君臨

創作の怖い話 File.77



投稿者 dekao 様





私は、女王だった。

君臨せし者、それが私だった。

あの世界で、私に出来ない事など何一つ無かった。

指をパチンと鳴らせば

たちまち贅(ぜい)を尽くしたご馳走が目の前に並び

暑いと感じたら軽く首を傾げれば

太陽は雲に隠れ、涼やかな風が私を撫でた。

ステキな男性も、私が少し見ただけで

すぐさま跪(ひざまず)いて熱い包容を…。

気に入らない存在は、軽く眉をひそめるだけで

その瞬間、消えてなくなっていた。

全ての存在に傅(かしず)かれ

私は女王として、世界の頂点に君臨していた…。

「…意識が回復しました。もう大丈夫です。」

…誰の声だ? …頭が痛い?

「ゆり子!! ゆり子!! 分かる!?」

…誰だ!? それに『ユリコ』とは…誰の事だ!?

私は女王!! 君臨する存在だ!!

「ゆり子!! お父さんだよ!!」

…お父さん? …誰の?

「…誰だ!?」

私が声を発すると、その男と女は泣き出した。

「頭が…痛い。誰だ!?」

白衣を着た男が私をのぞき込んで

「まだ意識が混濁しているようですが、じきに収まるでしょう。」

意識が混濁? まるで意味が分からない。

ここは…どこだ!? 白い壁に囲まれた

…………………病院?

泣いているのは…お父さん!? お母さん!?

「お父さん? …お母さん?」

「ああ!! そうだよ!! そうだよ、ゆり子!!」

「私、どうしたの? なんでここに?」

二人は、顔を見合わすと

言いづらそうに私に告げた

「秀夫君の事、分かる?」

秀夫君!? 秀夫君?… 秀夫!!

私は秀夫の運転する車に乗ってて…!!

「秀夫!! 秀夫は!?」

両親は、また顔を見合わせると俯(うつむ)いて

黙ってしまった。

「ねぇ!! 秀夫は!! 秀夫はどうなったの!?」

白衣のお医者さんが、静に話し始めた

「ゆり子さん、あなた方は信号無視の車を避けようとして交通事故に。」

「秀夫は!? 無事なんでしょ!?」

お医者さんは、眉間に皺を寄せて

言いづらそうに「…残念ですが。」とだけ言った。

…意味が分からない!! 何が!? 何が残念なの!?

全身全霊を込めて

私は、その意味を否定した!!

…もう私は女王ではない。

指を鳴らしても、何も出てはこない。

暑くても寒くても

エアコンのスイッチを入れなければ、そのままだ。

そして、私にとって唯一の男性だった秀夫は…もう、いない。

退院した後も、次第に私は自室から出なくなっていった。

例えて言うなら、玉座から追放された女王は

この先、どうやって生きていけば良いのか

その術が、まるで見当もつかなかったのだ。

こんな事なら、ずっと意識不明のままが良かったのに。

何故、私を目覚めさせた!?

毎日、両親に詰め寄った。

そんな私を扱いかねて

いつしかドアの所にご飯だけ置いて、滅多に声さえかけなくなった。

カーテンを閉め切った、時間も日付も止まった部屋。

ここにある物はベッドと机、パソコンにクローゼット

これが、今の私の王国の全て。

密閉された、王国…。

昼とも夜ともつかない中、私はまどろむ。

…どれだけの月日が流れたか

私の王国に住人が増えつつあった。

全員、半透明ではあるが。

「ここは私の王国!! ここに居たければ私に服従しなさい!! それが条件よ!!」

最初に来た男に、私は女王らしく凛と言い放った。

私の威厳に気圧されたのか

最初、戸惑った様子だった男は、やがて恭(うやうや)しく一礼した。

それから、ほぼ毎日王国の住人は増え続けた。

彼らは、様々な年齢、容姿、時には怪我を負った者までいたが

全員共通で、女王たる私の身の回りの世話を甲斐甲斐しく行った。

私は、再び玉座へ返り咲いた。

秀夫も私の元へ帰ってきた。

当然だ!! 私に出来ない事など無い!!

彼は女王の近衛兵とお側役を兼任させている。

ドアの前で何かが置かれる音がする。

子供の小間使いに取ってこさせる。

今日は魚のグリル、ミソ・スープに東洋のピクルスか。

私は女王らしく優雅に食物を口に運ぶ。

そう!! 私は君臨する女王。この王国は狭すぎる。

ふと顔を上げると国民全員が窓まで道を作っている。

あぁ小間使いシェードを開けなさい。

そこには…光る道があった。

遥か彼方、王宮が見える。

私は、ゆっくりと微笑むと「さあ!! 王宮に帰ります!! 共を!!」と言い

近衛兵たる秀雄を先頭に、王宮までの道のりを

窓枠を越えて…踏み出した。

国民よ!!

拍手を!! 喝采を!! 祝福を!!

女王は、今!! 戻ったのだ!!



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