何度も落ちる霊(5)

創作の怖い話 File.112



投稿者 でび一星人 様





かーくんは、その日、意外な一面を見せた。

今までは、【何かに熱くなる】事がまったくなかったかーくん。

そのかーくんが、ほんのりストーカー化した・・・。


 かーくんは、電話で『ごめりんこ』と言われた後、

席主のオッサンに将棋連盟のある場所を聞き、

連盟でツルッパゲの家を聞き出して訪ねた。


ウチは、そんなかーくんを電信柱のカゲに隠れてジっと見とった。

 ツルッパゲは、玄関を開けてもくれんかった。

かーくんは、家の前に立ってずっと待っとった。

ウチも、じっと電信柱のカゲで待っとった。


外が暗くなり、オトンも心配してるやろうから、ウチは一旦帰ることにした。

かーくんは、ツルッパゲの家の前で正座していた。



家に帰るとオトンが夕飯を作ってくれていた。

休日はオトンが飯を作ってくれる。


 あまり美味しくない夕飯をとりあえず食べ、

弁当箱にかーくんの分を詰めて、またツルッパゲの家に向かった。

オトンは「風邪引くなよ〜。」って、ヘラヘラ笑ながら手を振っていた。

・・・なんちゅー親や・・・。



 「かーくん、夕飯や。」

正座しているかーくんに弁当を手渡した。

「・・あ・・お姉ちゃん・・・。」

かーくんは眠そうな顔をしていた。

「・・・ありがとう・・。」

かーくんは弁当を受け取った。

「なぁ、かーくん、いつまでそこに座ってるつもりなんや?」

ウチが聞くと、かーくんは

「・・・僕を・・・那覇村先生が弟子にしてくれるまで・・・かな。」

と言って弁当箱を開ける。

「・・・お姉ちゃん・・・今日の夕飯・・・・ネコマンマだったんだ・・・。」

かーくんはオトンの名作ネコマンマを食べようとしたが、問題が発覚した。

「・・・箸・・・入って無いね・・・。」

「あ。」


かーくんは、ネコマンマを本当に猫のように食べた。


「・・・ありがとう。お姉ちゃん・・。おいしかったよ。」


その後もかーくんはそこに座り続けた。

ウチも帰ったフリして、電柱のカゲで見守り続ける。

ツルッパゲは出てくる気配が無い。

ウチはウトウトして、そのまま眠ってしまった。


チュン

チュンチュン・・


気がつくと、辺りはもう明るくなっていた。

「・・ん?何やこれ??」

ウチの体にはタオルケットがかけられていた。

向こうで寝ているかーくんの体にも同じようにタオルケットがかけられている。


一体誰が・・・。


しばらくするとかーくんも起き、また正座をしてツルッパゲが出てくるのを待ち続けた。


昼頃になった時

ポツ


ポツ・・・

雨が降り始めた。


かーくんは微動だにしなかった。

そんなかーくんを見ていると、姉としてウチも屋根のあるところに行くワケにはいかなかった。



ガラガラガラ・・・

そのとき、ツルッパゲの家の玄関が開いた。

「・・・オイ。入れ。 そんなところにずっと座られたら、落ち着いて飯も食えへんわ。」


「・・・ありがとうございます・・・。」

深く一礼するかーくん。


ツルッパゲは続けて、

「それと・・・あそこにいるオメェの姉ちゃんも、一緒に入れてやれ。 

こんな幼い女子を濡らすのは男としてルール違反や。」

と言ってウチを指さした。

「・・あ、お姉ちゃん・・・。」

ツルッパゲは、全部お見通しやったんやな・・・。



 家に入れてもらったウチらに、ツルッパゲは、熱いお茶と、一杯のかけそばを出してくれた。

 ウチらは軽いサバイバル状態でそのそばをたいらげた。


「・・・まったく、坊主にはまいったよ。 オレぁ弟子はとらねぇって決めてたんやけどな・・・。 

こんだけ家族ぐるみで座り込みされたら、オレの負けやわなぁ。」


ズズっとお茶をすすりながらツルッパゲは言った。

かーくんは静かに頷き、「・・・ありがとうございます・・・。」と一言。



「坊主。 しかし、やるからには、オメェには泣いてもらうぞ? オメェの筋はズバ抜けた才能がある。

 きっとどれだけショボい師匠がついたとしても、オメェは間違いなくプロになれる器があるやろう。 

・・・ワシが師匠になるっちゅー事はやな、

坊主には、最低でも名人になってもらうで。」


「・・・名人・・・。」



「・・・んま、今日は細かい話は無しや。 もう帰ぇれ。 明日から、坊主は学校が終わったらとりあえずウチに来い。 

毎日や。 休むなよ? 休めば破門や。」

「・・・はい・・・。よろしくお願いします・・・。」



 ウチらはツルッパゲに見送られながら家を出た。

家を出るときにウチは、

「あ、そういえば、タオルケット、ありがとうな。」
と、お礼を言った。

ツルッパゲは、「ん?ワシゃ知らんで?」

と とぼけとった。

意外と照れ屋なツルッパゲなのかもしれない。


 家を出て、駅までかーくんと2人で歩く。

そこでふとウチは将棋クラブでの事を思い出した。

「あ、そういえばかーくん、将棋クラブでのあの【ドンッ】て音・・・ アレ、何やったんや?

 かーくん、窓の方見るなって言うてたけど・・・。」


「・・・うん・・・。 皆、音だけは聞こえてたみたいだよね・・・。 」

かーくんには、いわゆる【霊感】というのがあるらしい。

本人いわく、小さい頃と比べたら、弱冠見えにくくはなってきたそうだが、姿とかもそこそこ見えるらしい。

 ウチはまったく見えへんからピンと来んのやけども・・・。



「あそこの窓からね、 おおきな肉の塊が、飛びおりてたんだよ・・・。」


「肉の塊?」


「・・・うん。 肉の塊・・・。たぶん、元は人の形だったのかもしれない・・・。 

飛び降りた後、階段を登って部屋に戻って来て、また飛び降りてた・・・。

何度も何度も飛び降りてたよ・・・。

飛び降りるたびに、頭の部分の肉の形が変わってた・・・。

でも、目だけははっきりと部屋の人たちを見回してたよ。

あれはきっと、【自分に気付いてくれる人間】を探してるんだ・・・。

だからもし目が合うと・・・。」


「目が合うと?」


「・・うん・・。よくわからないんだけど、憑いて来るか・・・連れて行かれるか・・・だと思う・・・。」


「・・・ハハ・・連れて・・なぁ・・・。ハハハ。」

見なくてよかったぁ〜〜〜

心底ウチは思いましたで。



 かーくんは、よく遊びに行くお寺のお坊さんに相談しといてくれるそうや。

ウチはそのお寺、何や怖いから行った事ないんやけどな・・・。



 そんな話をしながら、駅に向かって歩いている途中、道端に寝ている大人を見かけた。

「ほんま・・・こんな朝っぱらから、酔っ払いかいな・・・。」


 ウチは大人の嫌な部分を見たくないと歩調を速めたんやが、かーくんが立ち止まった。

「・・ん?かーくん、どないしたんや?」

かーくんは、その道端で寝てる大人を見ていた。そして、

「・・・お姉ちゃん・・・あの人がかけてるの、アレ・・・。」


「ん・・?あ!」

その人が体にかけているタオルケットは、ウチらが朝かけてもらってたタオルケットと同じものだった。


気になったので近づく二人。

そして寝てる人の顔を見て、二度驚いた。

「オトン!」

「・・お父さん・・・?」



その横に、ド○キホーテのレシートが落ちていた。 【タオルケット×3枚】と書いてある。



 タオルケットをかけてくれたのは、オトンやったんやな・・。


ありがとう。 オトン。



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