不法侵入(3)

創作の怖い話 File.84



投稿者 でび一星人 様





ギィ・・・

ギィ・・・



林田さんの足音だ・・・。

林田さんが、いつもの階段から降りてくる・・・。


私は夢を見たのだろうか・・・?

さっき、裕史君が私の前に姿を現した。

『大丈夫。必ず、その手錠を外すから。 そして早くここから逃げよう。』

そう言って、裕史君はこの部屋から出て行った・・・。

そう、あれは夢・・・もしくは幻覚を見たんだ私・・。

でも・・

私は頬に手を当てた。

この頬に残る、裕史君がさっき触れてくれた感触が、幻想や夢にしては妙にはっきりと残っている・・。

「ただいま。沙織。」

林田さんがニヤっと笑ながら部屋に入ってきた。

「ちゃんと、部屋綺麗にして待ってたかぁ〜?」

「・・・・」

綺麗にした・・はず・・・。

林田さんは、部屋をくまなく見渡す。

そして、いつものように顔色を変えた。

「・・おいおい。・・沙織・・・。 ここ、汚れてるじゃないか・・・。」

私は目をつむった。

バシイッ!!

頬を思いっきりビンタされた。

その音が部屋に鳴り響く。

「・・・」

もう、何も言うことができなかった。

「お前は・・なんで、こんなこともちゃんとできないんだよ! あぁ?」

林田さんの怒鳴り声が鳴り響く。

林田さんは、いつも手に持っている棒で私を殴ろうと構えた。

その時だった。


「あぁ・・ ぁぁぅぁぁぁああぁぁ」

部屋の外・・おそらく、奥にある別の部屋からうめき声が聞こえてきた。

おそらく、この間つれてこられて閉じ込められてる男の人だ。

林田さんはその部屋の方を見て、「チッ」と舌打ちをし、ドンドン足音を立てながら部屋の方に歩いて行った。

向こうの部屋は、この部屋からは見えない位置にあるので、様子を伺う事は出来ないのだが、

林田さんの怒鳴り声はハッキリと聞こえて来た・・・。

「おいこら! まだくたばってねえのか?あ?」

ドガッ バキッ!!

殴る音も聞こえて来る・・・。

私はなんて弱い生き物なんだろう・・。

正直、暴力の行き先が他に行った事で、安心している・・。

私の代わりに、誰かが痛い思いをしているのに・・・。


しばらくして、息を切らせた林田さんが私の部屋に戻ってきた。

「ハァ・・ハァ・・ 沙織・・時間がなくなっちまった・・。せっかくの一緒の時間が・・あいつのせいで・・・。」

林田さんはジロリと向こうの部屋の方を睨みつけた。

「沙織、ごめんな・・・。今日ちょっと総会があってよ。夜遅くなるんだ・・・。 

今・・16時だから、早くても23時くらいにはなると思う。ちゃんと、そこの汚れ拭いとくんだぞ?わかったね?」

林田さんはそう優しく言うと、私の頭をポンポンと軽く叩き、笑顔で階段を上がっていった。

バタン。

階段の上にあるトビラ?を閉める音が聞こえた。

・・・今日はあまり殴られなかった・・・。

私はホっとしていた。


ガタッ  ガタガタッ・・

「おぉ〜イテテテテ・・・」

林田さんが行ったのを見計らったように、向こうの部屋から物音と声が聞こえてきた。


ガチャッ

向こうの部屋のドアの開く音が聞こえる。


そして、足音がこっちへ向かってくる・・・。

裕史君が顔を覗かせ、そして急いで私の方へ駆け寄ってきた。

「沙織ちゃん!大丈夫だったか?? 叩かれた音があちまで聞こえてきたから心配したよ!」

裕史君は私の肩を両手で抱えながら、凄く心配そうな顔をしている。


「う、うん。平気。 あれくらいなら・・・。」

裕史君が来てくれたことが夢でなかった嬉しさが心にこみ上げて、私の顔は自然と微笑んでいた。

何年ぶりの笑顔だろう・・?

自分でも、思い出せない。

「お〜いててて・・・。」

殴られたであろう顔を撫でながら、もう一人、男の人が入ってきた。

やたらとうんこ臭い。

うんこ臭い男の人は顔をしかめながら裕史君に声をかけた。

「・・いててて・・兄ちゃん、頼むでぇ・・・。 

その娘のビンタの音で、もし兄ちゃんが飛び出してったら、全部オジャンやがな・・・。 

わても兄ちゃんも、殺されるところやったんやでぇ。」

裕史君は申し訳なさそうに、

「す、スイマセンでした・・。 こっちが心配で・・。」

どうやら、私がさっき叩かれた音で、裕史君は助けに来ようとしてくれたらしい。

(裕史君・・私を心配してくれたんだ・・・。)


「姉ちゃん、ちょっとシャワー借りるで。 うんこまみれで外なんか出られへんさかいにな。」

うんこ男はそういって浴室に入っていった。


裕史君は私の横に座り、少ししか接した事がないけど、昔の話しをしてくれた。

「そういえば、卒業式の日も、こうやって沙織ちゃんと並んで話しをしたよな。

・・緊張して、全然話せなかったけど・・・。」

私はほとんど喋らなかった。

裕史君は、そんな喋らない私を気遣って、数少ない私との思い出をいろいろ話してくれた。

どの話も、聞くと鮮明に蘇ってくる・・。

やっぱり私は、裕史君の事が好きだった。

今確信した。

いや・・

好きだったではなく、

今も・・好きなんだろう。


だって、

何年も笑顔になれなかった私が、

今、裕史君の話しを聞き、顔を見てるだけで、

自然に顔がほころぶんだから・・・。

ガチャッ

うんこ男が風呂から出てきた。

石鹸の良い香りがする。

うんこ男は、全裸男に生まれ変わったようだ。

「にちゃん、スマン!着る物何か持ってないか? うんこまみれの服はさすがに着れんからなぁ。」

裕史君は、

「あぁ・・部屋に行けばおそらく林田の服があるだろうけど・・・今着てる僕のをとりあえず着ます? 

仕事帰りにここに来たから、作業着がカバンに入ってるんです。 それを僕が着ます。」

「そっかぁ・・えらい気使わせてスマンのぉ。」

裕史君は作業着に着替え、全裸男に服をあげた。

全裸男はこれで、ユニクロ男に転身することが出来たのだ。

「・・その服、安かったんであげますよ。 似合ってますし。」

裕史くんのその言葉に、男は

「お、おおきに。 でも、安もんが似合うって、微妙やがな・・・。」


そんなヤリトリが少し続いた後、男は

「さて・・と。」と言って私のほうへと近づいてきた。

そして、

「さて、姉ちゃん、そろそろこんなクソみたいな家から脱出と行こうか。」

といって、私を繋いでいる鎖を噛んだ。

「フンっ!」

バギィ!!

男の掛け声と同時に、私をずっと繋いでいた鎖が噛みちぎられた。

「ふふ。わてのアゴの噛む力な、3トンあるらしい。

ワニ4匹分なんや。 驚いたやろ?」

男はニヤっと笑った。

「ありがとうございます・・。助かりました。」

裕史君が男にお礼を言った。

「礼を言うのはこっちのほうや。 ま、どちらにしても早よう行こう。 」

男が先頭に立ち、私と裕史君はそれに付いて行った。

三人で階段を上がる。

途中、ところどころ壊れた乾燥した女性の死体があった。

それを見た先頭の男は少し顔をしかめたが、「・・さ、気にせず行こう。 

とにかく脱出が先決や。」と言って階段を登っていった。

そして出口の蓋にたどり着き、男がそれを開けた。

光がそこから差し込んで来る・・・まさにその時だった。

ばきっ!!!

鈍い音がした。

男が階段から転げ落ちてきた・・・。


私と裕史君は下まで落ちた男に駆け寄る。

「だ、大丈夫ですか?」裕史君が男を抱きかかえる。

「うぅ・・いでで・・ まさかの不意打ちやぁ・・。」


不意打ち?


階段の上から、声が聞こえてきた。

「・・えらく遅かったなぁ。お三方。」

男の血が付いた棒のようなモノを持った林田さんが、

不気味な笑みを浮かべながらゆっくりと階段を下りてきた・・・。



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