ダーツ

創作の怖い話 File.32



投稿者 ストレンジカメレオン 様





オレの趣味の一つにダーツがある。

円形の的に点数が表示され、それにめがけてダーツを投げる。刺さった場所に表示された得点がもらえる訳だ。

点数が二倍、三倍になる場所もあり、狙った場所が少しずれただけで大きな失点につながることも多い………

1ラウンドに三回投げるわけだが、ある特定な条件を満たすことにより簡単な称号があったりする。

例えば1ラウンドで101点以上で「LOWTON」という称号がある。

三回連続でBULL(円の真ん中の点数ゾーン、25点もらえる。

より真ん中のゾーンはINBULLといって50点もらえる。)で、「HATTRICK」。

三回連続でINBULLなら、「3 IN THE BLACK」。

こんな感じである。

他にもルールやゲームの種類もたくさんあるわけだがそれを書いてたら、きりがないので省略します。

行きつけのダーツバーが今日は休みということもあり、

他の行ったことがないダーツバーに探して行くことにした。

良い対戦相手やダーツ情報を教えてくれる店員の方に出会えたら良いなと思いつつ、

都心のダーツバーを探した。

「よし!ここにするか!」

店の外観は少しさびれた感じではあったが、

ダーツをやるなら静かな雰囲気でやりたいという気持ちがあったのでここの店を選んだ。

………………この店で世にも恐ろしいイベントが待っていることを知らずに………………………

入り口のドアを開けると地下への階段が現れた。

一歩階段を降りるたびに「ギシィ、ギシィ」と鈍い音をたてる。

「結構前からこの店やってたのかな?意外と良い店なのかもな!」

そんなことを思いつつ店に入っていった…………

中に入ると店の外観からは想像出来ないほど中は広かった。

雰囲気も良い感じで、相手の顔がうっすらと見えるくらいの照明がいかにも、と言う雰囲気を演出していた……

薄暗いの店のなかにダーツの的だけが点々と光っていた。

(おぉ!良い感じかも!けど店の人がいないな……)

「すいませーん!!ダーツしに来たんですけど!」

……………奥からゆっくりと店主らしき人が出てきた…

「お客さん、ダーツかい?会員証をだしな」

店主は無精ひげを生やし、大体年齢は三十代後半から四十代前半と言ったところだろうか……………………

薄暗い照明のせいか店主の表情は不気味に見え、雰囲気も異様なものを漂わせていた……

「か、会員証ですか!?あの、オレ今日この店初めてなんですけど…」

「そうか、残念だが、うちは会員制だからな、今日は帰りな!」

「帰りな、って!!せっかく来たんだからダーツさせてくださいよ!!会員になりますから!」

「ちっ!しょうがねえな!会員にならなくていいから勝手にやっていきな!!

これが伝票だ!帰るときに持ってきな!」

伝票を渡した店主はまた奥へと戻っていった…

(なんか、たちの悪い店主だな!あんな言い方しなくてもいいのにな!!)

「まあ苛ついてても、しょうがないか…せっかくダーツしに来たんだし楽しもう!」

店内を見渡すと先客が一人だけいるのに気づく。

(………ひとりでダーツするのもなんだし話しかけてみるか!)

「あの……良ければ一緒にダーツしませんか?この店初めてなんでいろいろ教えてほしいんで……」

「全然良いですよ!!でも実は僕もこの店初めてなんですよ!さっき店の方に怒鳴られてましたよね!?

僕もかなり怒鳴られたんですけど、しつこくお願いしたらなんとかダーツさせてもらえました!」

二十代前半くらいだろうか、とても明るく、さっきの店主とはうって変わって近寄りやすい良い雰囲気であった。

「そうなんですか!!オレ、Aって言います!よろしくお願いします!

じゃ今日は店主のことは忘れてダーツ楽しみましょう!」

「はい!僕はIって言います。今日はよろしくです!Aさん!」

簡単な自己紹介を済ませたオレたちは時間を忘れてダーツを楽しんだ。

ふと周囲を見回すと、さっきまで店にいたのは、オレたち二人だけだったのに、いつの間にかに客の数が増え、

店全体が賑やかな雰囲気になってきていた。

「Iさん!意外とこの店人気あるんですね!あんな店主なのに!」

「そうですね!意外でしたね!」

しかし、一見賑やかに見えた店内だったがよくよく周りの客を見ると、ものものしい雰囲気であった……

ぶつぶつ念仏のようなものを唱えながらダーツを投げる客………

異常な笑い声をあげながらダーツを投げる客………

ダーツとは思えないような勢いで的にダーツを投げつける客…………

どれも他の店では見たことのない雰囲気の客ばかりであった…………

「Iさん、この店に来てる他のお客さん、なんか変じゃないですか?ちょっと変わってるって言うか……………」

「そうかい!?まあそんなこと気にしないでもうちょっとダーツ楽しみましょう!!」

Iさんは他の客の異常な雰囲気は全く気にしていない様子だった。

そしてオレたちはそのままダーツを続けた。

「ジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラジャラ………」

急にこれでもかと言うほどの大音量でBGMが流れ出す。

周囲の雰囲気も一変し、その異様さは増していた…

奥からさっきの店主が出てきた。

「さあ!本日のメインイベントの時間だ!参加客、見物客はこの垂れ幕をくぐって奥の部屋へ行きな!!」

勢いよく店主が言う。

そしてぞろぞろと他の客たちが吸い込まれるかのように垂れ幕の向こうへと入っていった…

「Aさん!Aさん!なんだか面白そうじゃないですか!?僕達も行ってみませんか?」

「そ…そうですね!行ってみますか!」

実はオレはあまり乗り気ではなかった。他の客たちの異様さは尋常ではなく嫌な予感がしていた。

垂れ幕をくぐると、部屋の中央にダーツの台らしいものが一台だけ置いてあった。

しかしその台には得点板になるはずの的がなく、ただ壁のように台は立っているだけであった。

「さあさあ参加客はイベント専用のダーツを貸し出すから、ここに並びな!!

いつも通り参加は自由だ!ただしキャンセルは出来ないからな!」

「Aさん!面白そうじゃないですか!参加してみません!?」

「オ、オレはいいです、遠慮しときます。今日はどんなイベントが見てるんで!」

「じゃ僕ひとりで参加してきますね!!応援してくださいよ!」

「はい!頑張ってください!!」

そう言ってIさんは参加客の列へと並びに行った。

「参加しないお客さんはここが見物席になってるから、ここから先は入って来ないように!!」

そうしてオレは見物席のような場所に誘導され、参加客と見物客とで隔離された。

(そんなには近くで見れないんだな……Iさんはどこだろ……?)

参加客が中央の台の前に並び始めた。

(あっ!Iさんだ!!)

Iさんも台の前に並び始めている。

しかし何かおかしい……。さっきまで意気揚々としていたはずのIさんが元気がなさそうに俯いたままだった。

「ヒィッ、ヒィッ、ヒィッ、離せ!!止めてくれ!!離せ!!頼むから止めてくれ!!ヒィッ!ヒィッ!」

後ろのほうから異常な叫び声が聞こえる……

「止めてくれ!!死にたくない!!助けてくれよ!!」

オレは背筋が凍った……

上半身裸の男が後ろのほうから体格のいい男四人につかまれ中央の台へと運ばれてきた…………

なおも上半身裸の男はあがき続ける………

「離せ!!ヒィ!!ヒィッ!!!」 男はかなり過呼吸状態になっている…

男の抵抗も虚しく、男は台に体を縛られていく………………

そして両手、両足を縛られ、大の字に台へとくくりつけられた……

男は諦めたのか、ただ「ヒィッ!ヒィッ!」と過呼吸するだけであった…

(なんなんだ………………このイベントは…………まさか……………ダーツで………………………)

嫌な予感がオレの頭を通り過ぎる……

参加客の一人が台の前に立ち、男にダーツを向け、構える……

構えた瞬間、周りの雰囲気も一変する。

「おら!早く投げろ!!」

「最初はどこから狙うんだ!?ヘヘ!」

「足から行け!!足から行け!!ハハハ」

悪魔のような歓声が部屋を飛び交う………まるで本当に別世界に来てしまったようだった……………

周囲の客の狂信的な目……常人が出せるような目力ではない………………………

…………まるで獣…………いや悪魔と言ってもいいほどの目つきであった…………

一人目の参加者がダーツを男めがけて投げた!

「ぐっ!!…………………うぅ…」

上半身裸の男は悲痛な声をあげる…

ダーツは男の掌に突き刺さった!

掌から血がポタポタと垂れ落ちている……

二投目、ダーツは今度は反対側の腕の掌に突き刺さった……

「っうぅ………痛い痛い!!もう止めて……くれ!」

三投目、ダーツは太ももに突き刺さった…………

これで一人目が終わり、次は二人目の参加者が台の前に立つ。

同じように掌、足に狙いをつけダーツを投げる…

一回刺さった場所にもう一度刺される痛みは激しいらしく、

二度目に同じ場所に刺さった時の男の苦しみ方はより一層残酷感を増していた………

三人目も同じように掌、足を狙いダーツを投げた………

上半身裸の男は目 鼻 口から液体を出し苦しみ続けている………………

手と足から血がタラタラ流れ出ている……

まさに地獄絵図だ……

……そして四人目、Iさんの順番になった…………

ここからでも分かる…Iさんは俯きながら全身が震えている………俯いたままダーツを構えようとしない………

「おらおら早く投げろ!!」

「びびってんのか!?ハハハ!!」

「おもいっきり刺してみろ!お前が的になるのか!!?ヘヘヘヘ!」

周囲から心無い罵声が飛び交う……

だがIさんは俯いたままであった……

するとさっきの上半身裸の男を運んで来た体格のいい男達がIさんの所へ来て、

Iさんをさらに奥の部屋へと運んでいった………

「ヘヘッ!!次はあの兄ちゃんが的だな!」

隣の見物客が言った。

「それ本当なんですか!!??」

すぐにオレは聞き返した。

「ヘヘッ!当たり前だろ!このゲームは敗者が次の的になるんだからな!

あんたも初めての客かい?さっきの兄ちゃん助けたかったら、

あんたが代わりに参加して勝てば誰も文句は言わねえぞ!

ヘヘッヘヘッ!まあその勇気があったらの話だけどな!」

……………………………どうするべきか…………

ここでオレが代わりに参加しなければIさんは確実に次の的にされ、

地獄を味わいながら死んでいくことになるだろう………………………

かと言ってオレもダーツを使って人を刺すなど残酷なことはしたくない…………

実際あの場に立ってそんな残酷なことが出来るかも分からない…………………………

また参加したからといって勝つ保証なんてどこにもない…………………………

負けてしまったらIさんと一緒に的になり地獄を味わうことになるだろう

…………………………………一体オレはどうすれば!?

五人目の参加者が台の前へ立った。


「ちょっと待ってください!!……………………オレ、さっきの人の代わりに投げます!!」

部屋中がいやらしい笑い声に包まれる。

「ヒヒヒ!!ヒヒヒ!」

「グフフ!!グフフ!」

「ヘヘッヘヘッ!」

この地獄のような空間の中、オレは台の前に立った…………

ダーツを持ったオレの手は小刻みに震えている……………

しかもこの人間ダーツのルールは残酷である。

まず首から下を狙わなければいけない…………

的となる人間が死なないように心臓と首は最初は狙ってはいけない………………

ある条件を満たさない状態で首、心臓にダーツを刺すとその時点で負けとなる…………………

ある条件とは誰かが首、心臓以外の場所にダーツを刺す………定石が掌になってるらしい……

その刺した場所と同じ場所にダーツを刺す……………

刺した場所から半径2センチ以内なら同じ場所とされる……………

全ての参加者が刺したのを合わせて、ちょうど五回目に刺した参加者が1ポイント…………

3ポイント取れば条件を満たしたことになる…………

条件を満たした後、心臓、首にダーツが刺さればそこで勝ちが決定する………

首から上であれば目だろうが鼻だろうが口の中だろうが刺されば勝ちとなる……………

最後まであがれなかった参加者が敗者となる…………………………………

まさに的となる人間が苦しみぬくための地獄のルールであった………

オレの手の震えは止まらない……だがなんとか少しずつダーツを構える………

オレの目が上半身裸の男と目が合った。

なにかを怯え、またなにかを訴えているような目で、瞬間的にしか男と目を合わすことが出来なかった………………

(無心だ!無心になれ!!心を捨てろ!!)

オレは必死に心の中で自分に言い聞かせた…

俺は男の掌めがけてダーツを投げた!

「うぅ!!!…………」

ダーツが男の掌に命中した…………………

…………ダーツで人を刺す鈍い感覚に襲われる………

恐怖、緊張、罪悪感、悲哀、…………………さまざまな感情がオレの中で生まれていた…………

残酷にもゲームをキャンセルすることは出来ない……

……………混乱状態の中、ゲームは進んだ………………

悪運に恵まれオレは一番最初に3ポイント取った…………………

上半身裸の男はもう痙攣状態で意識があるのかどうかも分からない………………

……ただ体中に小さな穴を開けられ血を流しているだけだった…………

オレは首か心臓を狙わなければいけない…一番残酷な場所であり投げたくない場所だった…………………

目を閉じ、恐怖をこらえ相手の顔めがけてダーツを投げた。

「ブュシュ!!」

今までにない鈍い音と気味の悪い感覚がオレの全身を包んだ……………

…………ダーツは男の目に突き刺さっていた……

こうしてオレは敗者にならずにすんだ…………しかし殺人鬼の仲間入りとなってしまった…………

店主がオレに近づき

「ほら!お前の会員証だ!!」

と言って会員証を手渡した…………

一人店を出たオレはすでにIさんのことなど忘れていた…………

ただただ体の震えが止まらない…

この震えは

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………………………………………………………………………武者震い

明日からオレはこの店に通い詰めるだろう……………………………ヒヒヒッヒヒヒッヒヒヒッ




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