裸の少女

人のほうが幽霊よりも怖い話 File.21



 投稿者 ハル坊 様





20年ほど昔の話になります。


誰にも話す事は無いと思っていましたが、匿名掲示板なので書く事にします。

当時私は日本五大都市の一つで美容師見習いをしていました。

当時の美容業界は修行が厳しく、

全国から有名店を求めて若者達が住み込みで働いていました。

修行中は殆ど休みが無く、お盆と正月だけ3〜4日の休みが貰えます。

休みに入ると、若い従業員達は故郷へ帰ります。

私は故郷が近かった為、いつでも故郷へ帰る事が可能でした。

なので、その年のお盆休みは先輩従業員の故郷へ誘われ、一緒に帰る事になったのです。

最後の仕事が終わったのは深夜だったと記憶しています。

先輩の車で高速道路を走り、

先輩の地元付近に着いたのは夜中2時を過ぎていたでしょう。

畑の中の真っ暗な県道を走り、先輩の実家まであと15分ぐらいという所でそれに出会いました。

真っ暗な県道に走っているのは私達だけ、対向車も有りません。

私達の車のライトに、『側道を裸で走る少女』が飛び込んできました。

最初は絶対幽霊だと思い、急ブレーキをかけました。

後姿ですが、その少女は推定15〜20歳ぐらい、側道を車と同じ向きに全裸で走っていました。

私と先輩は顔を見合わせ、常識では有り得ないその現実に、どうしていいか分からず黙り込みました。

『先輩、今のは何ですかね、幽霊・・・』

『・・・・分からない。もう一度進んでみようか』

ゆっくりと車を走らせます。

するとやはり、裸の少女が走っているのが見えます。

『先輩、これは幽霊じゃないですよね?足も有るし、はっきり質感がありますよ』

『そうだな・・・。ちょっと声を掛けてみよう』

側道を走る少女の横でゆっくり併走し、私は助手席の窓を開けました。

『ねぇ君、こんなとこで何してるの?危ないよ、家に帰った方がいいよ』

その言葉に振り向いた少女は、ニコッと笑いながら言いました

『こんばんは、気持ち良いですよ』

顔と身体を見て、17〜8歳だと察しました。

『気持ち良いって・・・。

何で裸なの?さらわれたり強姦されたらどうするの?危ないから帰りなさい!』

私の問い掛けに俯きながら少女は言った

『私、家出してきたんです・・それに、家がどこか分かりません』

近づいて分かった事だが、少女は靴下と靴だけは履いていた。

少女の発言に少し違和感を感じた私達は、彼女を保護し、警察に連れて行く事を決めました。

少女を後部座席に乗せ、

たまたま先輩の彼女の夏物ワンピースが車内に有ったので、それを着させました。

『君、家はどこか忘れちゃったんだろ?じゃあこのまま警察に連れていくからね、そこで保護して貰おう』

私がそう言うと、少女はとんでもない事を口走った。

『警察は嫌いです、お父さんの味方だから。警察よりホテルが良いです。

ホテルで私を抱いてください、私処女なんです』

私達は若かった、しかし、その若い私達でも少女の異常さを感じ取る事が出来たので、

それを実現させようとは思わなかった。

少女に無理だと言うと、一枚の紙を差し出してきた。

紙には氏名と電話番号、病院の名前が書いてあった。

その紙を見た先輩が言った

『あぁ・・・あそこか・・・』

その病院は、先輩の地元に一つしかない精神病院だった。

その番号に電話すると、病院の警備室に繋がった。

警備の人に経緯を話すと、折り返し少女の母親からポケベルが鳴った

(当時は携帯普及率が低かった)。

その番号に電話すると、少女の母親が慌てて電話に出た。

家は近所だったが、先輩の家とは反対方向で、よく知らない地域だと言う。

母親は何度も電話口で頭を下げていたと思う。他人事ながら、同情したのを覚えている。

少女の家に着き、母親から話を聞いた。

少女は18歳になったばかり。

16歳の時、実の父親にレイプされたそうだ。

そしてレイプから数日後、父親の首をカッターナイフで刺し殺した。

それから少女は精神障害となり、その病院に入院し続けているという。

そして脱走は3回目らしい。

何とも壮絶な話だ・・・。

私達は少女と母親を病院まで送り届けた。

丁寧に御礼を言う母親の疲れた顔が印象的だった。

少女は元気が無く、あまり話さなかったが、

ワンピースがお気に入りのようだった。ワンピースはそのままあげた。

帰り際に母親が言った

『あの・・・ところでお怪我はありませんでしたか?』

『え?いや、別に何も有りませんが・・』

『そうですか、安心しました』

私達は病院を後にし、先輩の家路に急いだ。予定より遅い到着に、先輩の両親が心配していた。

今夜経験したことを話したかったが、話すほどのエネルギーが残っていなかったので、

二人ともそのまま寝てしまった。

先輩の実家に3日滞在し、また仕事場に帰る日になった。

出発時に先輩の妹が駅まで送ってくれと言うので、車に乗せて実家を後にする。

駅に着く直前、妹さんが後部座席から言った。

『ねえねえお兄ちゃん!これって・・』

『ん?どうした?』

『何で車にカッターナイフ積んでるの?・・・』



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