黒い影(12)

創作の怖い話 File.134



投稿者 でび一星人 様





「今は、障子の外に更にガラス張りの戸が付いとる。 

そのおかげで、こんな寒い夜でも、暖かい部屋で外を眺める事が出来るっちゅー事やなぁ。」

「・・・。」


おしょうはそう言って、僕の向かいに座りなおした。

「・・おしょう・・・。それがどうかしたんですか・・・。」

「うむ・・・。」


おしょうは何か言葉を選んでいる感じだ。


「鎌司君・・・。その子は、君にとってどんな友達や? 親友か?」

「・・・。何というのかわからないんですが・・・。 一緒に居て落ち着く感じですね・・・。」

「ほう・・・。 もしかして、女か?」

「・・・。」

「うむ。なるほど。 鎌司君。いや、なるほどなるほど。」


 ・・・それは、何かを理解したような返事だった。

だが僕は、おしょうが何を理解したのか、何か誤解をしているのか

それが何なのかも解らなかった。


「・・おしょう?何かハッキリ言ってもらえないでしょうか・・・。」

「あ、いや、すまんすまん・・・。 そうやな。」


おしょうは空になった湯のみを机の端に置き、

「・・・鎌司君。 世の中、色々と便利になった。

昔と比べたら、それはもう豊かになったもんや。

・・・でも、な。 昔も今も、変わらんもんがある。」

「・・・。」

「・・・それはな、人は必ず死ぬ・・・っちゅー事や。」

・・・人は必ず死ぬ・・・。当たり前の事だ・・。 それがどうしたというのか。

「鎌司君。 君は【死神】っちゅーのを聞いた事があるか?」

「・・・死神・・・。」

死神・・・まさか・・・。


「うむ。 察しの良い鎌司君なら、だいたい理解したやろう・・・。

ただな、死神っちゅーのは、命を奪うモンや無いで。

寿命っちゅーのは、誰しもが持ってるもんでな。

死神は、その人が迷わんように、死が近付くとそばに迎えに来てくれるんや。

せやけど、皆誰しも死神が迎えに来てくれるもんとちゃうで。

まあ、死神が迎えに来てくれるっちゅー事は、その人は恵まれてるんかもしれんなぁ。」

死神・・・。

死神・・・。

まさか・・・。

氷室さんが・・・もうすぐ死ぬ・・・?


僕はいてもたってもいられず、おしょうの方に身を乗り出した。

「・・・死ぬって・・・どのくらいで・・・?」

「ん・・・それは、ハッキリとは解らん。

1日か、

1週間か、

1ヶ月か・・・。」


「・・・解らない・・・んですか・・・。」


「まぁ・・。鎌司君。人は誰しも最後は死ぬんや。 寂しいな。

寂しいのはよう解る・・・。

わしも、生きる上で大切な人を亡くした事があるからな・・・。」


おしょうはそう言うと、壁にかけてある写真を見た。

僕もおしょうと一緒にその写真を見た。


 写真には、若い頃のおしょうと、奥さんが写っていた。


「鎌司君・・・。大切なモノを失った時は、辛い。

それは誤魔化す事が出来んくらい辛い。

でもな、それは生きる上で、乗り越えんといかん試練なんや。」


「・・・運命・・・って、変えられないんですか・・・?どうやっても。」


「ん・・・。どうなんかな・・・。 先に何が起こるかが、正確にはわからんからなぁ。」

「・・・そう・・・ですよね・・・。」


 僕はおしょうにお礼を言い、帰路に着いた。

時間は夜の七時。

姉ちゃんは今頃吉宗さんと一緒に【ゴウコン】中だろう。


 家に帰り着き、玄関を開ける。

「・・・あれ・・・?」

玄関には、女性用の靴が三足置いてあった。

・・・姉ちゃん達、まだ家に居るのかな・・・。

靴を脱ぎ、居間に行く。


「おう〜鎌司〜おかえり〜。」


「・・・父さん・・・。」

居間を覗くと父さんが帰ってきていた。

父さんの目の前にはビールの缶が数本・・・。


「父さん・・・そんなに飲んだのかよ・・・。」

と言って、居間に入った時に僕は固まった。


「ね・・・姉ちゃん・・・と、その仲間達・・・。」

居間では、父さんと姉ちゃん、そしてその2人の友達が楽しそうに【宴会】をやっていた。


「おぉ〜!鎌司おかえりぃ〜!。」


姉ちゃんとその友達は高校生なのでジュースを飲んでいたが、テンションはかなりハイだった。


「・・・あ、あれ?姉ちゃん達、吉宗さんと一緒じゃないの?」


「鎌司ぃ!何言うてんねん!電話かかってくるって言うから待っとったのに、全然かかってこんかったやないか!!」

「・・・へ・・・?」

僕はキョトンとしていた。

「まぁまぁ、鍋衣ちゃん。お父さんも楽しい人やし、ウチらは楽しいからエエやん。」

姉ちゃんの友達は、姉ちゃんをなだめてくれている・・・。

「さ、鎌司君も一緒に話そう〜。」

・・・明らかにニガテなタイプなのだが、状況が状況なだけに断るわけにも行かない・・・。

 僕は仕方なく、香水臭い女の子の横で夕飯を食べる事となった。

・・・姉ちゃんは尚も不機嫌気味だ・・・。

おかずをつまみながらも、常に目線を逸らす僕を睨んでいる・・・。

あまりにもその視線が痛いので僕は

「・・・それにしても・・・なんで先輩から電話かかってこなかったんだろう・・・。」

と、問題の核心を解決する決意をしてそこに触れた。

姉ちゃんは不機嫌な表情で、

「もしかしたらなぁ〜。鎌司が、電話番号間違って教えたんとちゃうんかなぁ〜〜。」

・・・と、梅干を箸で潰しながら言ってくる・・・。

「・・そ、そんなはずは無いと思うけど・・・。」

たしかに、昨日姉ちゃんから聞いた電話番号は間違いなくメモしたはずだ・・・。

「あ〜あ〜。絶対鎌司が間違って教えたんやわぁぁぁ〜〜。あ〜あ〜。」

「まぁまぁ。鍋衣ちゃん。 もういいやん。」

香水臭いが、姉ちゃんの友達は僕を気遣って姉ちゃんをなだめてくれているようだ・・・。


・・・しかし、濡れ衣を着せられたままというのもなんだか嫌だ。


僕はサイフを漁り、昨日姉ちゃんから教えてもらった番号を書いた紙を取り出した。

「・・・姉ちゃん。僕が先輩に教えた番号、コレなんだけど、間違ってる?」


姉ちゃんは不機嫌そうに紙を受け取り、目を通すと

「・・・合ってる・・・。」

と呟いた。

「・・・ほらね・・・。やっぱり合ってるでしょ・・・。」

僕は紙を受け取り、またサイフに仕舞いこんだ。


「じゃぁ、なんで電話かかって来んねやろ・・・。」

姉ちゃんの顔は少し悲しそうだ。


 メモった電話番号は確かに合っている・・・。

そしてその紙もちゃんと朝、吉宗先輩に手渡している・・・。

口頭で伝えて、伝え間違いがあるというのはありえる。

だが、今姉ちゃんが確認した紙を、朝ちゃんと吉宗さんに渡しているのだ。

同じ紙なんだから、違う番号が書かれているはずが無い。

・・・

・・・

・・・


・・・ん・・・。

「・・・あっ・・・。」

思わず声が出てしまった。

「・・ん?どないしたんや?鎌司?」

姉ちゃんや父さんや、NAVEIフレンズ達が僕を見る。


「・・い、いや。何でも無いよ・・・。」

僕はひとまず誤魔化した。

矛盾に気付いたから・・・。


そう。

朝、吉宗先輩に渡したはずの【姉ちゃんの番号をメモった紙】が、今僕の手元にあるという矛盾に・・・。


 そういえば、氷室さんは今日の別れ際に



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