黒い影(3)

創作の怖い話 File.125



投稿者 でび一星人 様





「・・・なんか、シャクだな・・・。」

ガタッ。

そう呟き、僕はゆっくりと席を立った。

そしてざわついているのを利用し、担任に気付かれないように教室を出た。


向かう先は職員室。

どのクラスの担任もやっていないウチボはきっと職員室にいるだろう。



 職員室に入り、部屋を見渡す。

・・・ウチボは居ないようだ。


 「ん、オイオイ!どうした?今はHRの時間やろうが?」

生活指導の教師が僕の方へと駆け寄ってきた。

「・・・はぁ。 すこし内場先生に用事がありまして・・・。 職員室と聞いていたのですが?」

「・・ん、おお。そうやったか。内場先生に呼びだしくらったんやな? 先生ならそこの奥の部屋でプリントつくっとるわ。」

そう言って生活指導の教師は奥を指さした。

「・・・ありがとうございます・・・。」

僕はその部屋の前に行き、ドアをノックした。


コンコンコン

「どうぞ〜。」

奥からウチボの声が聞こえてきたので部屋に入った。

「・・・どうも・・・。」

「あら?八木君。どうしたの?」

「・・これ・・・。」


僕はポケットから折りたたんだ試験結果の紙を取り出し、広げて見せた。


「・・・ん?それがどうしたの?相変わらず良い成績ね。自慢しにきたのかしら?」

・・・僕はやはりこの教師が好きでは無い。

「・・・この数字、おかしくないですか・・・?」

僕は国語の点数と順位を指さして言った。

ウチボは少し難しい顔をして、そこを覗きこみ、クスっと笑った。

「フフ。別に間違っては無いわよ?あなたが二番目だっただけよ。」


「・・・二番目?もう1人100点が居たという事ですか?その上下ってアナタの判断で決めてるんですか・・・?」

 
 「フフフ・・。八木君もそんなふうにつっかかって来る事、あるんだ。」

ウチボは両肘を机に付き、身を乗り出しながら言った。

正直、鬱陶しい・・・。

「・・・フザけてないで答えてくれませんか・・・?」


「はいはい。 フフ。 アナタより単純に上が居たって事よ。 102点の子が。」

「・・・102点・・・?」

「そうよ。102点。」

「・・・僕、どこか間違っていましたか?たぶん前問正解だと思うのですが・・・。」

「うん。さすがだったわ。八木君は前問正解よ。」

「・・・矛盾していますね・・・。」

「矛盾?フフ。そうかもしれないね。」

「・・・。」



「怒ってるの?八木君?」

「・・・。」

「ゴメンゴメン。そういう感情的になった君を見るのは初めてだったから。

 102点というのはね、氷室さんなの。前に転校してきたアノ子よ。」

「・・・誰かは聞いていません・・・。」

「あ、ゴメンゴメン。 氷室さんが102点だった理由はね。 彼女、答案用紙の裏に詩を書いてたのよ。」

「・・・詩・・・?」

「そう、詩よ。とても良い詩。八木君も読んでみる?」

「・・・。」


 ガンッ!


部屋中に、僕がカベを殴った音が鳴り響いた。

僕は何も言わず、部屋を出た。

「あ・・ちょ、ちょっと八木く・・・。」



廊下を歩き、教室へと向かう。

「・・・フフ・・・。」


ついつい、笑ってしまった。

僕は呟く。

「・・・僕とした事が・・・あんな事で感情的になってしまった・・・。」

自分でも情けない。

次からはこんなつまらないことで感情的にならないように気をつけなければ。

学校は昼で終わり。

僕は昼からの部活の為、部室に向かう。


「あ、八木君!」

後ろから僕を呼ぶ声が聞こえてきた。

振り向くと、ウチボ先生が駆け寄ってきていた。

「・・・。」

「はぁはぁ。 八木君、はいこれ。」

ウチボは手に持った紙を僕に手渡そうと差し出した。

「・・・何ですか?これ。」

ウチボはニコっと笑い、

「朝、職員室で言ってた氷室さんが書いた詩よ。 八木君は絶対に読んでみたほうがいいわ。 この詩はね・・・。」


「・・・。」

僕は無言でその場から立ち去ろうとする。

「あ、八木くん!ちょっと待って!」


ウチボは僕の後についてくるが、一切無視した。


そうして歩いていると、ウチボも諦めたのだろう。

居なくなった。


済んだ事をなぜ蒸し返す?

無駄の多い大人は本当に厄介だ。

子供と違い、素直に考えを変える事を知らないから。



 練習着に着替えるため、部室に入るとキャプテンの吉宗先輩が着替えていた。

「お、鎌司か。早いなぁ。」

吉宗さんに一礼して僕も着替える。

着替えも終わり、準備をしようとボールやベースを棚から引っ張り出していると、

「鎌司、マダ早い。少し話しせーへんか?」

と、吉宗さんが話しかけてきた。

「・・・はぁ・・・。」

たしかに、まだ時間も早い。


 先輩が座るイスの横に、僕も座る。

「鎌司、野球楽しいか?」

吉宗さんはボールを右手でポンポンしながら聞いてきた。

「・・・楽しいですよ。 だからやってます・・・。」

「・・・そうか。」

先輩は帽子をかぶり、腰を上げた。

そして僕に背を向けたまま、

「鎌司、お前好きな人おるか?」

と聞いてきた。

「・・・何ですか。一体・・・。」

「ハハ。いやいや。 お前みたいに勉強も出来て運動も出来て、

何よりそれだけ男前なんやから、彼女くらいおるやろう?って思ってな。」

「・・・居ませんよ・・・。別に今はそういうのに興味ありませんから・・・。」

吉宗さんは一体なぜこんな話をするんだろう・・・。

普段はマジメな人なのに・・・。 イメージが少し変わった。


 「・・・とりあえず、練習の準備してきますね・・・。」

「あ、まてまて。ちょっと待て鎌司。」


吉宗さんが呼び止めるので、僕は足を止める。

「きっとなぁ、鎌司。お前は身近に、すごく綺麗な姉がおるやろう?」

・・・姉ちゃんの事か・・・。


たしかに、姉は美人らしい。

なにやら文化祭の企画で誰かがやった、【イケメソ、美人コンテスト】で見事姉ちゃんが選ばれていた。

ちなみにイケメソの部では僕が選ばれたのだが・・・そういうので舞台に立ちたいとは思わないので辞退した。

結局、2位に選ばれた【亀礼 素次】 という三年の人が舞台に立って表彰を受けていたようだ。

吉宗先輩は続ける。

「身近な身内の女性が、ステキすぎるから、きっと他に魅力を感じんようになってしもうたんとちゃうかな。鎌司は。」


「・・はぁ。・・で、だからどうしたんでしょうか・・・。」


「ん・・・いや、まあ、な。」

なにやら吉宗さんの様子がおかしい・・・。


「まあ、あれや・・・うん。鍋衣ちゃん・・な、あ、アレやで?

鎌司も一緒にって意味やけど、一回メシでもどうかな〜って思ってな。アハハハ。」

・・・なるほど。

吉宗さん、姉ちゃんに気があるワケか・・・。


「・・・別に良いですよ。吉宗さんなら。一応誘っておきます・・・。」



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