夏に咲く桜(3)

創作の怖い話 File.144



投稿者 でび一星人 様





誰か勧誘してくれてるんとちゃうかな?

おれらには『今日は解散!』って言うて行ったんやけど・・・。」


「・・・解散・・・。勝手な指示を・・・。」

鎌司は放っておくとなぜか仕切りだす姉に対して少しムっとした。

・・・しかし、勧誘している間に辺りはもう暗くなって来ていた。

 なので下葉と相談し、今日はとりあえず解散しようという事になった。


 吉宗は「また明日!」と言って帰り、

鎌司と下葉は部室に戻り着替えた。

2人が部室で着替えていると、

ガチャッ!

部室のドアが勢い良く開いた。

「鎌司!下葉!吉宗・・・はもうおらんか。 朗報やで!部員捕まえてきたで!」

「・・え・・・。」

まさかの急展開に驚く鎌司を見て、鍋衣はニッコリと笑った。

「今、部室の外で待たせてあるから、早う着替えて出ておいでや!」

バタン!

そう言うと鍋衣は勢い良く部室のドアを閉めた。

カコン!

「痛てっ!」

その振動で落ちてきたヘルメットが下葉の頭を直撃した。

着替え終わった2人が外に出ると、鍋衣が四人の男子生徒を引き連れて立っていた。

「おう!鎌司!遅かったな!コイツら、野球部入る事にしたから!」

(・・・入る事に『した』・・・?)

四人の顔を見て、鎌司は唖然とした。

四人のうち三人の顔はボコボコに腫れあがっていた。

「はっはっは。鎌司、スマンな。 ちょっと勧誘が難航してな。」

(姉ちゃん・・・難航って、これはあきらかに武力行使の跡では・・・。)

そう思い、四人の顔を見た鎌司は更に驚いた。

そして鍋衣に言った。

「・・・姉ちゃん・・・勧誘って・・・この四人、姉ちゃんの舎弟達じゃないか・・・。」

そう。

皆に逃げられて勧誘不可と判断した鍋衣は、携帯で【舎弟】を呼び寄せ、

時には愛の鉄拳を駆使し、熱く野球部に入部してもらったのだった。

「はは。鎌司、まあ細かい事は気にすんなや! オイ!お前ら、自己紹介せえや!」


 鍋衣にそう言われ、四人はしぶしぶ自己紹介を始めた。


 「鍋衣組、NO1 綿 保、三年です・・・。アダナはモヤシです。 中1から高2まで、鍋衣さんのパシリをやっていました。

今回こういうオファーがあるのは正直『え?なんで今さら?』ってな感じです・・・。

スポーツまったくやった事ないし、受験勉強で超忙しいのですが、こうなった以上がんば
ります・・・。」


「鍋衣組、NO2 中田 九、二年です。 特徴として、やたらと足が速いです。

野球はどちらかというとキライですが頑張ります。ケッ。」


「鍋衣組、NO3 一枝 七郎、二年でごわす。 特徴として、やたらと力が強いでごわす。

相撲が得意でごわす。

好きなタイプは森久美子でごわす。」


「鍋衣組、NO4 右本 新八、二年でげす。 特徴として、やたらとエロいでげす。

特技は、50音全ての頭文字でシモネタが言える事でげす。

野望は、いつか鍋衣さんの隙を狙ってオッパイを揉む事でげす。」

何やら大変な展開になった・・・。

鎌司はそう思いながらも、メンバーが揃わない事には大会に出れない為、姉に感謝した。

これで6人になった。

あと3人・・・。



 翌日―――

授業が終わり、鎌司と下葉はグラウンドでアップのため走っていると、

「よう!元気かー!」

OBの吉宗が元気よく挨拶をし、やってきた。

「こんちわっす!」

「・・・こんにちは・・・。」

下葉と鎌司も挨拶を返す。


「おう!お前ら早いな〜〜!」

校舎の方から鍋衣もゾロゾロと【新入部員】を連れてやってきた。

鍋衣は実のところ野球部とはまったく関係ないのだが、最近はマネージャーの如く毎日顔を出している。

新入部員の四人は、まだきちんとした練習着が無い為体操服だ。

 「えと、それじゃぁ・・・何から初めてもらおうかな。」

下葉がキャプテンらしく、前面に立ち指示を出す。


 鍋衣とOBの吉宗はグラウンドの端の木陰の所に腰かける。

ここが定位置になっているようだ。

「なんや、鍋衣ちゃんが仰山連れて来てくれたおかげで、大分チームらしくなってきたやんか。」

吉宗がやわらかい口調で言った。

「ま、まあな。ヘヘ。もし言う事聞けへんかったらいつでもウチに言うてくれたらええからな。

あの二年の三人は放っといたら何しでかすかわかれへん狂犬やさかいに。」

「お・・おぅ・・・。頼むで鍋衣ちゃん・・・。」

練習風景を見ていると、

やたらと足の速い中田とやたらと力の強い一枝はそこそこサマになっているようだ。

元々運動神経が良いのだろう。

 問題はやたらとエロい右本とモヤシ。

モヤシは下手なりに一生懸命やっているが、

エロい右本は女子テニス部の方ばかり見ている。

そんな練習風景を見て鍋衣は、

「・・・右本・・・いや、エロ本の野郎・・・。後でボコボコにしなアカンな・・・。」

と呟いた。



 そんな感じで練習は続く。

「お前ら、初めてのわりには上手いやんけ〜!」

下葉は、俊足の中田と怪力の一枝が思いのほか良い動きをするので感心していた。


 そんな時だった。

校舎の方から一人の生徒が歩いて来た。

「・・・優真君・・・。」

鎌司がすぐにその生徒に気付く。

歩いて来たのは美角 優真だった。

優真はゆっくりと鎌司の元までやってきて、

「八木先輩、ちょっと話良いっスか?」

と、鎌司を呼び出した。

 鎌司は皆に声をかけ、少し離れた外野方面の端っこまで優真と共に歩いて行った。


 「・・・八木さん、昨日の女子生徒の事なんスけど・・・。」

鎌司はピンと来た。

元々繊細な部分のある優真君。

昨日の【ゆさぶり】に対して色々と考えたのだろう。

 【種を撒き、相手が動くのを待つ。】

鎌司なりに持っている勝負における劣勢時の哲学だった。

優真は何かもどかしそうに、

「・・・八木さん、あの美術部の女子生徒、【田丸 あゆみ】さんって言うんスけど、

昨日八木さん、オレがあの子の事好きなんじゃないかって言ってましたよね?」

「・・・うん。言ったけど・・・。」

「いや、その・・・実は・・・その読みバッチリなんスよ・・・。」

(丸わかりだったけど・・・。)

と、鎌司は思った。

「八木さん、コレ、見て下さい。」

優真はそういうと、ポケットから紙を取り出した。

紙には、小学三年生くらいが書いたであろう牛の絵が描かれていた。

「・・・カワイイ牛じゃない・・・。」

鎌司は絵から子供特有の純粋さを感じ、そう答えた。

「いや、コレ、猫なんス。オレが描いたんスけどね・・・。」

「・・・あ・・・ごめん・・・。」

「ま、まあソレはいいっス・・・。 この通り、実はオレ、絵心ゼロなんすよ・・・。」

「・・・うん。たしかに・・・。」

「はぁ・・・。」

優真は紙をおりたたみ、おおきくため息をついた。

「八木さん・・・。おれね、少しでも田丸さんに近付きたいと思って美術部に入ったんですが、この絵心でしょ?・・・

気を引くどころか、変に気を使わせちゃって・・・。」

どうやら優真なりにいろいろと考えているらしい。

「・・・優真君は、田丸さんにちゃんと気持ちは伝えたの・・・?」

「え・・・。いや、まだそんな気持を伝えるとかそういうところまで行ってないっスよ!」

「・・・そう・・・。」

鎌司は静かに空を見上げた。



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