ストカメ

創作の怖い話 File.81



投稿者 でび一星人 様





「沙織〜〜〜。 早うせんな、電車来てまうで〜〜〜。」


「ちょ、ちょっと待って〜や〜〜〜。」



私の名前は沙織。


大阪に来てから・・・もう五年目になるのか。

二十歳過ぎたら時間が経つのが早いって誰かから聞いた事があるけど、あれは本当だとつくづく思う。

気付けば私ももう28歳。

早くしないと結婚適齢期が逃げて行く・・・。

28歳だけども、現役の大学生でもあるの。

24くらいから勉強をしだして、運試しで大学受験したら受かっちゃったの。

それで25歳から大学生をやっている。

 と、同時に週2くらいで某新地のクラブでバイトもして、生計を立てている。

ある意味苦学生だ。


成績のほうも、可もなく不可もなくといったところで、


なぜか【優】がほとんどを占めている・・・。

難なく四回生になることが出来た。

やっぱり楽しいと思えるものは、別に頑張らなくてもススっと頭に入ってくるもんなんだな・・・。



就職も、この五月に無事内定を頂いた。

某食品会社で来年から働く事になった。


と言う事で、ここからは、残りの大学生活をエンジョイしようと心に決め、

今日は同級生の雉与と一緒に、人気バンドの【ストレンジ カメレオン】のライブを見に、O阪場ホールに向かっている。


・・・と、言っても私はこの【ストレンジ カメレオン】の事をよく知らない。

やっぱり現役の大学生と違い、年齢が少々上になってしまうので、歌系は無頓着なのだ・・・。

むしろ、バイト柄おじさん相手が多いので、昭和の名曲に多少詳しかったりする・・・。


ちなみに、私の好きな歌は【ガロ】の【学生街の喫茶店】だ。

いい歌なので、是非You Tube等 で検索して聞いてみてほしい。




「はぁ・・はぁ・・。 なんとか間に合うたなぁ・・。」


開演は18時。

私たちがO阪場ホールの最寄にある【O阪場公園】という駅に到着したのは17時37分だった。



とりあえず、ここまでくれば指定席なので安心とばかりに、

私たちは駅近くのコンビにでジュース等を買ってホールに向かいながら話をした。


「・・・ところで雉与。 ストレンジ カメレオン って、どんなグループなん?」


「えええ! 沙織、もしかしてストカメ知らんの???マジで??」


「え・・あはは・・。 ご、ごめん。 私オバチャンやから・・・。」



「アハハ。 もっと若い歌聞かなあかんで〜。 見た目は十分20代前半で通用するんやからさぁ。」


ほんのり嬉しい。



雉与の説明によれば、ストレンジ カメレオン・・・ストカメは、

五人のメンバーで構成された【ヴィジュアル系仮面バンド】という新ジャンルのグループらしい。


ヴォーカルのYAHIKO

ギターのINABA

ベースのSUZUKI

ドラムのNAKAGAWA

口笛のSAKURAI


この五人によるロックバンドらしい。

売りなのが、このメンバーが全員仮面をかぶっている事。

年齢も性別も不詳。

その神秘さがまた若者を中心に人気を呼んでいるらしい。


そうこうしてるうちにライブが始まった。

まずは豪快に花火が打ちあがり、五人が床から出てくる。



不思議な曲だった。


正直、私は最近の若者の歌が良いとは思えなかったので、最近は聞く気にもなれなかった。


でも、彼らの曲はなんだか違う感じがした。


ライブに来ると、CD等で聞くよりも数倍も良く感じるという。

でも、そんな錯覚じみたものではないような気がした。

私は彼等の曲に聞き入ってしまった。




・・・あっという間に時間が過ぎた。




「今日はみんなありがとゥー!」

ヴォーカルのYAHIKOが皆に言う。


仕事柄、私はYAHIKOの首にある三つのホクロが無性に気になって見ていた。

そういう身体的特長は、人を覚えるのに効果的だからだ。



ギターのINABAがピックを客席に投げる。


INABAは右手のヒジのところに小さな三角型のアザがある。



五人が去り、ライブは終わりを告げた・・・。






「・・・いやぁ〜めっちゃよかったなぁ〜。」

ファミレスに寄って、私と雉与は夕飯を食べている。


・・・いや、夕飯を食べているというのは既に二時間前。

それからくっちゃべって今はドリンクバーで長い永いお話タイムに舞台は変わっていた。


「あの5人の素顔ってどんなんなんかな〜。 

YAHIKOなんてめっちゃオトコマエとか思わへん?? あんな綺麗な声してるんやからな〜。」


雉与の目はホワ〜ンとしている。

何にでも恋するお年頃なのだろう・・・。



そんな感じでくっちゃべっていると、えらく行儀の悪い50代前半のおっさんが数人ファミレスに入ってきた。


店員さんにも偉そうだ。


店員さんも、ちょくちょくそのおっさんたちのところに行って「すいません・・・。 

周りのお客様の迷惑に・・・」等と言っているようだ。


他人事といえば他人事なのだが、私は見ててなんだか腹が立って、

「雉与、私ちょっと言うてくるわ。」

と言ってそのおっさんの方に向かった。





「すいません。 ちょっと回りの迷惑になってるんですけど、 もうちょっとマナー守れませんか?」

淡々と私は言った。 するとボスっぽいおっさんが、


「ん〜? なんだ? 綺麗なねーちゃんが説教か? ははははは。」


・・・こいつ・・・けっこう酔ってるな・・・。



「ねーちゃん、まー一緒に座りなよ〜。 飲もう飲もう。」

おっさんは私を誘う。


甘く見てるわね・・。 お水歴、もうすぐ10年のこの私を・・・。



「ごめんなさいね。 あなた方と一緒に飲むほど私は安くありません。 

もうちょっとご自分をお磨きになってから言っていただけません? 

たとえば、最低限のマナーを守れるような  オ  ト  ナ   になってからとか。」


おっさん共は少しカチンときたようだ。


「・・・ねえちゃん、何?おれらにケンカ売ってるの?」


なんだか違和感を感じる・・・。



「ちょっと、ねえちゃんさ、おっさんを舐めちゃぁいけないよ? ちょっと表でるか?」


なんだろう・・この違和感・・・。



おっさんたちは席を立った。


「マジ、ちょっと表でろよ。ねえちゃん。」


周りのお客さんや店員さんもがざわめきだす。


奥のほうの店員さんは警察を呼ぼうかどうか迷ってる様子っぽい。



「あ!」


私は、このとき、感じていた違和感の謎が解けた。


この人たち・・・。関西弁じゃない・・・。



私が元々関西の人間じゃないから気がつかなかったが、

これだけのおっさんが全員関西弁じゃないということは・・・

・・・出張かなにか・・・?


と、推測してみる。


おっさんの一人が私の腕を掴む。


「痛っ・・ちょ、離しいや!」

私はそんなに痛くなかったが叫ぶ。


しかしおっさんはおかまいなしにグイグイ私を引っ張っていく。


私は振りほどこうと、もう片方の腕でおっさんの腕を掴もうとした。


その腕に、三角型のアザがあった。


・・・ん?


三角型のあざ・・・?


もしかして・・・



他のおっさんの首を見てみる。


・・・やっぱりあった・・・。

三つのホクロ。



「あんたら・・・」


私はこそっと呟く。


「あんたら、ストカメやろ?」


一瞬おっさんたちはギクリとした様子。


「な、何言ってんだ! おれたちゃそんなのしらねえ! ギルガメしか知らねぇ!」


「ちょ、ちょっとお前早く表でろ! 他の客ら、下手な真似すんじゃねぇぞ!!」

・・・あきらかに動揺している。


おそらく・・こいつらストカメだ・・・。




私は心配そうに見つめる雉与に、


「大丈夫。 待ってて!」



「店員さんたちも、心配せんといて! ちょっと話つけてくるだけやから!」


私は店の人たちが下手な行動を起こさないように安心させた。

それはこのおっさん達へのアピールだ。

こうやって恩?を少なからず与えておけば、相手は少々優しくなるものだから・・・。

あきらかに私の腕を掴む力も優しくなった。










「すいませんでしたぁーーーー!!」




私はこのおっさん五人と共に、カラオケに来ていた。

おっさん5人は部屋に入り、扉を閉めるなり私に土下座をして謝ってきた。

殿様の気分が少しわかった。

「ま、まぁまぁ。オモテをあげてください・・・。」



おっさんの一人が聞いてきた。


「お、おじょうさん、な、なんで我々がストカメとわかったんでやんすか?」


私は話してやった。

ホクロとアザの事を。



「ほぉぉぉ・・・」

おっさんともは顔を見合わせて頷いていた。


こいつら・・・バカかも・・・。



「お嬢さん。」


おっさんの中で一番ハゲ散らかした人が言ってきた。


「我々がね、なんで仮面をつけてるか、聞きたいですか?」


私は頷いた。

正直、本当にいい歌を歌うと思う。

なにがいいかというとよく説明できないが、なんだか不思議な魅力があるのだ。



おっさんは、話しを始めた・・・。



「・・・我々はね・・。 大昔のバンドブームの時に結成したんだ・・・。

でもな、全然売れなかったんだよ・・・。

ほとんど今作ってる曲と変わらない曲だったんだけどね・・・。

そうこうしてるうちにも月日は流れた。

我々は50前になってしまっていた。

メンバーの中には愛想をつかされて、奥さんに逃げられる者もでてきた。

胃に穴が開く者もでてきた。

歯槽膿漏の者も出てきた。

これはヤバイ。

バンドを断念か?

しかし我々は歌が好きだ。

歌っていたい。

演奏していたい・・。

そんなときに、ある本を古本屋で見つけた。







呪 術 の 本 を ね。








試したさ。

その呪術をね。

どんな内容かは言えないけどね。

・・・結果は予想以上だったよ・・・。

翌日のライブで、なぜか普段では見向きもされない歌で客は涙を流していた。

その後もとんとん拍子に口コミで我々の曲はひろまり、あっという間にメジャーデビューだよ。



・・・ただし、この呪術には、ルールがあったんだよ。

まず、

決して我々の正体を明かしてはならない。

正体を、もしばらしてしまうと、闇のモノがやってきて我々を惨殺するという事だ・・・。




そしてもうひとつ、ルールがあってね・・・」



おっさんたちがニヤニヤ笑いだす。


一体何なのだろう?



「もうひとつのルールはね。

我々の正体を、【ばらす】のはいけないんだけど、【ばれる】のはいいんだよ。

つまり、我々の正体を見抜かれるのは・・・ね。」



なんとなく、おっさんたちの笑い顔を見て、私は何を言いたいのか、推測がついた・・・。



「もし・・我々の正体を見抜いた場合ね・・・。 

呪いは、その相手に移るだって・・・。 フフフ・・・ フフフ・・・。 フフフフフフフ・・・。」



他のおっさんが口を開く。


「・・もう、正体がばれるのに脅える生活がうんざりだったんだ・・。 ごめんよ。ねえちゃん・・。」


そういって、そのおっさんは三角型のアザの【シール】をヒジからはがした。



「まさか・・・。 こうも素直にひっかかってくれるとは・・。」


そう言って、あるおっさんは首についた三粒の【正露丸】を剥がして食べた。






「ねえちゃん、ごめんな・・・。 これで、呪いはアンタに移った・・・。

もう我々は一生食っていけるだけは稼いだ・・・。 これで【自由】だ。」


おっさんたちはいやらしい目で私を見ている・・・。






「ふーん」


話は言ってやった。


おっさんたちは拍子抜けした感じだった。


「私、呪いとか信じてへんし。」


本当の事を言ってやった。

だいたい私は霊的な経験をしたことがないから、そういう類のモノを信じていない。



「あんな、おっさんたちさ、ほんまにいい歌、歌ってると思うで。 

呪いとか、たぶん、たまたまやろ? もっと自分に自信持ったらどうなん?」


私は思ったままを言った。おっさんたちはきょとんとしていた。



「・・とりあえず、私は帰るわ。 おっさんらも、これから頑張ってや!ほな!」


私はカラオケを出た。

おっさんたちには今後も頑張ってほしい。




 その後、私は携帯で連絡して雉与と合流して家に帰った。

雉与はすごく心配していたが、「得に何もなかったよ」と私が言うと安心していた。






・・・三日後、テレビを見ているとどのチャンネルも同じのをやっていた。



【ストレンジ カメレオンの5人、何者かの手により惨殺】


それぞれ、自宅だったそうだが、全員が何者かの手によって惨殺されたらしい。





私は、あの時、確かにあの5人がストカメではないのかと【推測】をした。


それをあの5人が私に喋った事により、それを確信したのだ。



・・つまり、あの5人が私に【ばらす】までは、推測でしかなかったって事よ。




でも、ま、

たまたまでしょう。


呪いなんてあるわけがない。

私は信じない。


早く、犯人が捕まるといいわ。

心から願う。



その後ストカメのCDを買ったんだけど、ぜんぜん良く聞こえなかった。

古臭い曲ばかり。

なんであんなに魅力を感じたんだろう?

やっぱりライブの臨場感のせいだったんだろうか?







ストカメは、一ヶ月もしないうちに世間から忘れ去られた



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