悲劇の仮面(4)

創作の怖い話 File.43



投稿者 ストレンジカメレオン 様





このドアを開ければ警視総監がいる。

まさか、警視庁を訪ねてみたもの総監直々に呼び出されるとは思ってもみなかった。

緊張感を抑え、ドアをノックした。

「コン コン」

「〇〇署の稲葉です!失礼します!」

「よく来てくれたね、稲葉君、君の話は部下から聞かせてもらったよ、

………… ……………………………突然だが私は君と君の仲間達にまず謝らなければならない…

本当にすまない…」

全く状況がつかめない……どうして総監が僕に謝るのだろうか…

「どういうことですか?何故私たちに謝る必要があるんですか!?総監!」

「仮面の事件の捜査打ち切りを命じたのは私なんだ…私は逃げたんだ…」

「総監が!?逃げたというのはどういう意味ですか!?」

「君は何十年も前に、警官同士が殺し合った事件を知っているか?」

その事件は僕がまだ生まれる前の事件だが、

警察の中では有名な事件の一つで研修でも取り上げられるほどだった。

「最後は警官一人が精神崩壊を起こして、行方不明になった事件ですよね!?知ってますとも」

「そう、あの事件に私も関わっていた。

世間では警察の倫理観の乱れが影響して事件が起きたことになっているが実はそうじゃないんだよ…」

「どういうことですか!?」

「実は君の知っている仮面が関わった事件なんだ!」

「………………」

僕は予想外の展開に言葉が詰まってしまった。

もう何十年も前から事件は続いていたということなのか…

しかし、事件は一旦は収まったはずだ、警官一人が行方不明になって以来、

そういう類の事件は起きてないと聞いている。

「総監、全てを教えてください!その当時、どんなことがあったのか?

何故、それを知りつつも捜査を打ち切ったのかを!」

「それを君に言うために私は君をここに呼んだんだ」

そして、総監は当時のことや今回の事件が起きてからのことを話し始めた。

「そういうことだったのですか……

つまり事件を収束するためには少なくとも必ず一人は犠牲になるということですね……

気持ちは分かりますがもっと早くそのことを伝えてもらいたかった…」

「本当にすまない……怖かったんだ…」

仮面の呪いは、関わり全てを知ったものには後遺症が残るほどの恐怖を与える…

僕もまたその被害者のうちの一人である。

実際に桜井先輩の殺害現場を見たときは地獄に来てしまったのではないかという錯覚に陥るほどだった…

総監は長期に渡り仮面と関わったに違いない、それほどの恐怖を感じるのも当然である。

「でもこうして伝えていただいたおかげで、この事件に決着がつけられそうです!

今回、鈴木さんの役は僕に任せてもらえますか?」

僕は恐怖よりも、それ以上に仮面への憎しみが強かった…

また桜井先輩が殺害されてから必ずこの事件を解決してやるという決意に意地を張っていたのかもしれない。

とりあえずあらゆる感情が衝動的に僕にそうするようにしていた…

「稲葉君の気持ちは分かった………ただ今回、その役を君に任すことは出来ない…」

「何故ですか!?」

「その役は私が務めなくてはならないからだ。

君の言葉を聞いていると私はいかに臆病者でちっぽけだったかってことを痛感するよ……

このまま君みたいな有能 な警官を犠牲にすることがあったら私はあの世で鈴木に合わせる顔がない、

その代わり君には大事な役がある、それは前回、私が務めた役だ!」

「総監……」

「そんな顔をするな、私はあの事件以来、一人だけ生き残ってしまった罪の意識に苛まれていた…

今回の件に関してもまた仮面から逃げようとした…でも君のおかげで決心がついた。

私はこれで少しその意識から解放されることが出来そうなんだ!」

僕は総監の言葉を否定してまでも、役を務めあげようとは思わなかった。

何故なら総監に似た想いを僕も抱えて決心したが、

総監の想いはそれ以上に重いものであると感じ取れたからだ。

「分かりました………一つ気になることがあるのですが…」

「それは事件の再発に関してだな。私もそのことに関して気になっていたんだ…

そこで今回は仮面を悪霊が抜けた状態になったら粉砕してほしい!そしたら悪霊は戻る場所をなくし、

仮面の呪いとなることはないだろう!…………そしたら私と共に悪霊を葬ってほしい…」

「そ、そんなこと!!」

「たのむ!!一番犠牲が少なくなる手段だ!あの時、私が仮面を壊しておかなかったことに原因がある!

私のミスで多くの犠牲を出してしまったんだ!後始末くらいさせてくれ…」

「…………分かりました…」

そして僕は総監に仮面を手渡した…

その夜

一見、なんの変哲もない住宅街に多くの警官が潜んだ…

午前1時45分

総監のいる部屋に置かれた監視カメラの映像に変化はまだ無い…

また異常な物音や気配がすることもない…

人間の心臓の鼓動の音だけが静かに耳に響く。

張り詰めた緊張の中、僕は息を殺し部屋の前でじっと待機していた。

午前1時55分

まだこれと言った異変はない……

時間がすすむにつれ、緊張を極限へと高まっていく。失敗は一度も許されない。

人の命を賭けて遂行する任務である……その重みは計り知れない…

時計が午前2時を過ぎようとする頃、

「ガタ、」

小さな物音が聞こえた…

そしてまた静かになる。

(気のせいか…………)

「警部!!!総監が起きてます!!」

心臓が破裂しそうなのを抑え、すぐに部屋のドアを開けた。

そこには僕たちを迎えるかのように仮面の男が立っていた。

異様な空間にいる錯覚に陥る…

「と、取り押さえろ!!!!」

一斉に周りの警官が飛びかかった。

そして僕は震える手で仮面に手を伸ばす。

(この仮面を壊せば、全てが……)

そして総監から仮面をはぎ取ると、僕は仮面を叩き壊した。

と同時に激しい抵抗を見せていた総監も気絶した…

仮面と共にその生涯を終えたように…

その後、

総監は病院に運ばれたがそれから意識が戻ることは無かった。

また仮面も壊れた状態のまま、以前のように形をもどすことは無くなった。

それから仮面に関する事件は無くなり、仮面事件は完全解決となった。

多くの犠牲と共に…

僕はこの事件から多くのことを勉強したと思う。

警官として何が出来るか、どうすれば犠牲を出さずにすむのか、

この事件を僕の中で忘れてはいけない経験の一つとして、

これから起こる事件に生かしていくことが、僕に出来る警官としての任務だろう。

その後、稲葉は多くの事件で成果を挙げ、警視総監となり、日本の平和にこれ以上ない貢献をすることになる。

悲劇の仮面 捜査編 最終部 終

「ワタシノ………………ワタシノ……カメンハドコダ!!…………………………………………

コノカメンデモイイカ…………ヒヒヒヒヒヒ」



★→この怖い話を評価する



[怖い話]


[創作の怖い話]