夏に咲く桜(4)

創作の怖い話 File.145



投稿者 でび一星人 様





「・・・優真君・・・、今君が本当に田丸さんの事を好きなら、今伝えた方が良いと思う・・・。

明日も明後日も、いつでも気持を伝えられるとは限らないからね・・・。」

優真はポカンと開いていた口を閉じ、

「は、はぁ・・・。八木さん、良い事言いますね・・・。

中学の頃はそんな事言うキャラでしたっけ・・・。

ま、まあいいや。 今のでフンギリが着いたっす!

オレ、今から言ってきます!」

鎌司は(切り替え早いな・・・。)と少し思いつつも、

「・・・がんばって・・・。」

と、優真にエールを送った。

優真は「はいっ!」と元気に返事をし、

スポーツマンっぽい走り方で美術部の部室へと消えて行った。

「・・・ふぅ・・・。」

鎌司はそんな優真の後姿を目を細めて眺めていた。



カキーン!!!

そのとき、グラウンドの方から快音が鳴り響いた。

鎌司は音の方向を見る。

ものすごい勢いで打球が飛んで来た。

飛んで来たといっても、はるか頭上を通り過ぎた。

そのまま打球は校舎の窓ガラスに・・・



ガシャーン!!!


「・・・誰が打ったんだ・・・。」

鎌司が打席の方を見ると、なんとなく予想通り、やたらと力の強い一枝が打った打球のようだった。

「・・・あそこからここまで、100メートル以上はあるのに・・・そのはるか上空を・・・。」


「鎌司―――!!」

グラウンドの方から大声が聞こえた。

どうやら下葉が叫んでいるらしい。

下葉は両手を合わせ、【ゴメン】のポーズをとっている。


・・・どうやら、【校舎に近い】という理由で、鎌司にボールを拾いに行ってくれという意味らしい。

「・・・はいはい・・・。」

鎌司は仕方ないなとばかりにボールが飛び込んだ三階に向かって階段を上って行った。

三階に着いた鎌司は昔の事を思い出していた。

高校1年の頃、今と同じように吉宗先輩が打った打球を、

今と同じように校舎に取りに来た時に、

もう思いを伝える事が出来なくなったアノ人と逢った事を。


 鎌司は首からかけているお守りを、服から取り出した。

「・・・もう、あれから二年近く経つのか・・・。」

そう呟き、鎌司はお守りを仕舞った。

そしてボールが入ったであろう教室へと向かう。

・・・なにやら、えらくざわついている・・・。

 鎌司は嫌な予感がした。

ざわついているのは、数人の教師だった。

その五〜六人の教師の中に鎌司がちょくちょく話す教師がいたので指でツンツンとつついてみた。

「・・ん?」

その教師の名は【内場 歩】

28歳のいわゆる美人国語教師だ。

多くの生徒はその名前をモジって【ウチボ】と呼んでいる。

鎌司とは1年の頃国語の授業を受け持っていた事もあり、比較的よく話をする存在だ。

「あぁ。八木君。・・・このボール、アナタが打ったの・・・?」

ウチボは手に持ったボールを鎌司に見せた。

「・・・いえ。僕じゃありませんが・・・うちの部員が打ったものです・・・。」

「そ・・そう・・・はぁ・・・。」

ウチボはおおきくため息をつく。

「・・・一体どうしたんですか・・・?こうしてガラスが割れる事は今までもたまにありましたよね・・・。 

他の部活でもときたまあると思いますが・・・。」

「八木君・・・。 はぁ・・・。今回は、ね、割った窓・・・部屋が悪かったのよ・・。」

「・・・え・・・?」

鎌司は教室を見た。

なるほど、そういう事かと鎌司は思った。

その教室・・・部屋は、【理事長室】だった。

理事長兼校長の【親指 小次郎】はとても偏屈な事で有名な男だ。

「ワイは天守閣が好きや!」

との理由で、この三階にある教室のうち一つを【理事長室】として使っている。

部屋の中を見ると、理事長が大事にしているであろう大きな壷がパックリと割れていた・・・。


 「・・・八木君・・・。マズいわよ。 あの理事長がこれを見たら大激怒よ・・・。」

ウチボが腕を組みながら言った。

「・・・たしかに・・・。」

鎌司も腕を組みながら言った。

「ホンマ・・・。エラいこっちゃな・・・。」

鍋衣も腕を腰にやり言った。

・・・


・・・


「・・・姉ちゃん!・・・」

「おう、鎌司!」

「・・・いや、『おう、鎌司!』じゃ無いよ・・・。なぜここに居んだよ・・・。」

「あぁ。 なにやら鎌司が遅いからウチも来たんや。 なんや、壷割ってもうたみたいやなぁ。」

「・・・うん・・・。マズいね・・・。

あの理事長、今まで逆らう生徒はことごとく退学に追いやってきた悪魔の理事長だからね・・・。」

「フン。ウチにまかしとき。あんなクソ理事長なんかチョチョイノチョイや。」

「・・・え・・・。姉ちゃん、何か秘策でもあるの?・・・そしてチョチョイノチョイとか、もう死語だよ・・・。」

「まかしとき!」

鍋衣はポケットからアロン○ルファを取り出した。

「・・・はぁ・・・。」

「・・・はぁ・・・。」

鎌司とウチボは同時に手を額にやり、ため息をついた。


 



 「おう!鎌司!鍋衣ちゃん、遅かったな!」

グラウンドに戻ってきた鎌司と鍋衣にキャプテンの下葉が声をかけた。

「・・・うん・・・。それより、少しマズい事になったよ・・・。」

そう言う普段にもまして声のトーンが低い鎌司から下葉も何かを感じ取ったのか、

「もしかして、一枝の打球・・・なにやらぶち壊した・・・?」

「・・・うん・・・まあ・・・。理事長の壷を真っ二つに・・ね・・・。」

「ええ!!!あ・・あの理事長の・・・。」


「まあまあ、でも安心しいや!ウチが神業で何とかしといたから!ガッハッハ。」

そんなテンションの低い二人に反して鍋衣は自信満々の笑顔だ。


「・・・はぁ・・・。」

「・・・はぁ・・・。」

翌朝、速攻で鍋衣の【応急処置】が理事長にバレたのは言うまでもなかった。


 1時間目の授業中、ウチボが鎌司を呼び出しに来た。

「八木君・・・。ちょっと・・・。」

鎌司が教室の外に出ると、キャプテンの下葉がウチボの隣に立っていた。

ウチボは鎌司に、

「・・・八木君・・・。理事長、案の定激怒りよ・・・。」

と、遠くを見ながら言った。

ウチボは鎌司と下葉を連れて、昨日怪力一枝が打球を打ち込んだ理事長室へと案内した。

コンコンコン。

理事長室のドアをノックするウチボ。

「はい。どうぞ・・・。」

理事長であろう返事が聞こえた。


ガチャッ。

ドアを開き、三人が中に入る。


 ドアを開け中に入ると、両手をがっちり組んでこちらを睨みつける理事長が豪華な机に座っていた。

机の上には鍋衣の応急処置済みのおおきな壷。

「・・やぁ。ウェルカム。野球部員・・・。」

理事長の声は怒りで震えている。

ウチボがそんな理事長に対して口を開く。

「あの、理事長、彼らはただ一生懸命に部活の練習をやっていただけで・・・。」

「・・・シャラップ!内場君・・・。」

理事長はそんなウチボを制し、ちょっと大きな声をあげて立ち上がった。

「この壷を見たまえ。君たち・・・。」

理事長は壷を指さす。

壷の割れ目は一見わからないようにきれいにアロンアル●ァでくっ付けられていた。

(・・・綺麗にくっついているじゃないか・・・。姉ちゃんやるな・・・。)

鎌司はそんな事を思った。

理事長はそんな鎌司に対して手のひらをひらげ、

「シャラップ!シンガリボーイ!」

と言った。

(・・・シンガリボーイ・・・。)

鎌司はよく意味がわからなかった。

「これをよく見たまえ・・・シンガリボーイ。」

校長はゆっくりと壷を裏返した。

「・・・あ・・・。」


壷の裏側には、【なべい・作】の文字が削られていた。

(・・・姉ちゃん・・・いらぬ事を・・・。)

理事長はゆっくりとこちらに近付いてきた。

「シンガリボーイ、そしてゲルマンボーイ。」

(ゲ・・・ゲルマン・・・。)←下葉

「・・・不可抗力は、この理事長も仕方無いと思う・・・。

だが、こういう偽装工作はよろしくないねぇ・・・。

非常に不愉快だよ。私は・・・。」


「・・・す、すいません・・・。」

「あやまって済む問題じゃないんだよ。シンガリボーイ・・・。

私はね、非常に今回の事件で傷ついた。

よって、野球部を廃部にしたいと思っているのだよ。」

「は、廃部!?」

鎌司は思わず身を乗り出す。

理事長は余裕の表情で、

「フフ。どうせ、人数も足りておらぬのだろう。 これを期に、勉強に専念しなさい・・・。

君は勉強が出来るらしいじゃないか。シンガリボーイ。」

「・・・シ、シンガリとか言わないで下さい・・・。

壷を割った事は本当に申し訳ないと思います・・・。

しかし・・・いくらなんでも、廃部は酷すぎるんじゃないですか・・・。」


「フフフ。シンガリボーイ。私は理事長だよ。

私はこの学校の神だ。法律だ。全てだ!

今回の件で、野球部はこの学校にとってマイナスの存在だと判断したのだよ!」


「ちょっと待ってください!」

ウチボが前に出てきて大きな声で言う。

「理事長!いくらなんでも、廃部は酷すぎます!

彼らも反省しているようですし、なんとか考え直してはいただけませんでしょうか・・・。」


「フフフ。内場君。君は野球部に関係ないだろう・・・。」

理事長はそういうと、指をパチンと鳴らした。

ウィーン・・

理事長室の端っこのエレベーターが上がってきた。

中からは野球部顧問の【穴熊 卓磨】が出てきた。



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