ソレ

摩訶不思議な怖い話 File.142



ネットより転載





みんなこれだけは絶対に苦手or怖い物ってあるよな。

それは人それぞれだろうけど、俺の場合はそれが「人形」なんだ。

高校の頃、少し荒れてた学生生活を送っていた俺は、

いつものようにカバンに鉄板wを詰めて昼休み登校しようとしていた。

家はまぁまぁ裕福な家庭で、世間体もよく、

そこが俺が荒れる原因でもあったのだが、コレは関係ないので省きます。

実はそのとき、妙に生暖かい空気を感じていたんだが、気にもせず玄関へ向って階段を下りたんだ。

蝉が鳴いているはずの外、外の工事などの雑音、

近所の暇なおばさん達、いつも聞こえるはずの雑音が一切聞こえない。

音という感覚が一切遮断されたかのような静かで大きな玄関。

そこで俺はその「人形」と目が合った。

広い玄関の真ん中に、小ぶりで着物を着た表情のない日本人形。

あるはずのない「ソレ」は静かに、ただ静かに俺を見ている。

なぜかわからないが、「ソレ」を俺の全神経が拒絶した。

脳で考えるよりはやく体が動いたんだ。

1階にある部屋の一室に飛び込み、窓ガラスを叩き割り、裸足で全力で走った、いや逃げた。

とにかく逃げた。

不良で、毎日喧嘩に明け暮れていた男が、涙を流しながらただ逃げた。

悪友の家に転がり込んだものの、そんな事を相談すればハブられると思い、

打ち明けられずにいた俺に悪友はぼそりと呟いた

「お前さ、人形なんか抱えて何してんの」

全身から汗が吹き出る。

奥歯がカチカチ鳴る音が聞こえる。

今まで気がつかなかったが、確かに俺はなにかを抱えてる。

待てよ、俺は鉄板入りのカバンを家から持ってきたはずだ。

なら俺が抱えてるのはカバンだろ?

そう思いながらも、目が「ソレ」を見るのを拒む。

緊張感で目線が震える。

見たいけど「ソレ」を見たら戻れなくなりそうで怖い。

涙は恐怖で出てこない。

そんな長い長い一瞬の出来事の間に、目の前に姿見があったのを思い出した。

見る気が無いのに、顔を上げたことで見えてしまった。

俺が抱えているのは間違いなく「人形」だった。

それも、今朝俺が見た「人形」。

瞬間、悲鳴なのか雄たけびなのかよくわからない声をあげる。

無我夢中で「ソレ」部屋の中にを放り投げ、また逃げる。

友人がなにか言っていたようだが、俺の耳にはもう届かない。

頭の中はパニックと、「アレ」といままで一緒に居た事実の恐怖とでなにがなんだかわからないことになっていた。

再び家に帰り、居間にいた祖母に泣きついた。

文字通り、顔中涙まみれにして、奇声を上げ、突っ張っていた男が泣きついた。

祖母は目を丸くしていたが、俺はもうどう思われようがよかった。

ただ泣いた。

気分が落ち着いた頃、祖母に今日あった事を全て話した。

「〜ちゃん、もう大丈夫だよ」

祖母は優しくそういって、オレの手を握ってくれた。

その三日後、祖母が亡くなった。

あの日以降、オレはあの「人形」はもう見ていない。

悪友はなぜかあの人形の話しをすると機嫌が悪くなる。

あの後、俺が放り出した人形がどうなったかを聞くと、ただ「うるせぇ」としか言わない。

祖母は風邪をこじらせて亡くなったと聞いたが、あの人形が関係しているのかはわからない。

ただ、今思うと「もう大丈夫だよ」の一言に複雑な感情が込められていたようにも思える。

俺はあれ以来「人形」は見ていない。

人形「は」。




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