小人と山根君 |
摩訶不思議な怖い話 File.140 |
ネットより転載 |
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大学時代、サークルの友人と二人で深夜のドライブをしていた。 思いつきで隣の市のラーメン屋に遠出して、その帰り道に、くねくねと蛇のようにうねる山道を通った。 昼間は何度か通ったことがあったが、夜になると、これが同じ道かと思うくらい無気味な雰囲気だった。 ハンドルを握っていたのは俺だったが、わりとビビリのほうなので、運転をかわってもらったほうが気が楽だった。 しかし友人の山根は、ラーメン屋で勝手に一杯ひっかけていたので、助手席で無責任な軽口を叩くばかりだった。 「ここの峠って色々変な話があるよな」 急に山根が、声をひそめて囁いてきた。 俺は聞いたことがなかったが、「何なに?どんな話?」なんて聞くと、 ヤツのペースだと思ったので、興味ない風を装って、「ああ」とそっけなく返した。 山根はなぜか俯いて、暫く黙っていた。 二車線だが、対向車は一台も通らない。 申し訳ていどの電灯が、まばらに立っていた。 無言のまま車を走らせていると、急に大きな人影が前方に見えた気がして一瞬驚いたが、 道端に立っている地蔵だと気付いてホッとした。 このあたりに、なぜか異様に大きな地蔵があるのは覚えていた。 その時、黙っていた山根が口をひらいた。 「なあ、怖い話してやろうか」 この野郎、大人しいと思ってたら怪談を考えてたな。 と思ったが、ヤメロなんていうのはシャクだったので、「おう、いいぞ」と言った。 山根は俯きながらしゃべり始めた。 「俺の実家の庭にな、小人が埋まってるらしいんだよ。 じいさんが言ってたんだけど。俺の家、古いじゃん。 いつからあるのかわからない、へんな石が庭の隅にあってな。その下に埋まってるんだと。 で、じいさんが言うには、その小人がウチの家を代々守ってくれている。 そのかわり、いつも怒っていらっしゃるので、毎日毎日水を遣り、その石のまわりをきれいにしていなければならない。 たしかに、じいさんやお祖母ちゃんが、毎日その石を拝んでいるけど、そんな話ってあるのかなあと思って、 小学生の頃、病院で寝たきりだった曽祖父に、見舞いに行った時に聞いてみた。 曽祖父も、ちゃんと小人が埋まってると教えてくれた。 それも、ワシのじいさんから聞いたと言っていた。 子供にとっては気が遠くなるほど昔だったから、こりゃあ本当に違いないと単純に信じた」 山根は淡々と話しつづけた。 こんな所でする怪談にしては、ずいぶん変な話だった。 山根は言った。 「小人って、座敷わらしとかさ、家の守り神のイメージあるよな。 でも、埋まってるってのが変だよな。 俺、曽祖父に聞いてみたんだよ。なんで埋まってるの?って」 そこまで聞いた時、急に前方に人影が見えて、思わずハンドルを逆に切ろうとした。 ライトに一瞬しか照らされなかったが、人影じゃなかったみたいだった。 地蔵だ。 そう思ったとき、背筋がゾクッとした。 一度通った道? ありえなかった。 道は一本道だった。 「曽祖父はベットの上で両手を合わせて、目をつぶったまま囁いた。 むかし、我が家の当主が、福をもたらす童を家に迎え、大層栄えたそうな。 しかし、酒や女でもてなすも、童は帰ると言う。 そこで当主は、刀で童の四肢を切り離し、それぞれ家のいずこかへ埋めてしまった」 俺は頭がくらくらしていた。 道がわからない。 木が両側から生い茂る景色は変わらないが、まだ峠から抜けないのはおかしいような気がする。 さっきの地蔵はなんだろう。二つあるなんて記憶に無い。 車線がくねくねと、ライトから避けるように身をよじっている。 山根は時々思い返すように、俯きながら喋りつづける。 「それ以来、俺の家は商家として栄えつづけたけど、早死にや流行り病で、家族が死ぬことも多かったらしい。 曽祖父曰く、童は福をもたらすと同時に、我が家をこんこんと祟る神様なんだと。 だからお怒りを鎮めるために、あの石は大事にしなければならん、と」 よせ。 「おい、よせよ」 帰れなくなるぞ、と言ったつもりだった。 しかし、同じ道をぐるぐる廻っているような気がするのと、山根のする話とどうも噛み合わなかった。 最初に言っていた『この峠の色々変な話』ってなんだろうと、ふと思った。 山根は続けようとした。 「これはウチに伝わる秘密の話でな、本来門外不出のはずなんだけど・・・」 「オイ、山根」 我慢できなくなって声を荒げてしまった。 山根は顔を上げない。悪ふざけをしてるようだったが、よく見ると肩が小刻みに震えているようだった。 「この話には変なところがあって、俺それを聞いてみたんだ。 そしたら曽祖父が、おまじない一つを教えてくれた」 「山根。 なんなんだよ。 なんでそんな話するんだよ」 「だから・・・・」 「山根ェ!車の外が変なんだよ、気がつかないのか」 俺は必死になっていた。 「だから・・・・こういう時にはこう言いなさいって。 ホーイホーイ おまえのうではどこじゃいな おまえのあしはどこじゃいな はしらささえてどっこいしょ えんをささえてどっこいしょ ホーイホーイ」 心臓に冷たい水が入った気がした。 全身に鳥肌が立ち、ビリビリくるほどだった。 ホーイホーイという残響が頭に響いた。 ホーイホーイ・・・・呟きながら、俺は無心にハンドルを握っていた。 見えない霧のようなものが、頭から去っていくような感じがした。 「頼む」 山根はそう言って両手を合わせたきり黙った。 そして気がつくと、見覚えのある広い道に出ていた。 市内に入りファミリーレストランに寄るまで、俺たちは無言だった。 山根はあの峠のあたりで、助手席のドアの下のすきまから、顔が覗いているのが見えたと言う。 軽口が急にとまったあたりなのだろう。 青白い顔がにゅうっと平べったく這い出て来て、ニタニタ笑い、これはやばいと感じたそうだ。 俺に話したというよりも、自分の足元の顔と睨み合いながら、あの話を聞かせていのだ。 彼の家の人間が、危機に陥った時のおまじないなのだろう。 「家に帰ったら、小人にようくお礼言っとけよ」 と俺は冗談めかして言った。 「しかし、お前がそういうの信じてたなんて、意外な感じだな」 と素直な感想を言うと、山根は神妙な顔をして言った。 「俺、掘ったんだよ」 ★→この怖い話を評価する |
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