青白く

創作の怖い話 File.60



投稿者 でび一星人 様





この世界に入って、もう何年経つだろう?

私の名前は沙織。

今年で23歳になった。

高校を卒業して、東京の工場に就職したはいいが、半年も経たないうちに退社。

生活のために水商売の世界に足を踏み入れた。

そのまま現在に至る。

「おつかれさ〜ん 花ちゃ〜ん。」

花ちゃんというのは私の事だ。

私の店での名前は過去の過ちで【花子】。

店のスタッフからは【花ちゃん】で通っている。

「あ、おつかれ様で〜す。 林田さん。」

林田さんは、こもお店のボーイさん。

私は【林田さん】と呼ぶが、他の皆は【リンさん】と呼ぶ人が多い。

林だからリンっていう原理だ。

「はなちゃん、今日は早あがりか〜。 いいね〜これから彼氏とデートとか〜?」

「いやいや〜 そんな相手居ないっすよ〜。 帰って爆睡です。」

「ははは。 そっかそっか。 ま〜気をつけて〜。 夜も遅いから。」

「はい。 どうもお疲れ様でした。 お先に失礼します。」

店を出て時計を見る。

(12時半・・・か。)

店は夕方八時から朝の4時半までやっている。

だいたい11時〜12時くらいまでがピークで、そこからはドっとお客さんは減る。

その為、12時を回ったあたりで女の子は数人帰るわけだ。

家の遠い子なんかは送迎で送ってもらえるが、

私は歩いて15分くらいの所に住んでいるから、一人ぽっちでいつも歩いてかえる。

一人ぽっちの夜だ。

涙がこぼれないように、上を向いて歩こうなんて思わないけども・・・。

歩いて15分というと、近いようで微妙に遠い。

家の近くに着く頃には、飲み屋街の雰囲気は無くなり、あたりは物静かな感じとなる。

ガタンゴトン・・ ガタンゴトン・・・

家に帰る線路沿いの道。

終電であろう電車が走って行く。

私が家に着くころには、もう電車の音はしない。

静かに眠れる。

そんなことを考えていると、

ぴろりろろ〜ん ぴろりろろ〜ん ぴろりろりっろっろ〜ん(サザエさんの町歩いてるときの音楽)

メールの着信音が鳴った。

メールを見る。

「あ、林田さんだ。」

【花ちゃん! ごめん、今から店戻ってこれる? 今日給料渡すの忘れてた!】

あああああ!!

そ、そうだった。

今日は給料日だった・・・。

でも、ま、いいや。明日も出勤だし。

明日でいいですよ。と返事を打とうっと。

私はメールを打ちながら、線路沿いの道を歩いて家に向かった。

メールを打ちながら歩いていると、向かい側から歩いてくるサラリーマン風の男の人が目に入った。

きっと終電ギリギリで帰って来た酔っ払いだろう・・・。

男の人との距離が縮まる。

私は携帯に目をやりながらも、視界に入ってくるその男の人に少し意識をやっていた。

・・・なんだか、男の人・・・。

あ き ら か に 私 を ビ ビ リ な が ら 見 て る ・ ・ ・

距離が一メートル付近になると、男の人はホっとした様子になった。

そしてそのまま、何事もないかのようにすれ違った。

(一体あの人・・・。なんで私を見てそんなにビビってたんだろう・・・。)

顔をあげると、カーブミラーが目に入った。

そこに映る私の顔は、

携帯の画面の光で青白く光っていた。

私は噴出した。

そりゃ、怖いわな。

私自身謎が解けて、さっきの男の人のほうへ目をやった。

男の人はスタスタ歩いていく。

(・・・ん?)

おかしなことに気がついた。

男の人の背中に、A4くらいのサイズの紙が貼られている。

それがはらりと落ちた。

「・・あ!」

私は思わず落ちた紙を男の人に届けようと、走って行った。

最近運動不足の為、走るのは超キツかったが、思わず体が反応していた。

そして、落ちた紙を拾い、男の人の元へ・・・。

男の人はもう、どこかしらの角を曲がってしまったようで居なかった。

「ぜぇ・・ぜぇ・・・。 こんなにしんどい思いしたのに・・・。」

仕方なく、私は紙を持って家路につく。

明日、もしすれ違ったら渡そう。

とりあえず今日はもう疲れたし、帰って寝よう。

家に着いて、電気を着けた。

・・・部屋の中が、ぐちゃぐちゃに散らかっていた・・・。

服は畳まずに、ぐちゃぐちゃにちらばっている・・・。

テーブルの上も、何も置けないくらいゴミだらけ・・・。

仕方ない。 私は最近掃除をしてなかったもの。

なんとか座る場所を作り、服を脱いで座る。

ホっとするヒトトキだ。

テレビをつけよう。

私はリモコンを探す。

でもなかなかみつからない。

散らかり過ぎで、テレビをつけることすら困難な部屋になってしまった。

リモコンを探してる時、ふと、さっき拾った紙が目に入った。

(これ・・・何書いてるんだろう・・・?)

私は紙を見た。

【 メ〜ルまってま〜す☆  アドレスは、debi-nosaku.hinha-omoro-i@jp-t.ne.jpで〜っす】

・・おそらく・・会社でいじめられているんだろう・・・。

こんなものを背中に貼られるなんて・・・。

私はあの男の人をカワイソウに思うのと同時に、

母譲りのイタズラ心に火が灯り、とりあえず男の人にイタズラメールを送った。

【私 の 顔 、 そ ん な に 怖 い の ?】

絶対にビビルはず。

彼は何も悪い事はしていないが、

私にこんな紙を拾われるのが不運だったと思いなさい。

フフフフフ

私は床に着いた。

パンツ一丁で。

ドンドンドン!

ドンドンドン!!!

ん〜・・・

やけに家のドアをドンドン叩かれる。

時計に目をやると、まだ朝の七時半だ。

誰だ・・・こんな朝早くに・・・。

ドンドンドン!

近所迷惑にもなる。

「は〜〜い」

私は急いでドアのところまで行った。

「どなたですか〜?」

「・・・」

返事がない。

こんな時のノゾキアナ

困ったときのノゾキアナ。

私はノゾキアナからそっと外を伺った。

「はうあぁっ!!!!」

私はぶったまげた。

なぜなら、その来客は、昨日すれ違った男の人だった。

「・・あ、あのぉ・・・」

ドアの外から声が聞こえてきた。

「・・は、はい・・・。」

恐る恐る私は返事をする。

「あ、すいません・・。 あの、メールを読んだのですが・・・。」

男の人はやたらとオドオド話す。

「は、はぁ・・・。」

なぜ私の家がわかる・・・。 そして、なぜ私のメールだと解る・・・。

怖さと不思議さが交差する。

男の人は、

「あの、すいませんでした!」

急にあやまりだした。

????

「い、いいえ・・・。」

私はイタズラの罪悪感があったので、ワケがわからなかった。

男の人は、

「あの、顔、怖くなかったです。 ただ、すこしビックリして・・。」

・・・すごく素直な人なんじゃないだろうか・・・。

だから職場でイジメられてるのかも・・・。

「あ、あ、いいえ・・・。気にしてませんよ・・・。 そ、それより・・ なんでこの家がわかったのでしょう・・・?」

当然の疑問を投げかけた。すると、

「あ、この携帯、メールで住所がわかるやつなんです。」

うかつだった。

私は最低限の機能しか使えないから、

この【jey phone】というメーカーの電話がそこまでハイテクだとはしらなかった・・・。

とりあえず、私もあやまりたかったので、男の人も良い人そうだったからドアをあけた。

ガチャっ

男の人は固まっていた。

私は、

「あ、あの、ほんのイタズラ心だったんですよね・・・。

この紙が背中に張り付いてたんで。 へへ・・。 ごめんなさいね。」

「・・あ、は、はい・・・。 いえいえ・・。」

男の人の様子が変だ。

目が泳いでいる・・・。

「花ちゃ〜ん」

その時だった。

林田さんが家にやってきた。

男の人は林田さんを見るとハッと我に帰って、

「あ、あ! あの、僕これから仕事なんで、 それでは!」

と言って走って行った。

・・・シャイなんだろうか・・・。

とりあえず、私は林田さんにあいさつをしようと思い、

「林田さん、おはようございます。 どうしたんですか?こんな朝はやくに?」

と言うと、

「おお。 花ちゃん。 とりあえず、部屋はいるね。 ドア閉めよう。」

と言って、中に入り、玄関のカギを閉めた。

「ん? ん? どうしたんですか?林田さん?」

私はいつも冷静な林田さんがソワソワしているのが気になった。

「どうしたも何も・・・。」

林田さんは困った様子だ。

「?」

「花ちゃん・・・ とりあえず、朝っぱらから裸で外出ちゃ、まずいわな・・・。」

やっちまった。

そういえば、私は昨日パン1で寝ていたのだった・・・。

あの男の人に見られた・・・。

Aしかないけど見られた・・・。

減るもんじゃないけど、減るほども無いのをみられた・・・。

顔が熱くなった・・・。

とりあえず服を着て、林田さんにお茶を入れた。

「・・・ま、花ちゃんの事だから、そんな感じで野外裸族やってたんじゃないかなとは思ったけどね。」

林田さんは棘無く相手を罵倒するプロだ。

私は今更ながらに超恥ずかしくなって何も言えなかった。

「はい。給料。」

林田さんは給料袋を持ってきてくれたのだ。

「・・あ、ありがとうございます・・・。」

私はありがたく受け取った。

「それよりさ・・花ちゃん。 さっきの男、知り合い?」

「じつは、かくかくしかじか(死語)で・・・。」

私は男の人との一連の流れを話した。

「・・・なるほど・・・。」

林田さんは難しい顔をしている。

そして、

「花ちゃん。 今日一日、おれとこの部屋で過ごすのと、 今日1日バタバタするの、 どっちがいい?」

と聞いてきた。

私は林田さんと一緒に一日居たら絶対に危険と解っているので、

「ば、バタバタで。」

と答えた。

「了解。 じゃ、荷造り始めよっか。 若いのにダンボール持ってこさせるよ。

あ、携帯、解約しな。 新しいの店のほうで手配しといてやるから。」

???

ワケがわからない。

「ん・・んっと、林田さん? 一体なぜ?」

「いやいや、だって、今の男、知り合いってワケじゃないんだよね?」

「そ、そうですけど・・。」

「花ちゃん、今日の新幹線で大阪に行ってもらう。うちの系列店あるから、そこで働けるようにしとくからね^^」

「えええ!ちょ、ちょっとワケが・・。 あの男の人、真面目そうな人だし、そこまでして逃げる理由が・・。」

「花ちゃん、 知らないの?」

「え?」

「あの男の人、 このへんじゃぁ有名なストーカーだよ?」

ストーカー?

林田さんは軽いノリの人だけど、意外としっかりしてて、嘘をつくような人じゃない事はよく知っている。

私は林田さんに手伝ってもらい、持ってきてもらったダンボールに荷物を詰める作業をした。

昼の12時。

「ふぅ。 ちょっと休憩しよっか。花ちゃん。」

「は、はい・・・。」

林田さんとカップめんを食べながら、私は林田さんに聞いた。

「林田さん・・・。でも、あの人真面目そうでしたけど・・本当にストーカーなんですか・・?」

「・・ん?信じれない?」

「・・はい・・」

「オッケ〜。 ちょっと、ここからソっと外見てみな」

そういうと、林田さんは窓のカーテンの下の方をすこしめくった。

「そっとだよ?そ〜っとね。」

私の背筋に冷たいものが流れた。

仕事があると言って急いで走っていった、朝のあの男の人が・・・。

電信柱のカゲからこの部屋を じっと見ていた。

「花ちゃん、どう?怖くない? ストーカーって怖いよね〜。」

「・・・怖いです・・・。」

「きっとさ、彼、普段は真面目なんだろうね。 でも、ああいうのってさ。

スイッチ入っちゃうと、理性の歯止めとか効かなくなっちゃうんだろうね〜 アハハハハ。」

「・・・あ、あはは・・・。」

私は苦笑するしかなかった。

林田さんは真面目な顔になり、

「しかも彼さ。 かなりAランクのストーカーなんだよね・・・。

こないだ被害に合った子なんて、数十個の盗聴器仕掛けられてたみたいだしね・・・。」

なんでそんな人が野放しにされているのだろう?

林田さんはなんでこんなに詳しいんだろう?という疑問はあったのだが、

あえて私は裏の匂いを嗅ぎ取ったので聞かなかった。

聞いても答えてくれないだろうと思ったから。

「花ちゃん。 世の中にはね。 けっこういるんだよね。

こういう、野放しにされてるのがね・・。 気をつけなよ・・・。」

 夕方頃、私は男の人の格好をして裏からそっと外に出た。

部屋の中では、林田さんがダミーとなって、表で見張ってるストーカーを欺いてくれてるらしい。

そして私は、大阪で働く事となった。

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アナタの町にもストーカーはたくさんいると思います。

権力者絡みで、警察も手をだせないような存在も。

ちゃんと戸締りはしていますか・・・?

外から誰も、部屋を覗いてはいませんか・・・?



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