ミス(1)

創作の怖い話 File.104



投稿者 でび一星人 様





「もう、おれも51歳かぁ。早いなぁ〜。」

シャツの襟を整えながら、妻の沙織に話しかけた。

「もう、おっさんね。 私はまだまだお姉さんだけどね。」

沙織も化粧をポンポンってしながらおれに返事を返す。


「・・・歳、同じじゃん・・・お姉さんはもう厳しいだろ・・・。」

「何か言った?」


「いいえ・・何も・・・。」



 今日は、同級生の泳吉が「久々に飯でも食おう!」と誘ってくれたので、

これから沙織と一緒に泳吉と会いに行く。


小学二年の息子と娘がいるのだが、けっこう健康的な子たちで、夜の八時にはもう熟睡している。

なので夜には比較的夫婦で出かけたり、×××したりはしやすいのである。

「お父さん(おれの事)、準備できたぁ?」

「おう。 出来たよ〜。」

「OK〜 サイフ忘れずにね☆」

・・・家計からは出してくれないんだ・・・。

「う〜寒い・・。」

外は1月の極寒。

もうおっさんとおばはんだが、おれと沙織はくっついて、泳吉の待つ【和牛亭】に向かって歩いた。


 そういえば、泳吉と沙織は実際に話した事は無いのではなかろうか?

泳吉は、おれが高校三年の頃同じクラスだった親友だ。

・・・高校生活で、唯一の友達かもしれない・・・。


沙織は、二年の頃おれと同じクラスだった。

そして、沙織と泳吉は同じクラスになった事が無い。


 結婚式の時、泳吉にも出席してもらったのだが、

もちろんその時の沙織は分厚い壁のような化粧だったし、会話はしていなかったと思う。

泳吉は仕事の都合で二次会には参加していなかったし・・・。


 だが、話した事はないかもしれないが、そこは同じ高校。

存在くらいはお互い知っていると思う。


「なぁ、沙織、今から会う泳吉って、話した事あったっけ?」

おれが聞くと沙織は、

「う〜ん。 お父さん(おれの事)と同じクラスだった子だよね? たぶん無かったと思うけど・・・。 

でも何か、別件でその名前は聞いたことがあったような・・無いような・・。」

沙織は7秒くらい首をかしげて考えて、

8秒後には、何事もなかったかのように話をスルーしていた。




 ガラガラガラ・・・


「へい、らっしゃい!」

店員が駆け寄ってくる。

「何名さんで?」

おれは、「あ、友達と待ち合わせしてたんですけど・・・。」
と言って店内を見渡した。

「あ、あいつです!」

泳吉が手を振っていたのをみつけ、おれも笑顔で手を振り返した。


「こんばんは。」 「こんばんは。」

席に着き、沙織と泳吉がギコい挨拶をする。


「ん・・・どこかで会った事ありましたけ・・・?」

沙織が泳吉にしかめっつらをして聞いた。

泳吉は、「・・ん?結婚式で見た顔だからじゃないの?ハハハ。おれは沙織さんの【素顔】は始めて見るけど。」

と、笑っていた。


酒を飲み、

焼肉をつつき、

おれたち三人は楽しく会話をした。


泳吉と沙織も、打ち解けて今は友達のように話している。


・・・いいもんだな。

友達が少ないおれは、

親友と最愛の人に挟まれて会話する幸せをひしひしと感じていた。


そんなとき、おれの携帯が鳴った。



デロリレレ〜ン

リレレレ〜ン


デレロロ〜ン・・・


「・・ちょっとアンタ・・・。その気持ち悪い創作の着メロ、いいかげんに辞めなさいよね・・。」

沙織が不機嫌そうに言う。

「い、いいじゃんかよ。おれは気に入ってるんだから・・。」

正直、言い返す元気を見せかけたが、心はチクって痛かった。



携帯を見ると、【ガチャピン】の文字。

ガチャピンとは、職場の後輩のアダ名だ。

「・・・何だろう・・・こんな時間に・・・。」



おれは携帯に出た。

「もしもし?」

『あ、八木(おれの名字)さですか?大変です!!』

なにやらガチャピンはただ事では無い様子。

「何?何があった?落ち着いて話せ。」

『はぁ・・はぁ・・ お、OKです。 八木さんも、落ち着いて聞いてくださいね。』

「お、おう。心の準備はOKファームだ。 どうした?」


『あのですね、率直に言うと、社長が倒れました。 

おれもさっき出可尾先輩から連絡回ってきて知ったんですが、

ドンブリ総合病院って、場所知ってます?そこに社長いるそうです。

 意識はまだ無いみたいなんで・・。 とりあえずおれ、今から行きます。 八木さんも、もし来れれば・・・。』


「わ・・わかった。 わかるよ。そこ。 おれも今から行くから。 」





電話を切る。

「・・ごめん、あのさ・・。」

言いかけた時、

「だいたいわかるよ・・。 お前の口調で・・。 何かあったんだろ?」

泳吉が察して聞く。

「あ、あぁ。 社長が倒れて、今ドンブリ総合病院に運ばれたそうなんだ。 ごめんだけど、おれちょっと行ってくるわ。」

おれはサイフから一万円をとりだし、テーブルに置いた。 心で『ナムサン!』って叫んで。


マフラーをまき、コートを羽織り、

「泳吉!ごめんだけど沙織を家まで送ってくれないか??」

泳吉は、

「お、おう。そのくらいお安い御用だ。 裕史(おれの名前)も気をつけろよ!」

「わかった。 ありがとう。」

おれは急いで店を飛び出し、路駐しているタクシーに飛び乗った。




どんぶり総合病院はそんなに遠くは無く、20分ほどで着く事が出来た。


料金を払い、病院の入り口に行くとガチャピンが待ってくれていた。


「あ、八木さん。 こっちこっち!」

手招きしてくれるガチャピンとエレベーターに乗る。


エレベーターの階数表示を見つめながらおれは、

「・・ところで、社長の具合はどうなんだ?」と聞いた。

「・・意識は無いみたいですね・・。ただ、山は越えたらしいです。 ひとまずは安心してください。」

「そ、そうかぁ。」


少しホっとした。

社長は、職を失いとある理由でこの身一つで大阪に来たおれを雇い、

一から仕事を教えてくれて、すごくかわいがってくれた人だ。

 病室に入ると、酸素マスクをつけ、点滴をうってはいるが、スヤスヤと静かに眠る社長がいた。


ちょうど様子を見に看護師さんが来てくれてたみたいで、

「あら、社員さんの方ですか。 この社長さん、人望が厚いんですね。 

奥さんはさっき着替えを取りにお帰りになられました。 

相当お疲れなように見えたんで・・、出来たら、奥さんは今夜一晩ご自宅のほうでオヤスミになってもらって、 

今夜は誰かここに付き添いで泊る事は出来ますか?」

おれは迷わず「あ、おれ、居ます。 朝奥さんが来るまでだけでも。 心配なんで。」

と返事をした。

「おねがいしますね。」

看護師さんはそう言うと点滴の速度を調節し、外へ出て行った。

ガチャピンは、「八木さん、おれちょっと朝用事あるんで、今日は帰りますね。 

あ、社長の奥さんには、おれから電話いれときますんで。 看病お願いします。」

と言った。


「あぁ。わかった。 いろいろ連絡ありがとう。 助かったよ。」

おれがそう言うと、ガチャピンは一礼して帰っていった。


「社長・・・。」

おれは椅子に腰かけ、社長を見ながらウトウトし、そのまま眠りに入っていった・・・。



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