Bad day(1) 不運な出会い

創作の怖い話 File.8



投稿者 ストレンジカメレオン 様





ある夜に起こった悲惨な事件である…

父親、母親、息子一人、娘一人の四人家族の一家にそれは起きた。

何者かがこの一家に侵入し、寝ている彼等をロープで一人一人縛り上げた…

そして大声を出せないように布で口をきつく結んだ…

そして家族を一つの部屋に集めた。

まだ四歳くらいの子供たちは涙を流しながら必死にうなっていた…

そんな中、この一家に侵入してきた男はおもむろに鋭利な刃物を取り出す…

涙を流し続ける子供たちの前でまずは母親を刺し殺した…

さらにその遺体をグチャグチャに切り刻んでいく。

次に怒りに満ちた表情の父親目掛けてその刃物を振り下ろす……

そして父親も子供たちの目の前でグチャグチャに切り刻まれていった…

オレは見てしまった……

人が人を殺す現場を…

奴の目は異常だった。

はっきり言って関わりたくない。目が合ってしまったがほんの一瞬だ。

きっとオレの顔など覚えているはずがない。

オレには二人の子供もいて、幸せな生活を送っているんだ。変な事件には巻き込まれたくない…

今日見たものは忘れよう…

そう思っていたのも束の間、事態は一変する…

オレの携帯に非通知の着信が入った。

コールはずっと鳴り続けた。

オレは嫌な予感を感じながらも電話に出た…

「もしもし…」

「……………あなた………見たでしょ…………………私が人を殺したのを……」

オレはぞっとした…

この時、すでに不幸の歯車は回り出していた…

「なんで!!オレの携帯番号を知っているんだ!!」

「やはり…あなたですか…ふふ、財布落としましたよね…

さっきの場所に…全部調べさせてもらいましたよ…」

今になってオレは自分の財布がないことに気付いた。

「それで!?なにがしたいんだ!?口止めか?」

「察しが良いですね…

私達の存在が世間に公表されるのは、絶対に許されないんでね…

しかし、あなたがいくら今日見たことを絶対言わないと言ってもなかなか信用出

来ませんしね…

死んでもらえますか……?

もし死ぬのが嫌でしたら協力してもらいたいことがあるのですが…」

「脅しか!?」

「脅しじゃありませんよ…私達は殺人業者みたいなもんでですね、

人を殺すのなんて日常茶飯事なんですよ。ましてやあなたの個人情報をこちらが

握っているんですからあなたとあなたの家族を壊すことなんてやろうと思えば、 すぐ出来るんですよ…」


「か、家族は関係ないはずだろ!!」

「あなたの家族ですから関係ないわけないじゃないですか……

協力してもらえますよね…

そうすればあなたの家族には一切手を出しませんよ…」

「協力って一体なにをすれば良いんだ!?」

「ふふふ、その気になりましたか、簡単なことです…私の代わりに警察に出頭してください、

もう何人も殺しているので勘のいい警察どもが私達の存在に気付き始めているんですよ…

そこであなたに出頭してもらえれば一件落着、多分死刑になることはないでしょう…

どうです?協力してもらえるでしょうか?」

オレは殺人現場に出くわした現実を心の底から憎んだ。

オレに残された選択肢はこの悪魔のような相手から家族を守ることだけだった…

「分かった……その代わり絶対オレの家族には手を出すなよ!」

「さすが、出来る人と話すと話が早い、もちろんあなたの家族には一切手を出しませんよ…

あと出頭する際に気をつけてほしい事があるので一度私と会ってもらえますか?」

(会う…?)

オレの頭の中に一筋の光が差し込んだ…

こいつと会って隠しカメラでこいつの顔を撮って話の内容を録音して、

それを警 察に出して警察が動いてくれれば、家族も無事でオレも出頭しなくて済むのかも しれない…

「ああ大丈夫だ…こっちは半分、死ぬ覚悟は出来ている…」

「分かりました、また後日連絡しますね…」

(最悪な一日だ…)

オレは少しの時間、途方に暮れていた…

自分の運の悪さを憎んだ。

しかし、やらなければいけないことは決まっていた。

奴と会う時のための準備だ。

隠しカメラをそれを仕込むためのバッグ、盗聴器…役に立つと思われるものを備えた。

そして数日後、奴から連絡が入った…

「では今日の23時に…では…」

時刻はまもなく22時を過ぎるところになった…

(よし…そろそろ行くぞ…)

オレはこれ以上ない緊張を味わっていた…

今日、うまく証拠を残せるかどうかで自分の運命が決まるのだ…

オレは家を出た…

そして約束の場所へと向かった。

そしてちょうど23時…

誰かが来る気配はない…

突然、携帯が鳴り出す。

「もしもし」

「あれがあなたですね、今行きます…では…」

不意に物陰から一人の男が現れた…

「こんばんは、どうも…早速、出頭の仕方についての話をしたいので、お店にでも入りましょうか…」

思ったよりもはるかに若い男だった…

しかし忘れもしないあの狂気的な目はこの男だ…

「私にとって都合の良い店があるのでそこで話しましょう…ちょっとついてきてください…」

オレは男の後について行った…

そして地下へとつづくバーの入り口へと入っていった。

店内は異様な雰囲気だった…

客も店員も…通常の人間の出すようなオーラじゃない…

まるで地獄に来てしまったような錯覚に陥った…

「早速ですが、本題に入りましょうか…ここはあなたにとって居心地は良くなさそうですしね…

早めに終わらせましょうか…」

「そうしてくれ…」

オレはバッグに仕込んだカメラが奴の顔を映るようにさりげなくバッグの向きを変えた…

このオレの行動が相手に分かったらオレは家に帰ることは出来ないだろう。

「勘の良い警察なんですがね、宮本って奴で、こいつに私が言うように話してほしい。

まあこの事件に一番力入れてるのが奴だから嫌でも関わってくるだろう。本当にうざい存在だよ…」

オレは事件のことを詳しく聞かされた…

「これ以上はしゃべるな、これだけ話せば相手も納得するだろう…

あとはあなたの演技力にかかってますよ…ふふふ」

(よし……こいつ、オレが盗撮、盗聴してるのに気付いていない…このまま行けば…)

「ところであなたのそのバッグ、何が入っているんですか…今日は特に持ち物などいらないはず」

(……まずい………)

オレは都合の良い言い訳を必死に探した…

「こ、これは家族に仕事の関係で外出すると言ってあるから持ってきただけだ。」

「そうですか…まあ良いでしょう…出頭にも心の準備が必要でしょう。二週間の時間をあげます。

それまでに出頭しに行かなかったらあなたとあなたの家族を殺しに行きます…では」

それからオレは店を出て、精神的に疲れきった自分の体をなんとか家まで運んだ。

(ふぅ………これで奴の証拠は掴んだぞ!!早速明日、警察に届けるぞ!宮本さ んって方だったな!

あとは二週間のうちに奴が捕まれば良いが…まああのバーの話もすれば早く捕まえてくれるだろう。)

次の日

早速、オレは警察へ証拠を届けに向かった。

「すいません。宮本さんって方いますか?」

「あ、宮本ですね、今呼んでくるのでちょっと待っててくださいね」

そして数分後…

「私が宮本ですが………」

「あなたがですか!実は…」

オレはカメラに映した映像と録音したものと一緒に詳しく状況を説明した。

「貴重な情報ありがとうございます!!でもまだあなたの身も危ないですからね !

一応これ私の携帯番号です。なにかあったら連絡ください」

これであとは警察が奴を捕まえてくれれば………

その三日後、

宮本さんからオレの携帯に突然、着信が入った。

「もしもし」

「あっ、宮本ですが、こないだは貴重な情報提供ありがとうございました!

おかげであなたを脅迫したという男を捕まえることが出来ましたよ!だからもう安心してください!」

オレは喜びの絶頂にあった。そりゃそうだ、地獄行きのバスから無事降りることが出来たようなもんだ。

今日から安心してぐっすり眠れそうだ。

その日の夜…

今までの疲れがあったせいか、オレは吸い込まれるかのように寝付いた。

しかし次に目を覚ましたオレは今ある状況を疑った…

縛られている…オレも……妻も……息子も…娘も……

奴だ…

「な、なんでお前がここに、捕まったはずじゃ!!」

「あなたやはり裏切りましたね…宮本が教えてくれましたよ。」

「おっ お前ら!!」

男は鋭い刃物を取り出し、無抵抗の妻に襲いかかった…

オレや子供たちが見ている前でなんのためらいも無く、切りかかった…

妻の血が部屋中に飛び散り、さらに男は何度も妻を刺し続けた…

肉片と化していく妻を茫然と見ていることしか出来なかった…

これは夢なんだ…悪い夢なんだ……早く覚めてくれ…

そして次に男はオレのほうに向かってきた…

思い切りオレの顔を切りつけた……

激痛がほとばしる…

この痛みは……夢じゃない……

激痛と家族を守れなかった悲しみと悔しさと共にオレの意識はだんだん遠くなっていく…

この惨殺事件は迷宮入りとなる……………………




  → Bad day(2) 太陽と月 



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