死のネックレス

創作の怖い話 File.63



投稿者 でび一星人 様





私の名前は沙織。

東京での生活も、早三年目を向かえた。

今、私は水商売をしている。

この仕事を始めて、もうすぐ二年になろうとしている。

学歴も無く、特技もコネも無い私がこの町で生きる為には、

自然とこの仕事に流れ着くしか無かったのかもしれない。

でもね、高校を卒業し、四ヶ月くらいはちゃんとした会社に就職したのよ。

その会社の寮で、とある事件があってね。

それをきっかけに会社を辞めちゃったの。

住むところも何もない私は、しばらくネットカフェ難民をしながら求人誌を読みあさったわ。

そしてある日、見つけたの。

時給3500円

その他手当て有り

社宅も完備

今の私に必要なもの全てが、そこにあったのよ。

まずは1日体験。

お客さんのおっさんと、くっちゃべる(話す)の。

もともと私はおっさんみたいな性格のところがあるから、全然苦にならなかったわ。

しかも、おっさんが飲み物をおごってくれたりするの。

おかげで酒も超つよくなった。

全然私にとって、楽だし、気を使う事もなかったので、働く事に決めたわ。

おっさん共は私との会話を楽しみに、また来てくれた。

おっさんが私を指名してくれると、指名料とかいうので、2000円もらえるの。

ウチの店は全額女の子がもらえるみたいで、多い時は1日で指名料だけで3万とか稼いだこともあるのよ。

そんなウハウハな生活と思ってたんだけどさ、

一ヶ月も働くと、いろいろ見えてくるよね。

【女社会の黒さ】がね・・・。

まーこの話は置いておくわ。

女性の社会人は、言わずとしれてる事だもの。

男はちゃんと見抜けるように頑張んなさいよ。

さて、今日アナタにお話するお話は、

このお店に入ってちょうど一年目くらいに、一番仲良くなった同僚の【エリカ】って子に関するお話。

エリカっていうのは、もちろん店用の名前で、本名は聡子っていうの。

私はよく、「サト」って呼んでたわ。

ちなみに、私の店での名前は【花子】

最初、店のボーイさんに、「名前、希望ある?」って聞かれたから、

適当に言ったら、それが店での名前になってしまったの。

今更常連さんも沢山いて変えれるワケもないし、 

人生での何番目かの失態を演じてしまったと、今でもちょっと後悔している。

 サトは、すっごく笑顔がステキな子だった。

他の子とちがい、少し控えめで、お客さんにもそんなにねだったりする子でもなかった。

だから一ヶ月の稼ぎは、出勤の割りにそこまでは良くなかったんだけど、お客さんからも、同僚からも、

皆から愛される子だった。

ある日、サトは常連のお客さんからネックレスを買ってもらったの。

同伴出勤の時に、出勤前に宝石店に寄って、買ってもらったらしい。

サト、すごくよろこんでた。

店に入って、なぜかそのネックレスに目が惹かれたらしい。

迷わず、「これにする。」って決めたらしい。

実は私もそのネックレスを見せてもらった事があるんだけど、

なんというか、不思議な色をしてた。

色というか、ネックレスの周りを、紫のような、不思議な色のオーラが出てるみたいな・・・。

その時に、おかしいと気付くべきだったのよね・・。

サトはそのネックレスを、肌身離さず着けるようになった。

すごく気に入ってて、お客さんが居なくて暇な時は、いつもそのネックレスを見つめて嬉しそうな顔をしていたっけ。

ネックレスを着けだして、一週間くらいが経つと、

サトに異変が見られた。

まず、目の下のクマが目立つようになった。

まあそれは化粧で誤魔化す事ができるんだけど、

今までのステキだった笑顔が、ほとんど見られなくなった。

接客中も、なんだかうわのそらな感じで、 笑う時といったら、そのネックレスを見つめている時だけだった。

一ヶ月もすると、サトの異変は目にあまるものがあった。

仕事も休みがちになり、

極端に痩せだし、

性格も荒々しくなった。

今思えば、本当に私は鈍感なんだと後悔するけど、 

まさかあのペンダントが原因なんて、まったく思いつかないし、結びつかなかったの。

「サト、どした?最近体調悪いの?」

って聞いても、

「・・・うううん。 平気・・。」って、

我慢強いサトらしい返事がかえって来るだけだった・・・。

 ネックレスを着けだして、二ヶ月が経った。

サトはとうとう仕事を辞めてしまった。

心配だった私は、休みの日にサトの家にお見舞いに行ったの。

ピンポーン

チャイムを押す。

・・・誰も出てこない・・・。

ガタガタ・・・

ちいさな物音が中から聞こえる。

サトが中にいるのはそれで察することが出来た。

ドンドンドン!

「サト? ねえサト?? いるんでしょ?  ねえ?」

私は心配だったから、ドアをドンドン叩いて、必死にサトを呼んだの。

すると、  ガチャッ・・  ドアが開いた。

頬もこけてしまい、 化粧でも隠せないくらい大きな目のクマが出来て、 

骨と皮しか無いような細い腕のサトが出てきた。

「・・・サト・・・ どうしたの? 仕事も辞めちゃって・・・。 心配してたんだよ?」

「・・・・」

サトは無言だった。

目の焦点も合っていない。

パジャマ姿のサトを見て、私はふと、違和感を感じた。

胸元を留めてるボタンの隙間から、キラっと光るモノが見えたの。

(あのネックレスだ・・・。)

そこで、私はようやく繋がった。

サトがこんなふうになったのは

あのネックレスを着けてからじゃないのか?

「サト!そのネックレス、ちょっと貸して!!!」

私はサトから無理やりネックレスを奪おうとした。

と、突然サトは目の色を変えて、奇声を発しながら抵抗してきた。

「ワ タ サ ナ イ!   ワ タ サ ナ イ !!   ワ タ サ ナ イ !!!」 

ずっとそう繰り返しながら、ものすごい形相で私を睨んでくる。

私は絶対にサトがこうなったのは、このネックレスのせいだと確信した。

ネックレスを奪おうとした時に、見えたんだ。

ネックレスを普段かけてる首の周りに、

奇妙なアザが出来てるのが・・・。

サトは、それ以来私を拒絶するようになり、家にすら入れてくれなくなった。

【ネックレスを奪う者】というふうに認識されてしまったのだろうか・・・。

その後一度サトを見舞いに行ったのだが、サトは包丁を持って出てきたので、

さすがに身の危険を感じ、怖くてサトの家には行けなくなった。

出勤時とかにサトの家の前を通る時、

たまにサトがベランダの窓越しに外を見てる時があった。

必ず、ペンダントをチラチラ見てはニヤケるように笑っていた。

当時の笑顔の面影は、もう微塵も残っていなかった。

・・・更に数週間が経った。

ある日、サトの家の前を通った時に、人だかりが出来ていた。

もしや、と思い、駆けつけてみると、悪い予感は当たるもので、

サトは部屋で死んでいたらしい。

後から聞いたのだが、第一発見者は隣の人で、なにやら、

「隣から奇声が聞こえてきたので、ただ事じゃないと思い、

大家さんに連絡して部屋を開けてもらったら、既に息絶えていた。」 ということだった。

私はただ、人ゴミに紛れて、サトがビニールシートをかぶせられ、

警察が色々そのへんを調べてるのを見ていた。

涙が出てきた。

ステキな笑顔のサト。

落ち込んだ時、励ましてくれたサト。

よく一緒に買い物にも行ったサト・・・。

助けることが・・・できなかったのかな・・・。

泣いている私に、刑事さんが不審に思ったのか、聞いてきた。

私は、嘘をつくいわれもないので、元同僚だと答えた。

もちろん、いろいろそこから聞かれた。

警察は、少々の疑いの目で私を見てるのだろうけど、何もしていないのだからありのまま答えればいい。

「・・・なるほど。 で、君は、このネックレスが怪しいと?」

刑事さんはそう言うと、ビニールシートをめくり、ネックレスを持ち上げ、変色したアザを見た。

「・・たしかに・・・アザが出来てるね・・・。 気味がわるいなぁ・・・。」

そうこうしていたら、遅れて来たのか、鑑識のベテランのような人がやってきた。

なにやら刑事さんと話をした後、ネックレスとその下のアザを見た瞬間、

みるみるうちに鑑識の人の顔色が変わっていった。

そして一言、

「・・・一体・・・どこでこんな物騒なものを・・・」

鑑識の人はなにやら頑丈そうな箱を持ってきて、そのネックレスを急いでその箱に入れた。

そしてなにやら紙のようなもので箱に封をして、

「とにかくこれはもって帰る! こんなもんをこんなところに野ざらしにしとったらそれこそ大変な事になるからな!」

と、慌てるように帰っていった。

刑事さんも唖然としてるようだった。

私は、その後連絡先を聞かれ、家に帰してもらった。

一週間が経った。

例の刑事さんから電話があった。

どうやら、私の疑いは晴れたような事を言っていた。

「あの・・結局死因は何だったんでしょうか・・・?」

気になるから私は聞いた。

刑事さんは、言いにくそうにしてたんだけど、

友達がなぜあんなふうに死んだのかがどうしても知りたいと言ったら、しぶしぶ答えてくれた。

「・・あのネックレスですが・・・。 

もの凄い量の放射性物質が検出されました・・・。 

あのアザは、それによるものです・・・。

更に彼女の内臓は・・・ これ以上聞きたいですか?」

私は断った。

サトはもう帰ってこない・・・。

本当に、サトを私は助けられなかったんだろうか?

今でも、たまに思い出すんだ。

サトから、ネックレスを取りあげようとしたこの左手が、

ズキズキ疼くたびに・・・。



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