廃村(2)

摩訶不思議な怖い話 File.129



ネットより転載





Cは顔を伏せて震えていた。

見てみると、鏡越しに人のような姿が見える。

恐る恐る玄関に行ってみると、玄関横の壁にも全身を映せる大きな鏡があり、

その正面にガラスの箱に入った日本人形が飾られていた。

廊下からは壁の裏なので人形は死角になっていたのだ。

B「鏡に映った人形じゃねーかw」

C「…。」

B「ほんと、Cは怖がりだなwww」

Cはベソをかきながら真っ赤になっていたが、この状況だ。

突然鏡に人形が映ってるのを見たら怖がりのCじゃなくてもビビるだろう。

俺も少し肝を冷やした。

そして、この日本人形が入ったガラスの箱にも、

和紙の封筒がありその中に一行の文字と赤黒いシミがあった。

それにしても、家財道具など一切無いのに、

箱や葛篭、日本人形があり、そして鏡が置いてある。

ただでさえ薄気味悪い場所なのに、

その状況は輪をかけて不気味だった。

B「何もねーなー、もう一軒の方行ってみるか!」

A「そーだなー。」

裏口に向かって廊下を歩いていく時、何気なしに玄関を振り返ってみた。

さっき鏡越しに人形が見えた場所だったが、おかしい。

そうだ、おかしい、見えるわけが無い。

この位置から人形は壁の死角になってて、俺たちは斜め前から鏡を見てる。

鏡は人形に向かって正面に向いてるわけだから、鏡に人形は映らない。

今も、人形ではなく何も無い靴棚が見えてるだけだ。

俺は鏡から目が離せなくなっていた。

その時、前を歩いていたCが声を上げた。

C「開いてる!」

和室にあった小箱の蓋が開いて、蓋は箱に立てかけられていた。

A「え?何で?」

B「ちょ、誰だよ開けたのw」

AB兄弟はヘラヘラしていたが、額には脂汗がにじんでいた。

A「おいB、隣の葛篭見て来い」

C「何で、Bが悪戯したの?何で開いてるの!」

B「あ、開いてる!こっちも!開いてるよ!」

A「なんだよそれ!何で開いてんだよ!?」

今でも何でこんなことしたのか分からないが、

AB兄弟が叫んだのを聞いて急いで玄関に向かった。

ガラスの箱に人形は無かった。

人形は…玄関に立っていた。

俺は叫び声を上げた、つもりだったが、

声がかすれてゼーゼー音がするだけだった。

口の中がカラカラで、ぎこちなくみんながいる方に歩いて行くと、

AとBがもみあってる声が聞こえた。

A「B!やめとけ!やばいって!」

B「畜生!こんなのたいしたことねえよ!離せよ兄貴!」

A「おいやめとけ!早くココ出るぞ!おい手伝え!」

AはBを羽交い絞めにして俺に手を貸せと声を上げた。

その時、AB兄弟の後ろに立てかけてあった鏡が突然倒れた。

AB兄弟にぶつかりはしなかったが、他の部屋の鏡も倒れたようで、

あちこちからガシャンと大きな音がした。

鏡の裏には…黒々とした墨汁で書かれた小さな文字がびっしりと書かれていた。

鏡が倒れたことに驚いたAがBの拘束を緩めてしまったのだろう。

Bは「ウオォォォォォ」

と叫び声を上げ激しく暴れ、Aを吹っ飛ばして葛篭にしがみ付いた。

B「ウオオオオォォォォォォォォォ!」

A「おい!B!おい!おっ…」

A「うぎゃああああああああ!!!!」

Bの肩越しに葛篭を見たAが突然叫び声をあげ、

ペタンと尻を突いたまま、手と足をバタバタ動かしながら後ずさりした。

B「fそいあlzpwくぇrc」

もはやBが叫んでいる言葉が分からなかった。

一部聞き取れたのは、繰り返しBの口から発せられた「○○(人名)」だけだった。

腰を抜かしてたAが叫びながら勝手口から逃げ出した。

パニック状態だった俺とCも、Aの後を追った。

廃屋の中からは相変わらずBの何語かも分からない怒号が聞こえていた。

Aは叫びながらもう1軒の廃屋の戸をバンバンバンバン叩いていた。

俺とCはAにBを助けて逃げようと必死で声を掛け続けたが、

Aは涙と涎を垂らしながら、バンバン戸を叩き続けた。

B「おい4くぉ30fbklq:zぢ」

Bは相変わらず葛篭の部屋で叫んでいる。

×印に打ち込まれた木の板の隙間から、

Bが葛篭から何かを取り出しては暴れている姿がチラチラと見える。

そして、Bの居る廃屋の玄関には、明らかにBでは無い人影が、

Bの居る部屋の方に向かってゆっくりゆっくり移動してるのが見えた。

バンバンバンバンバンバン

カタカタカタカタガタガタガタガタガシャンガシャンガシャンガシャンガシャン

Aが戸を叩いてるもう1軒の廃屋は、

Aがバンバン叩いているのとは別の振動と音がしはじめていた。

そしてAも、B同様「○○!」とある人名を叫んでいた。

Bのいる部屋を見ると、Bのそばに誰かが居た。

顔が無い。いや、顔ははっきりと見た。

でも、印象にまるで残らない、のっぺらぼうのようだった。

ただ、目が合っている、俺のことを見ていることだけはわかった。

目なんてあったのか無かったのかすらもよくわからない顔。

俺はそいつを見ながら失禁していた。

限界だった。

俺はCの手を引き頭にもやが掛かったような状態で廃屋を背に走り、

次に記憶に残ってるのは空を見ながら製材所あたりの県道を集落に向けてフラフラ歩いているところだ。

泣きじゃくるCの手を引き、フラフラと。

集落を出たのは昼前だった。

あの廃屋への往復や廃屋内の散策を含めても、せいぜい1時間半程度だったろうと思ったが、

太陽は沈み山々を夜の帳が包もうとしている頃だった。

集落に着いた頃には空は濃い藍色になっていて、

こんな時間まで戻らない子供を心配していた集落の大人たちに怒られた。

失禁したズボンやパンツは、すっかり乾いていたように記憶している。

周りの大人たちは当然仲の良かったAB兄弟が帰ってきてない事にすぐに気付き、

俺たちを問い詰めた。

俺もCも呆然自失となってたのでうまく説明できなかった。

4人で探検をしたこと。

墓の向こうの鎖の道へ行ったこと。

そこに廃屋があったこと。

廃屋で妙な現象が起こったこと。

AとBがおかしくなったこと。

俺とCだけで逃げ帰ってきたこと。

俺がとぎれとぎれに話をすると、大人たちは静かになった。

青い顔をして押し黙る大人たちの中で一人だけ、

真っ赤な顔で俺たちをにらむ人がいた。

AB兄弟の母親だった。

AB母は叫びながら俺を何発か平手打ちした。

そしてCに飛び掛ろうとしたところを、

我に返った大人たちに抑えられた。

AB母は口から泡を吹きながら俺とCを罵倒し、叫んでいた。



→ 廃村(3)



★→この怖い話を評価する

小型懐中電灯


[怖い話]


摩訶不思議な怖い話3