ミス(2)

創作の怖い話 File.105



投稿者 でび一星人 様





旦那の裕史はサイフから一万円をとりだし、テーブルに置いた。 心で『ナムサン!』って叫んでいるのが伺えた。


マフラーをまき、コートを羽織り、

「泳吉!ごめんだけど沙織を家まで送ってくれないか??」

と裕史は永吉君に言う。

泳吉君は、

「お、おう。そのくらいお安い御用だ。 裕史も気をつけろよ!」

「わかった。 ありがとう。」

裕史はそう言うと急いで外に飛び出していった。


「・・・ま、まあさ、きっと大丈夫だろう。 沙織ちゃん、もう少し飲む?」

泳吉君が場の雰囲気を和まそうと私にお酒を勧めてくれた。

「あ、ありがとう。じゃあ、一杯だけ。」

「OK。じゃ、ちょっとお酒取ってくるわ。同じので良いよね?」

泳吉君はそう言うと席を立った。

「あ、泳吉君!わざわざ行かなくても、店員さん呼べばいいんじゃない?」

私が泳吉君を呼び止めると、

「うん。見てみなよ。」

泳吉君は店員さんの方を見た。

「今日は週末。 店は満員。 忙しそうだろ? ちょっとくらいなら自分でやってやんないとね。」

ニコっと笑って泳吉君は厨房の方へと歩いていった。


・・・裕史と違って、ものすごく気遣いの出来る人なんだと再確認した・・・。

このへんが友達の多さに繋がってるのだろう・・・。




泳吉君が自分の分と 私の分のお酒を持って来てくれて、

私たちは残りのお肉をたいらげ、その一杯のお酒を飲み、店の外へ出た。


「わざわざ、ごめんね・・・家まで送ってもらって・・・。」

帰り道、隣を歩く泳吉君に申し訳なさそうに言った。

「いいよいいよ。気にしないで。」

泳吉君は終始笑顔でやさしく答えてくれた。

「でも・・本当にごめんね。 もし奥さんに見られたりしたら、揉めたりしない?こんな美女と歩いてるところを・・・。」


泳吉君は困ったのを隠したような表情で、

「う・・うん。だ、大丈夫。 おれ一人身だから。」

と言った。

「え?泳吉君、結婚してなかったんだ! 意外。 なんかまとまった感じなのに。」

「・・・まとまった・・・。微妙な表現アリガトウ・・。」

いよいよ困った感を隠せなくなった泳吉君は、変な表情でそう答えた。


私は「なんで、結婚しなかったの? あ、ごめんなさい。

もしなにか良いにくいワケがあったら答えなくて良いから。」と聞く。

泳吉君は、少しの間を置き、

「う・・ん・・。 お見合いは、何度かしたんだけどね・・・。」

と切り出し、この歳まで一人身でいるワケを私に話してくれた。


製薬会社に勤め、研究開発部門にいる泳吉君は、それなりの成果をあげ、そこそこに給料ももらっているらしい。

となると、やはり心ない女性も近づいてくるものだ。

若い頃は、そんな女性ともお付き合いしたりしたのだが、やはり一緒に居ると相手の心無い部分は見えてくるもの。

そんな付き合いを数度繰り返すうちに、初期の段階で相手の腹のうちが見えるようになった。

そうなると、自分に近づいてくる女性のほとんどが、

自分ではなく自分のステータスに惹かれてるんだという虚しさを感じるようになった。


 そして気付けばこの歳に・・・という事だった。

「・・まあ、人間のほとんどは、そういう見方をせずに、

それなりに結婚して、幸せを感じて生きてるのかもしれないけどね・・・。」

そう語る泳吉くんはすこし寂しそうだった。

「・・裕史や、沙織ちゃんがうらやましいよ。 

2人は、ステータスなんか関係なく、本当に好き同士なんだなって思う。 いいな。」

寂しそうに笑う泳吉君。


「そ、そっかなぁ・・。そう言われたら照れるけど、でも、アレよ。いろいろ問題もあるよ? 

安月給だしね〜。ハハハ・・・。」


泳吉君は黙って微笑んでいた。


それから会話も途切れ、2人で夜道を歩いていると、急にものすごい睡魔が私を襲ってきた。

「・・大丈夫?沙織ちゃん、眠いの?」

「・・う、うん・・・ちょっと飲み過ぎたかな・・。 大丈夫・・大丈夫・・。」


そうは言ったが、眠すぎる・・。 うかつだった・・。 

たしかに楽しかったから、ついつい普段より飲んでしまっていた。


泳吉君は私を支え、

「本当にヤバそうだよ? ちょっと休憩しよう。 足元がおぼついてないし。」

「ぃゃぃゃぁ・・平気平気・・。 帰れ・・る・・から・・。」


ダメダ・・意識がモウロウとする・・・。


途切れ途切れの意識の中・・・


泳吉君が「そんな状態じゃ無理だって!ちょっと休憩しよう!」

と、私に話しかけているのがわかった。

その後は・・・


なにかお店に入って・・・


泳吉君が私をベッドに寝かせて・・


服を脱がせてもらって・・・。


お互い裸になって・・・。


・・・。







プルルルルルル・・・


プルルルルルル・・・。



「ん・・・。」


枕元に置いてある電話の音で私は目が覚めた。


「う〜ん・・・。どこだここは・・・。」


ふと周りを見渡すと、隣に泳吉君が寝ていた。

!!!!!


2人とも裸だ。

プルルルルルル・・・


私はとりあえず電話にでた。

『あ、チェックアウトまであと30分ですが、ご延長の方は?』

「え、えぇ・・。い、いや、けっこうです。」

『チェックアウト10時になってますので、番号札だけ持って受付までお願いしますね』

ガチャッ



え・・

ええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!



私は昨日の途切れ途切れの記憶を辿った。

飲みすぎて足元のおぼつかない私をかかえ・・

泳吉君は「とりあえず休憩しよう」とここへ入った・・・。

その後・・・。


途切れ途切れながらも、私はハッキリと思い出した。

ハッキリ、2人は【行為】をした。


その部分だけ覚えていないとかではなく、

しっかりヤっていた・・・。

覚えている・・・。

あぁぁぁぁぁぁなんということを・・・・・・・・・・。


「う〜ん・・。」

泳吉君も目を覚ましたようだ。

「あ・・。」

私の顔を見て、泳吉君は「あ・・ご、ごめん・・こんなつもりは・・。」

と謝った。

「・・・・」

私は何も言えなかった。


泳吉君は、「おれ・・こんなつもりじゃ・・。 本当に沙織ちゃんが眠そうだったから・・少し休もうと思って・・。」


「・・なんで?なんで・・・。」


私は何か言葉を出そうとしたが、上手く単語が出てこない・・。

泳吉君は、

「こんな事はいいたくないんだけど・・やっぱり男として、ああやって誘われたら・・。」


誘う?

何?

私から誘った?

そんな・・・。


「・・い、いや、やっぱり、意地でも断らなきゃいけなかったよな。 ごめん!本当にごめん!沙織ちゃん!」

「・・・・。」


パニック寸前だった。


とりあえず私たちは服を着て、一緒に受付に向かうエレベーターに乗った。


泳吉君は、「裕史には・・裕史には絶対に黙っていよう・・・。」

と言った。

当たり前だ・・。

こんな事言えるわけない・・・。


泳吉君が会計を済ませ、無言の私と一緒にホテルを出た。




運命というのは、時に残酷なもの。




「・・・あ、」


丁度その出てきたところを、裕史が歩いていた。


そしてハッキリと、私たちを確認された。



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