の方へと近付いてい行き、

「・・・服なんて脱いで・・・何やってんだよ?

こんな公衆の面前で、しかも女の子の前で・・・。

今は大事な時だろ?

問題おこしたらおれたちの三年間が水の泡なんだぞ?」


 マスミという青年がそう言うと、番長は

「ス・・・スマン。 そうやったな・・・。

悪かったマスミ。 

・・・ねーちゃん、ワシが悪かった。

許してくれ。この通りや。」

と言って鍋衣に頭を下げた。

「な・・・なんや、そんな風に言われたらウチも困るけど・・・。

別にええよ・・・。

ウチも店員にあるまじき態度とってもうたし・・・。

ウチこそゴメンや。」

 マスミという青年は、

「お嬢さん、カズヒロが大変失礼しました。」

と言って深々と鍋衣に頭を下げた。

「い、いや、だから別にエエよ・・・。

そういうの苦手やから辞めてーや・・・。」

「ありがとうございます。」

 そう言って顔をあげたマスミという青年の顔を見て、

鍋衣はドキっとした。

 丹精な顔立ち。 礼儀正しい態度。 

「・・・それでは、僕たちはこれで・・・。いくぞ。カズヒロとその子分。」

「お、おう。」

「ヘイ!」

「へい!」


 去り際、番長は鍋衣に、

「姉ちゃん、お前、なかなかやりよるな。 初めてやで。

ワシがまったく手出されへん事なんか・・・。

いつか正々堂々と勝負やろうや!」

と言って笑みを浮かべた。

「おう!お前もそこそこやりよるみたいやからな!

楽しみにしてるで!」

鍋衣もそう言い返して鼻を親指でこすった。



 なにやらイミフな高校生たちが帰ったので、

鍋衣は店に戻った。


「あwww、お帰りなさい鍋衣ちゃん。大丈夫だった?www」

「おう。大丈夫やったで。」

「・・・ん?www どうしたの?鍋衣ちゃん?www」

「・・・。」

鍋衣はココロココにアラズといった感じでボーっとしていた。

掃除するときも、品出しするときも、

ボーっとしていた。

 
 なぜなら鍋衣の頭の中はさっきの【マスミ】という青年でいっぱいだったのだ。



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