DV(2)

人間の方が幽霊よりも怖い話 File.5



投稿者 でび一星人 様





・・・足が痛い・・・。

火傷が痛む・・・。

林田さんは仕事に行った。

私は家に一人。

仕事を辞め、

林田さんが居ない家に居る時間が出来、

心の休まる時間が出来た気がした。

そんな時に、私は携帯電話のサイトを暇つぶしでなにげなく見ていると、

【DV掲示板】というのを見つけた。

最新の映画か何かのDVD情報と思い、私は覗いてみた。

そこには、亭主の暴力で悩む人たちのいろんな意見が書きこまれていた。

そして、DVとDVDが別ものであると私は知ったのだった。


毎日夜八時頃に林田さんは帰ってくる。

夕方七時頃になると、私は気持ちがどんよりとする。

林田さんは、スナックやラウンジ等、数件のお店を任されてはいるが、

基本は朝家を出て、夜に帰ってくる生活をしている。

店の営業は基本店の者に任せていて、

自分は営業前の各店を回り、会議やら事務的なことやらをしているそうだった。


家に居る時間が増え、家事全般はきっちりこなせるようになった。

でも、林田さんの暴力は減る所か更にエスカレートしていった。

どれだけきっちり掃除をしても、ツツこうと思えば小さい汚れはいくらでも見つけられる・・・。

私がきっちりやった事は、ただただ暴力を振るわれるハードルを下げているだけのようだった。


ある日私は、さすがに耐えかねて、実家に帰る事を決意した。

朝、置手紙をして実家に帰った。


だが、不幸にも母は旅行に出かけていて、実家に入る事が出来なかった。

時間は過ぎ、夜になった。

実家の前でたたずんでいると、ゆっくりこちらに歩いてくる林田さんが見えた。

こちらを睨んでいる・・・。

手には棒のようなもの。

私は走って逃げた。

でも相手は男性。

女の私よりはるかに足は速い。

足音はだんだん大きくなる。

必死で私は走る。

その時、目の前に交番が見えた。

なんとか私は駆け込んで、おまわりさんに、

「た、助けてください! 殺されます!」と叫んだ。

奥からひょっこりと、小柄な中年のおまわりさんが出てきた。

と、同時に林田さんも交番に入ってきた。

しばしの無言の後、林田さんがまず口を開いた。

「・・沙織、さ、帰ろう。」

おまわりさんは不思議そうに見ている。

私はこのチャンスを逃したらもう林田さんから逃げることは出来ないと思った。

「おまわりさん!助けてください!お願いします!」

おまわりさんはすこし顔をしかめて、林田さんを見た。

林田さんは一呼吸置いた後、おまわりさんに

「すいません。最近いろいろあって、少し疲れてるんだと思います・・。 ご迷惑おかけしました。 さ、帰ろう沙織。」

と、私の手を引いて外に連れて行こうとした。

「離して!」

私は林田さんの手を振り払った。

「助けてください!おまわりさん!」

すがるようにおまわりさんの後ろに行った。

おまわりさんは私と林田さんの顔を、訝しげな顔をしながら交互に見ている。

そして、そっと私に語りかけた。

「・・・何があったか知らないけど、ね、お姉さん、一回二人でゆっくり話し合ってみたらどうだい?」

・・・何を言ってるの?このおまわりさん、何も知らないからこんな事を言えるんだわ!

「これ、見てください!」

私は袖を捲くり、腕にできた痣をおまわりさんに見せた。

と、その瞬間に林田さんが口を挟んだ。

「おいおい・・・。そんなことしたらおまわりさんも困るだろう。。。 

すいません。おまわりさん。こいつおっちょこちょいで、 よく転んで痣作るんです。」

な に を 言 っ て る の ? ? ?



おまわりさんも、切羽つまって目の焦点が合ってない私の言葉よりも、冷静な林田さんの言葉を信じたようで、

「ま、お姉さん、家でゆっくり話しあって、落ち着いてきなさい。」

と、笑顔で私の肩をポンっとたたいた。



私と林田さんは、二人並んで家に向かって歩いていた。

私は恐怖で小刻みに震えていた。

林田さんは、「寒いのか?」と言って、やさしくコートをかけてくれた。

そして、

「・・沙織、ごめんな。手紙読んだよ・・。 おれは沙織をかなり追い詰めてしまってたようだな・・・。」

と、昔のように優しい林田さんに戻っていた。

私はなんだか色んな思いがこみ上げてきて、涙が出てきた。

「そんなに泣くなよ。 ほら、涙拭いて。」

林田さんはハンカチをそっと手渡してくれた。


私のあの手紙で、林田さんはいろいろ気付いてくれたんだろう。

良かった。

これで、平和な毎日に戻れる・・・。


ガチャ


家に入り、カギを閉めた。


とたんに景色が歪んだ。


「・・・え?」

倒れた私を、林田さんが覗き込んでいた。

・・・血のついた棒を手に持って・・・。




・・・

・・・

・・・・


目が覚めると、薄暗い部屋に私は居た。

「痛っつ・・・」

頭が痛い。

頭を押さえると、包帯が巻かれていた。

・・・それにしても・・まったく見覚えのない部屋・・・。
どこだろう・・ここは・・・。

とりあえず、出口を探そうと立ち上がろうとした。

カチャッ

手には手錠のようなものがはめられていた。

柱のようなところに繋がれている。

私はワケがわからなかった。

家に帰って。。。

林田さんが・・おそらく私を後ろから殴って・・・。


それから、この部屋に・・・。


「起きたかい?」

林田さんが、奥の階段からゆっくりと降りてきた。

「林・・田さん?」

沙織・・・。あんまりおれの手をわずらわせないでくれよ・・・。

林田さんは、ご飯の乗ったトレイを私の前に置いた。

「沙織、これから、おれがこうやってご飯は運んできてやるから、ここで暮すんだ。」

何を言ってるんだろう・・この人は・・・

「もう逃げようなんて思うなよ・・・。」

ワケがわからない・・・。

「もし、なんらかの手を使って逃げようなんてしたら・・・」

逃げようなんてしたら・・・?


「今度は殺すから。 な。」


もう、この人からは絶対に逃げられないんだ・・・。



監禁生活が続く。

たまに、私は携帯電話で母親に電話をさせられた。

「元気にしてるから、心配しないで。」

等、明るく振舞わされた。

電話の最中、常に林田さんは棒を持って私を見ていた。

もう、私は言いなりになる事しか出来ない・・・。







  もう、ここに監禁されて何ヶ月が過ぎただろう?

ある日、

「沙織、結婚しよう。」

林田さんが、私に言った。

怖い・・・。

断りたいが、断れない・・・。

私はゆっくりと頷いた。

「・・ほっ。よかった。」

林田さんが微笑んだ。


林田さんは、指輪をポケットから取り出した。

「これ、買っておいたんだ。 もし断られたらとヒヤヒヤしてたんだよ。」

林田さんは、痩せ細った私の指に、その指輪をはめようとした。

私の手がすこし震えて、指輪が床に落ちた。

また、怒った林田さんに棒で殴られた。


頭から血が流れ、顔も腫れあがった私に、

「なんでそういう事するんだよ!お前は! おれの気持ちがなんで伝わらないんだよ!」

と言って、階段を上がっていった。


私は、このまま死ぬんだろうか・・・。




もし死んだら、


ゴメンネ、母さん・・・。




★→この怖い話を評価する

爆光!LED懐中電灯専門店


[怖い話]


[人間の方が幽霊よりも怖い話]