オーラ |
創作の怖い話 File.69 |
投稿者 でび一星人 様 |
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八木 裕史 31歳 性別 男・・・っと。 「・・・すいません。電話番号は携帯でいいですか?」 「あ、けっこうですよ。」 おれの名は八木 裕史。 とある大阪の町工場で働いている。 今日は会社の健康診断だ。 特に体の不調も無いので、結果は大丈夫だろうとは思っている。 ・・でもちょっぴり不安な面もあったりするのが人間の臆病なところか・・・。 でもまぁ、仮になにか大病が発覚したとしても、他の人間に比べたら怖くは無いと思う。 なぜならおれは、自分の死期を知ってしまっている。 あと五年の命らしい。 自分の死期を知ったのは。今から二年前。 【未来が見える】という同級生が書いた手紙を読んでしまった。 怖いくらいに、なにもかもが当たっている手紙だった。 そしてそこに、おれの死ぬ年齢も記されていたってワケだ。 始めに自分の死期を知ったときはそりゃぁ頭が真っ白になったよ。 仕事も辞めて、思う存分遊んでやろうと思った。 でも、おれには貯金が無いから遊ぶ事は出来ないと直後に気付いた。 そして人に迷惑をかけてまで遊ぼうなんて思わなかったので、借金をする気にもなれない。 結局、普通に働いて、休みの日に遊ぶといった生活をあれから二年間続けている。 でもさ、それだけでもけっこう楽しいもんだなと実感している。 働くから、仕事の後の開放感を得られるわけだし、 普段働いているから、休みの日のありがたさもわかるってもんだ。 昔ニートでヒモやってたときなんかは、毎日が休みだったから、休みの嬉しさを感じれなくなっていたな。 幸せを感じれないという事が、不幸なのかもしれないな。 ・ ・まぁ、そんなことで、おれはふっきれて、残りの五年間を最後まで平凡に幸せに過ごすつもりだ。 出来れば田舎の母さんと一緒に暮らしてやりたいという気持ちもあるんだけど、 今の仕事にも大分馴れ、年齢的にもまた1から何かを覚えるのは少ししんどいから、 今のところはここで働く事しか考えていない。 「・・は〜い。いいですよ〜。 服着てくださ〜い。」 先生の診療が終わった。 おれは作業着を羽織って、注射の痕を綿みたいなやつで押さえながら作業場に向かって歩く。 「お〜う!ヤギちゃん! 診断終わりかぁ?」 先輩の百郎さんだ。 百郎さんは今年で50歳なのだが、心も体も若く、よく皆を飲みに連れて行ってくれる。 この間百郎先輩はおれをプロレスを見に連れて行ってくれたんだが、 その時に飛んできた細身のレスラーに激突されたりしていた。 「あ、百郎さん。お疲れ様です。 百郎さんは今からですか?」 にこっと微笑み、百郎さんは、 「おう。おれは今からやぁ。 看護婦ええのおったか?」 「・・・いや、どうでしたっけ・・。 あんまし見てませんでした・・。」 「甘いのぉ〜。ヤギちゃんはぁ。 そういうところチェックしとかなあかんやろ〜?」 ・・・百郎さんは、随時この調子だ。 こうやって、周りをいつも和ませてくれている。 プライベートで辛い事がある日もあるだろうが、一切それを見せない。 立派な事だと思う。 おれは百郎さんと別れ、作業場に戻った。 作業台に向かって立つ。 前の作業台には16歳くらいの若い男の子。 後ろにはベテランの男の人がいる。 ベテランの人は、肌色っぽい光を放っている。 今日も問題ない。 ・ ・・あ、そうそう。 おれは、人が発している【オーラ】を見る事が出来る。 基本は肌色っぽく光っているんだが、人によってはその光り方が大きかったり小さかったりする。 その色も、体調不良だったら青っぽくなったり、 怒っている人は赤っぽくなったり、 【教祖】等、地位の高い人は黄色のような金色のような光になってたりする。 これは別に調べたわけでなく、毎日人のオーラを見て、だんだんとわかってきた事だ。 ・・ちなみに、病院に行った時にわかった事なんだが、 死に近づくと、だんだんオーラの光は小さくなっていく。 そしてだんだん小さくなり、亡くなった瞬間に、黒色になる。 黒は死だ。 死んだ後は、その黒いオーラを身にまとった魂がどこかへ向かって行く。 抜け殻の体は何も光らなくなるっていうわけだ。 ちなみに、前の作業台の若い男の子は【黒い】オーラを身にまとっている。 今日もまだ、自分が既に死んだ事に気付かずに作業をしている・・・。 そう。おれは死んだ人間も、普通に見れるようになってしまったんだ。 四年前、ヒモをやっている時に、ある日急にオーラと死んだ人が見えるようになった。 その時に、首が半分切り裂かれた女の霊に憑かれ、今でもずっと憑かれたままだ。 今日もおれの横で、じーっとおれを見つめている・・・。 死んだ人間も普通に見えるというのは、やっかいな事でもある。 幸い、おれにはオーラが見えるので、その色で判別することができるのだが、 オーラが見えず、死んだ人だけ見える人はすごくヤッカイだなと思う。 死んだ人間は、自分を気付いてくれる存在を探している。 普段気付かれないものだから、気付いてくれる存在を見つけたら、逃すかとばかりについてくる。 そして自分の苦しみを共有しようとするのだ。 なのでおれは気付かないフリをする。 黒く光ってる人は、無いものと思うようにしている。 でも、たまに目が合ってしまったりする。 そんな時、やはり相手はこっちに近づいてくる。 でも、おれの場合は大丈夫なんだ・・・。 幸か不幸か、おれに憑いている首半分が切り裂かれた女の霊を見ると、 大体の霊は逃げていく。 逃げずにそれでも向かってきたことも2〜3回あったが、 おれに憑いてる霊が吸収してしまった・・・。 すーっと、体に吸い込むような感じで、とり込んでしまったんだ。 よほど強烈な霊なんだろうか・・・。 何度か、憑いてる霊やこの見える力が嫌で、お寺にお払いに行った事がある。 しかしどこの寺もインチキで、結局何の解決にもならなかった。 ・ ・・まぁ、探せばちゃんとしたお寺もあるのかもしれないが、もう面倒くさくなって、このままにしている。 どちらにしても、後五年でおれは死ぬのだから、 この能力を持ってしまったのも何かの縁。 向き合っていこうと、今では思っている。 ・・もちろん、この能力の話しはだれにもしていない。 言っても信じてもらえないだろうし、なにより説明が面倒だ。 ふと前を見ると、なにやら荷物を運んできている。 どうやら、【空き】だった作業台に、新しい人がやってくるらしい。 ・ ・止めておいたほうがいいと思うが・・・。 若い男の子の霊の黒いオーラが一段と大きくなった。 作業の手を止め、運んできた荷物を睨んでいる。 じっとじっと、睨んでいる。 「どうして、おれの作業場にこんなものを?」とでも言いたげだ。 荷物は次から次へと運ばれてくる。 男の子の黒いオーラは一段と大きくなる。 そして、新しくその作業台を使う人がおれに挨拶をしにきた。 30後半くらいの人だ。 「あ、そこでこれから作業させてもらいます。 出香尾といいます。 よろしくおねがいします^^」 おれは愛想笑をして、挨拶をした。 そんなに仲良くする気はしなかった。 なぜなら、情が移ってしまうと、後々辛い思いをするからだ。 作業台に居た男の子の霊は、凄い形相で出香尾さんを睨みつけて、金づちでゴンゴン作業台を叩いている。 三週間後、出可尾さんは体調を崩して休みがちになり、しばらくして会社を辞めてしまった。 男の子の霊は、平和を取り戻したかのように、今日も作業をし続けている。 残酷なようだが、おれは見えるだけで、誰も救えない。 何も出来ないから、何も見ないようにしているんだ。 卑怯に思うだろうか? でも、結局皆そんなもんだろう。 自分は違うというなら、アフリカにいって、ボランティアでもしたらいい。 結局、目に見えても助けれないものもあるんだ。 それは辛い事だけどね。 おれは前の作業台に人が来ない事だけは祈っている。 ★→この怖い話を評価する |
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