恐怖のヒッチハイク(1)

摩訶不思議な怖い話 File.112



ネットより転載





今から7年ほど前の話になる。俺は大学を卒業したが、

就職も決まっていない有様だった。

生来、追い詰められないと動かないタイプで(テストも一夜漬け対タイプだ)

「まぁ何とかなるだろう」とお気楽に自分に言い聞かせ、バイトを続けていた。

そんなその年の真夏。

悪友のカズヤ(仮名)と家でダラダラ話していると、

なぜか「ヒッチハイクで日本を横断しよう」と言う話に飛び、

その計画に熱中する事になった。

その前に、この悪友の紹介を簡単に済ませたいと思う。

このカズヤも俺と同じ大学で、入学の時期に知り合った。

コイツはとんでもない女好きで、頭と下半身は別、と言う典型的なヤツだ。

だが、根は底抜けに明るく、裏表も無い男なので、

女関係でトラブルは抱えても、男友達は多かった。

そんな中でも、カズヤは俺と1番ウマが合った。

そこまで明朗快活ではない俺とはほぼ正反対の性格なのだが。


ヒッチハイクの計画の話に戻そう。計画と行ってもズサンなモノであり、

まず北海道まで空路で行き、そこからヒッチハイクで地元の九州に戻ってくる、

と言う計画だった。

話が出ると、すぐに決行するためにバイトの長期休暇申請や

(俺は丁度別のバイトを探す意思があったので辞め、

カズヤは休暇をもらった)、

北海道までの航空券、巨大なリュックに詰めた着替え、現金などを用意し、

計画から3週間後には俺達は機上にいた。

札幌に到着し、昼食を済ませて市内を散策した。

慣れない飛行機に乗ったせいか、

俺は疲れのせいで夕方にはホテルに戻り、カズヤは夜の街に消えていった。

その日はカズヤは帰ってこず、翌朝ホテルのロビーで再開した。

にやついて指でワッカをつくり、OKマークをしている。

昨夜はどうやらナンパした女と上手く行った様だ。

さぁ、いよいよヒッチハイクの始まりだ。

ヒッチハイクなど2人とも人生で初めての体験で、流石にウキウキしていた。

何日までにこの距離まで行く、など綿密な計画はなく、

ただ「行ってくれるとこまで」という大雑把な計画だ。

まぁしかし、そうそう止まってくれるものではなかった。

1時間ほど粘ったが、一向に止まってくれない。

昼より夜の方が止まってくれやすいんだろう、等と話していると、

ようやく開始から1時間半後に最初の車が止まってくれた。

同じ市内までだったが、南下するので距離を稼いだのは稼いだ。

距離が短くても、嬉しいものだ。

夜の方が止まってくれやすいのでは?と言う想像は意外に当たりだった。

1番多かったのが、長距離トラックだ。

距離も稼げるし、まず悪い人はいないし、かなり効率が良かった。

3日目にもなると、俺達は慣れたもので、長距離トラックのお兄さん用には

タバコ等のお土産、普通車の一般人には飴玉等のお土産、と勝手に決め、

コンビニで事前に買っていた。

特にタバコは喜ばれた。

普通車に乗った時も、喋り好きなカズヤのおかげで、

常に車内は笑いに満ちていた。

女の子2〜3人組の車もあったが、正直、良い思いは何度かしたものだった。

4日目には本州に到達していた。コツがつかめてきた俺達は、

その土地の名物に舌鼓を打ったり、

一期一会の出会いを楽しんだりと余裕も出てきていた。

銭湯を見つけなるべく毎日風呂には入り、

宿泊も2日に1度ネカフェに泊まると決め、経費を節約していた。

ご好意で、ドライバーの家に泊めてもらう事もあり、

その時は本当にありがたかった。

しかし、2人共々に生涯トラウマになるであろう恐怖の体験が、

出発から約2週間後、甲信地方の山深い田舎で起こったのだった。

その日の夜は、2時間前に寂れた国道沿いのコンビニで降ろしてもらって以来、

中々車が止まらず、それに加えてあまりの蒸し暑さに俺達はグロッキー状態だった。

暑さと疲労の為か、俺達は変なテンションになっていた。

「こんな田舎のコンビニに降ろされたんじゃ、たまったもんじゃないよな。

 これなら、さっきの人の家に無理言って泊めてもらえば良かったかなぁ?」

とカズヤ。

確かに先ほどのドライバーは、このコンビニから車で10分程行った所に

家があるらしい。

しかし、どこの家かも分かるはずもなく、言っても仕方が無い事だった。

時刻は深夜12時を少し過ぎた所だった。

俺たちは30分交代で、車に手を上げるヤツ、

コンビニで涼むヤツ、に別れることにした。

コンビニの店長にも事情を説明したら

「頑張ってね。最悪、どうしても立ち往生したら俺が市内まで送ってやるよ」

と言ってくれた。

こういう田舎の暖かい人の心は実に嬉しい。

それからいよいよ1時間半も過ぎたが、一向に車がつかまらない。

と言うか、ほとんど通らない。

カズヤも店長とかなり意気投合し、いよいよ店長の行為に甘えるか、

と思っていたその時、1台のキャンピングカーがコンビニの駐車場に停車した。

これが、あの忘れえぬ悪夢の始まりだった。

運転席のドアが開き、コンビニに年齢はおよそ60代くらいか

と思われる男性が入ってきた。

男の服装は、カウボーイがかぶるようなツバ広の防止に、スーツ姿、

と言う奇妙なモノだった。

俺はその時、丁度コンビニの中におり、何ともなくその男性の様子を見ていた。

買い物籠に、やたらと大量の絆創膏などを放り込んでいる。

コーラの1.5?のペットボトルを2本も投げ入れていた。

その男は会計をしている最中、じっと立ち読みをしている俺の方を凝視していた。

何となく気持ちが悪かったので、視線を感じながらも俺は無視して本を読んでいた。

やがて男は店を出た。そろそろ交代の時間なので、カズヤの所に行こうとすると、

駐車場でカズヤが男と話をしていた。

「おい、乗せてくれるってよ!」

どうやら、そういう事らしい。

俺は当初は男に何か気持ち悪さは感じていたのだが、

間近で見ると、人の良さそうな普通のおじさんに見えた。

俺は疲労や眠気の為にほとんど思考が出来ず、

「はは〜ん、アウトドア派(キャンピングカー)だからああいう帽子か」

などと言う良く分からない納得を自分にさせた。

キャンピングカーに乗り込んだ時、「しまった」と思った。

「おかしい」のだ。

「何が」と言われても

「おかしいからおかしい」としか書き様がないかも知れない。

これは感覚の問題なのだから…

ドライバーには家族がいた。

もちろん、キャンピングカーと言うことで、

中に同乗者が居る事は予想はしていたのだが。

父 ドライバー およそ60代

母 助手席に座る。見た目70代

双子の息子 どう見ても40過ぎ

人間は、予想していなかったモノを見ると、一瞬思考が止まる。

まず車内に入って目に飛び込んで来たのは、

まったく同じギンガムチェックのシャツ、

同じスラックス、同じ靴、同じ髪型(頭頂ハゲ)、

同じ姿勢で座る同じ顔の双子の中年のオッサンだった。

カズヤも絶句していた様子だった。

いや、別にこういう双子が居てもおかしくはない、

おかしくもないし悪くもないのだが…

あの異様な雰囲気は、

実際その場で目にしてみないと伝えられない。

「早く座って」と父に言われるがまま、

俺たちはその家族の雰囲気に呑まれるかの様に、車内に腰を下ろした。


まず、俺達は家族に挨拶をし、父が運転をしながら、

自分の家族の簡単な説明を始めた。

母が助手席で前を見て座っている時は良く分からなかったが、

母も異様だった。

ウェディングドレスのような、真っ白なサマーワンピース。

顔のメイクは「バカ殿か」と見まがうほどの白粉ベタ塗り。

極めつけは母の名前で、「聖(セント)ジョセフィーヌ」。

父はちなみに「聖(セント)ジョージ」と言うらしい。

双子にも言葉を失った。名前が「赤」と「青」と言うらしいのだ。

赤ら顔のオッサンは「赤」で、ほっぺたに青痣があるオッサンは「青」。

普通、自分の子供にこんな名前をつけるだろうか?

俺達はこの時点で目配せをし、適当な所で早く降ろしてもらう決意をしていた。

狂っている。

俺達には主に父と母が話しかけて来て、俺達も気もそぞれで適当な答えをしていた。

双子はまったく喋らず、まったく同じ姿勢、

同じペースでコーラのペットボトルをラッパ飲みしていた。

ゲップまで同じタイミングで出された時は、背筋が凍り、もう限界だと思った。

「あの、ありがとうございます。もうここらで結構ですので…」

キャンピングカーが発車して15分も経たないうちに、カズヤが口を開いた。

しかし、父はしきりに俺達を引きとめ、母は

「熊が出るから!今日と明日は!」と意味不明な事を言っていた。

俺達は腰を浮かせ、本当にもう結構です、としきりに訴えかけたが、

父は「せめて晩餐を食べていけ」と言って、降ろしてくれる気配はない。

夜中の2時にもなろうかと言う時に、晩餐も晩飯も無いだろうと思うのだが…

双子のオッサン達は、相変わらず無口で、

今度は棒つきのペロペロキャンディを舐めている。

「これ、マジでヤバイだろ」と、カズヤが小声で囁いてきた。

俺は相槌を打った。

しきりに父と母が話しかけてくるので、中々話せないのだ。

1度、父の言葉が聞こえなかった時など

「聞こえたか!!」

とえらい剣幕で怒鳴られた。

その時双子のオッサンが同時にケタケタ笑い出し、

俺達はいよいよ「ヤバイ」と確信した。

キャンピングカーが、国道を逸れて山道に入ろうとしたので、

流石に俺達は立ち上がった。

「すみません、本当にここで。ありがとうございました」

と運転席に駆け寄った。

父は延々と「晩餐の用意が出来ているから」と言って聞こうとしない。

母も、素晴らしく美味しい晩餐だから、是非に、と引き止める。

俺らは小声で話し合った。

いざとなったら、逃げるぞ、と。

流石に走行中は危ないので、車が止まったら逃げよう、と。

やがて、キャンピングカーは山道を30分ほど走り、

小川がある開けた場所に停車した。

「着いたぞ」と父。

その時、キャンピングカーの1番後部のドア

(俺達はトイレと思っていた)から「キャッキャッ」と子供の様な笑い声が聞こえた。

まだ誰かが乗っていたか!?

 その事に心底ゾッとした。

「マモルもお腹すいたよねー」と母。

マモル…家族の中では、唯一マシな名前だ。

幼い子供なのだろうか。

すると、今まで無口だった双子のオッサン達が、口をそろえて

「マモルは出したら、だぁ・あぁ・めぇ!!」

とハモりながら叫んだ。

「そうね、マモルはお体が弱いからねー」と母。

「あーっはっはっはっ!!」といきなり爆笑する父。

「ヤバイ、こいつらヤバイ。フルスロットル!!!

(カズヤは、イッてるヤツや危ないヤツを常日頃からそういう隠語で呼んでいた)」

俺達は、車の外に降りた。良く見ると、男が川の傍で焚き火をしていた。

まだ仲間がいたのか…と、絶望的な気持ちになった。




→ 恐怖のヒッチハイク(2)

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