でびノート(1)

創作の怖い話 File.47



投稿者 でび一星人 様





オレの名は【馬上 まさお】

身長171センチ、体重48キロ。

見ての通りガリガリだ。

氏名の頭文字が【ま】で、

体型がガリガリなもんだから、

クラスの皆はオレの事を【マーガリン】と呼ぶ。

…ただ一人を除いて…。

キーン  コーン  カーン  コーン

「よう!今日も暗いな!マーガリン!」

いつもの学校、いつもの教室。

朝、ホームルーム開始の5分前のチャイムが鳴り、皆がそれぞれ席に着く。

声をかけてきたのはオレの後ろの席の【阿部 司(あべ つかさ】だ。

いわゆるいじめっ子タイプで、いつもオレをなじってくる。

「オイ!返事くらいしろよ!マーガリン!」

「…何?」

「オマエ、数学の宿題ってやってきた?」

「…やってきたけど…」

「ちょっとノート貸してくれよ!」

「…貸してって…一時間目が数学じゃない…」

「いいから貸してくれって!!!すぐ済むからさ!」

「…本当にちょっと?」

「うんうん!ちょっとちょっと!」

「…」

オレは仕方なくノートを机から取り出した。

…と、同時に、阿部の魔の手が伸び、オレのノートを鷲づかむ!

「へへっ!マーガリンノートゲットだぜっ!」

阿部はオレのノートを高々と持ち上げた。

「…お、おい。う、写すんなら早く写せよ…。

授業始まっちゃうだろ?」

オレはノートを【勝訴の紙】みたいに持ち上げている阿部に言った。

「…写す?」

阿部はしかめっ面をしてオレを見下ろした。

「な、何だよ…写さないんなら早く返してくれよ…」

パシン

パシン

阿部はニヤケながら、ノートを丸めて手でパシパシやりだした。

「クックック…。

オイオイマーガリン。

1時間目は、数学だぜ?

使うだろうがよ!

数学のノートをよ!」

ルーキーズの悪役みたいな表情の阿部。

「そ、そうだよ…。

使うから返せって言ってんじゃないか…」

「はぁ?

オマエ、それじゃあオレが怒られちまうだろうがよ!

あの数学の鬼と呼ばれるセンコーによ!」

「な、何言ってんだよ…」

「ハッハッハ。

…まあ、な。

オレも鬼じゃない。

ホレ、オレのノートを貸してやるよ。

これで、ノート忘れにはならないだろ?」

阿部は宿題をやっていないであろう自分のノートをオレに手渡してきた。

「な、何言ってんだよ!!

返せよオレのノート!!!

宿題やってないノートなんかいらないよ!!」

ドゴッ!!!

オレがそう言ったところで、景色が揺らいだ。

ガラガラゴァッ…

気が付くと、オレは机もろとも教卓の方へと倒れこんでいた。

「オイオイ、阿部。朝から何やってんだよぉ」

「阿部〜〜〜。今日も元気だなぁ」

阿部の子分的存在の二人がゆっくりと近寄る。

「ハハハ。ゴメンゴメン。

…コイツがさ、ちょっとエラそうだったからさ」

エラそう…

オマエがノートを奪ったからじゃないか…。

「まあ阿部、どうせマーガリンは怖くて反撃なんてしてこれないんだからさ、

別に殴らなくったって、普通にそいつのノート使っとけばいいだろ〜」

阿部の子分がそう言っている…

…オレをかばっているつもりか…?

自分だけ、

安全なポジションで…



…それがオマエの正義か?

「フフ。

まあ、オマエらの言う通りだな。

オイ、マーガリン。

このノート、借りとくな!

授業終わったら、ちゃんと返すからよ!」

「…」

オレは…

結局それ以上は何も言えなかった。

結局阿部は、

オレのノートを見て、

先生に当てられた所をちゃんと答えた。

…でもオレは…

「オイ、馬上…。

オマエ、また宿題忘れたか…。

いい加減にしろよ。

何回目だ!?」

…違う…

違うんだ…

後ろから、怒られているオレを見ている阿部…

笑いながら見ている阿部…

くそう…

くそう…

憎い…

阿部が憎い…

キーン コーン カーン  コーン…

15時15分。

今日も学校は終わった。

オレはカバンに教科書やノートを詰める。

数学のノートを詰める時、手が止まった。

ボロボロに朽ち果てたノート。

大事に大事に使っていたノート…。

阿部だ…。

阿部がちょくちょく、今日みたいにオレからノートを奪い、

…乱雑に扱うから…。

…母さん…

オレの母さんは、東北地方のある病院で暮らしている。

手術をしなければいけない重い病気らしい。

父さんは、朝コンビニでバイトをし、昼は工場で働き、夜は風俗店の呼び込みをしている。

…母さんの手術費を稼ぐ為だ。

…このノートは、

まだ母さんが元気だった頃に買ってくれたものだ。

…元気だった頃の母さん…

小学二年生の時、

母さんはパートで初めてもらった給料で、このノートを買ってくれた。

「まさお!母さん、お給料もらったんだ!ほら!ノート買ってきてやったよ!」

あの日、母さんは嬉しそうにノートをオレに見せた。

「わぁ!ありがとう!」

オレも嬉しかった。

…でも…

「…母さん、何これ?」

ノートは、小学二年生のオレが使うにはまだ難しい、枠の狭いノートだった。

「あれ?まさおの使ってるノートってコレじゃぁダメなのかい?」

「ヒッグ…ヒッグ…うわああああん」

「ご、ごめんよまさお!!! …かあさん、また次の給料でノート買ってやるからさ!

ほら!元気だして!ね!

…そのノートは、中学生くらいになってから使いなよ!」

「…ヒッグ…うん…」

「…母さん…」

中学二年になった今、

オレにとってこのノートは遠く離れて暮らす母さんとの思い出の品だ。

…でも…阿部のせいで、こんなボロボロになってしまった…。

オレは悔しかった…。

…でも…

オレは何もできない…

母さんが買ってくれたノートをこんなボロボロにした阿部に…何一つ仕返しも出来ない…。

…ノートがボロボロになっていく様を…

…オレは何も出来ずに見ている事しか出来ない…

「…母さん…ゴメン…」

目を瞑りながら、オレはノートをカバンに詰め込んだ。

部室に向う生徒、

教室で放課後のひと時を過ごす生徒。

オレは彼らとは別に、そそくさと学校を後にする。

…友達も居ないオレには、放課後の学校なんて何の魅力も無いからだ。

足早に門のところまで来た時だった。

「オイ!馬上君!!!」

声をかけられた。

「…」

ゆっくりと振り向くオレ。

…この声は…おそらくアイツだ…

「いよ〜〜う!」

手を振りながら駆けて来る20代半ばの教師。

【筒井 晴枝(つつい はるえ)】だ。

「馬上君!ちょっとちょっと!」

「…何ですか…」

「今日帰ってから、何か予定ある?」

筒井は、放課後オレを見つけると、いつもこう聞く。

…そしてオレは決まってこう答える。

「…あります…」

「何の予定?」

「…家の用事です…」

「そ…そう…」

筒井は残念そうな顔をする。

…いつものパターンだ。

「…じゃ、僕はこれで…」

「え、ええ…。さようなら」

残念そうな筒井の後ろ姿を見て、オレは門を出た。

筒井は、今年この学校に配属された教師だ。

なにやら学生時代はバレーボールでそこそこ活躍した選手だったようで、

「バレーボール部のないこの学校に、バレーボール部を作ります!」

とか言ってはりきっている。

…で、片っ端から背の高い生徒に声をかけているってワケだ。

【馬上君!今日予定ないんなら、ちょっと見学していきなよ!ホラ!】

さっきの質問で【予定が無い】と答えると、ほぼ100パーセント↑の言葉が返ってくる。

そして運動神経の無いオレは、ほぼ100パーセントボールを顔面に受ける。

リアルほっしゃんだ。

少し足止めを食ったが、オレは帰路に着いた。

そして川のところに差し掛かった時だった…

「オイ!マーガリン!」

…また、後ろから声がした。

今度は男の声…。

僕は気付かないフリをした。

…この声は、阿部の声だから…。

「オイ!聞こえてんだろうがよ!マーガリン!」

タッタッタッタ…

阿部、他二名の足音が近付く。

  ドンッ!

オレはつきとばされた。

 ズザザ…

ヒザをすりむいた。

「ハァ…ハァ…オイコラ、聞こえてんだろうが。無視すんなよ!」

阿部は怒った顔をしてオレを睨みつけた。

「…べ、別に無視なんてしてないよ…聞えなかっただけだよ…」

「黙れ!マーガリン野郎!」

腹に痛みが走った。

阿部が僕の腹を蹴り上げたからだ。

「カハァッ!」

「ハハハッ!コイツ、ムセてやがるぜ!」

「本当だ!弱えぇや!」

阿部の子分が面白そうにオレを見ている…。

「ヘンッ…。

せっかく、一人寂しそうに帰ってるオマエをカワイソウに思って、一緒に帰ってやろうと思ってたのによ!

今の無視で、オレ怒っちゃったよ〜〜〜〜!」

阿部はニヤニヤと笑い出した。

…そして…

「!!!!!?

や、やめろぉ!!!」

阿部は突如、さっき僕の腕から落ちたカバンの中をまさぐり始めた。

「オイオイ!じっとしてろよマーガリン!」

阿部の子分がオレを抑えつける。

…悔しいけど、力の弱いオレにはコイツらから逃れる能力はない。

ガサゴソ

ガサゴソ

阿部は、カバンからノートを取り出した。

「数学…理科…国語…。

オイ、マーガリンよ。

オレさ、

オマエから色んなノート借りててさ、

気付いたんだけどさ、

…この数学のノートだけ、

なんかやたらと型が古くない?

他のノートと種類違うっしょ?

今、こんなノート売って無いっしょ?

…なにか、ワケあるんじゃない?」

「ワ…ワケなんかないよ!

ノ、ノートをちゃんと戻してくれよ!」

「うるせえ!」


ドガッ!

阿部は僕の鼻を蹴り上げた。

「ふぐっ…」

「何ムキになってんだよ…マーガリンの分際でよ。

…まあいい。わかったよ。

とりあえず、このノートだけ種類が違うのには、なにかワケがあるんだよな?

それだけムキになるって事はさ?」

「…」

…言えない…

…母さんに貰った思い出の品だなんて…

…絶対に言えない…

…もしそんな事言ったら…

…阿部が面白がって、何をするか…

「オイ!何とか言えよ!」

「…」

オレは何も言わなかった。

…ただ、オレは阿部を睨みつけていた。

「…チッ…

オマエ、なんだ?反抗してんのか?その目は?」

阿部は不機嫌な顔でオレを見下ろす。

「…フン。

…まあいい。

オイ、お前らもう行くぞ!」

阿部は諦めたのか、そう言ってノートをカバンの中に収め始めた。

…僕は…

勝ったのか…?

阿部は…

オレが睨んだから…

諦めたのか?

子分がオレから手を離す。

オレはゆっくりと立ち上がる。

…その時だった。

阿部がニヤリと笑った。

そして、母さんからもらったノートに手をかけた。

「!!!?

や、やめろおおおお!!!」

ビリビリビリ!!!!



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