奇妙な1週間(15)

創作の怖い話 File.270



投稿者 でび一星人 様





「さて、次はアナタですよ。里美さん。」

「・・・はい。」

デビロに呼ばれ、吉田里美がゲートに歩み寄る。

「里美さん。

アナタは問題なく、天国に行けます。


さ、この映像をご覧下さい・・・。

アナタのご両親や、かつてアナタの亭主だった人は、アナタを忘れてなんて居ませんよ。

ちゃんと墓参りをし、ずっとアナタを想ってくれているのです。」

モニターの映像には、里美の両親、そして元亭主だった男が、里美の墓参りをしている姿が映っていた。

「ヨシちゃん・・・。」

里美はその映像を悲しげな目で見つめた。

「・・・ヨシちゃん・・・早く、新しい人をみつけて幸せになったら良いのに・・・。」

そんな里美に、デビロは、

「里美さん・・・。時間って不思議ですね。

色んな傷を拭い去ってくれます。

きっと、

アナタを引きずっているこの男の人も、

いつかはアナタを忘れ、新たな幸せを見つける事でしょう・・・。」

と静かに言った。

「そう・・・ね。早く私の事なんて忘れて、幸せになってね・・・ヨシちゃん。」

里美は悲しそうにそう呟くと、皆の方を向いて、

「・・・本当に、この数日間、ありがとうございました。」

と礼を言い、ゲートをくぐって天国へと旅立っていった。



 「お次は・・・下山さん。どうぞ。」

「フン。」

下山静香はツンツンしながらゲートの方に歩み寄る。

「下山さん・・・アナタもかろうじて天国に行けます。

良かったですねぇ。

ささ、アナタの事を現世で想ってくれてる人がいますよ。」

デビロはモニターを指さす。


モニターには、中年男性が映っていた。

下山はピクリと反応したが、平静を装い、腕を組んだままそれを見つめていた。

そんな下山に、デビロが言う。

「・・・アナタの同僚だった男の人のようですね・・・。

彼、アナタの事をかなり大切に想っていてくれたみたいですよ・・・。

まぁ・・・アナタには・・・届かなかったようですが・・・。」

「フ、フン。

何よ・・・。

こんなくだらない奴しか、私を心配してくれて無いワケ?

あーぁ、ほんっと、つまらない人生だったわね!」

下山はそう言い捨てると、皆の方を見もせずにゲートをくぐっていった。

「な、なんて薄情な人なんだろう・・・。」

狩羽とじろ吉は、そんな下山を見ながら訝しげな顔をしていた。

「・・・いえ、皆さん。彼女、そんな薄情な人間では無いかもしれませんよ・・・。

だって、皆さんの方を振り向かなかったのは、おそらく涙を見られない為でしょうから・・・。」

デビロのその言葉を聞き、

残った若造三人は悲しい気持ちになった。


「さ、次はじろ吉さん。

アナタです。」


「お・・・おれか・・・。」

じろ吉は怖くなった。

おそらく自分が行く場所は地獄。

なぜなら人を殺しているから・・・。

ドキドキ・・・


高鳴る鼓動。

「じろ吉さん・・




アナタは・・・











天国です。

おめでとう。」


「ヘ・・・へ?」

じろ吉はきょとんとした顔をした。


「アナタの犯した殺人は、正当防衛です。

それが立証されました。

よって、アナタは天国です。」


「そ・・・そうなのか!?お・・おれ、



天国にいけるんだ!


や、やったぁ!!!」


じろ吉は拳を突き上げた。


「・・・ぁ・・・。」

そして、狩羽の顔を見た瞬間、そのこぶしをゆっくりと下ろした。

狩羽は少し寂しげな顔をして、

「おめでとう、じろ吉。」

と、手を叩いた。


「健治・・・。」


じろ吉も、狩羽の顔を見て、なんとも言えない気持ちになった。

おそらく彼は、地獄行きだから・・・。

「さ、じろ吉さん。

アナタを現世で想ってくれている人の映像ですよ。」


モニターを見ると、じろ吉の同級生だった男子が映っていた。

「ぁ・・・にっちゃん・・・。」

そんなじろきちにデビロは、

「アナタの想いは、きちんと彼に届いたようですね・・・。
良かったですねぇ・・・。

さ、どうぞ。

次の人生にお進み下さい。」

「・・・うん・・・ありがとう。デビロさん・・・それに・・・皆。」

じろ吉はデビロと、残った二人に礼をすると、天国へと旅立って行った。


 ドキドキ・・・


ドキドキ・・・




狩羽の鼓動がだんだんと大きくなる。


地獄・・・

 
  地獄・・・


 地獄・・・



地獄のゲートが、ぽっかりと口を開けている。

数分後には、


自分もあそこに・・・


全身から汗が噴出した。



「・・・さぁ、次は雪村桜さんです。」

デビロに呼ばれ、桜は狩羽の手を包み込むように握り、声をかける。

「・・・狩羽さん・・・。

私から、こんな事を言うのはおかしいのかもしれないけど・・・。

受け入れた道なんだから、がんばって。

生まれ変わったら、

また逢えたら良いね。」

桜は狩羽の目を見つめてそう言った。

「あ・・あぁ。」

狩羽は下むき加減で、そう返した。

少し、地獄への恐怖が和らいだような気がした。

「・・・桜さん、アナタは特に問題ない。

天国です。

さ、そのゲートをくぐる前に、この映像をごらん下さい。」

 映像には、桜の両親と兄が映っていた。

「あぁ・・・お父さん・・・お兄ちゃん・・・。」

「良い・・・ご家族ですね・・・。

アナタの事を、今でも大切に想ってくれているようです。

お兄さんは、お坊さんになられたようですね・・・。

アナタの為に、毎日お経を唱えてくれているようですよ・・・。」

「お兄ちゃん・・・。

あ、あの・・デビロさん。」

「何ですか?」

「・・・あの・・・村井 和弘っていう人が・・・その後どうなったのか見せてもらいたいのですが・・・
わかりますか・・・? 私が、死ぬ少し前に、好きだった人なんです・・・。」

「・・・ええ。構いませんよ。どうぞ。」

デビロはモニターについているダイヤルを数度回した。

すると、モニターには村井和弘と、その奥さん、そして息子であろう赤ちゃんの幸せそうな姿が映し出された。

「ぁ・・村井君・・・結婚したんだ・・・。」

桜は少し寂しそうに呟いた。

「・・・桜さん・・・。

時間は癒しでもあり、残酷でもありますね・・・。

彼はアナタを吹っ切ったようです。

今は、新たな幸せを見つけたようですね。」

「そ・・・そうみたいですね・・・アハ・・私、なんでこんなの見ちゃったんだろ・・・。」

桜は額に手をやり、必死に笑っていた。


「・・・さぁ、桜さん。

どうぞ。ゲートをおくぐり下さい。

次の人生では、もっと幸せになれたら良いですね。」

「・・・ええ。そうですね・・・本当に・・・。

どうもありがとうございました。」


桜はペコリと頭を下げた。

そして狩羽の方を向き、

「ありがとう。」

と、寂しく手を振った。


そんな桜の姿を見て、狩羽も声をかけようとしたが、うまく声が出て来なかった。


桜の姿は、ゆっくりと天国へのゲートの中に吸い込まれていった。




「・・・さぁ。とうとう最後になってしまいましたね。狩羽さん。」

ドキドキドキドキ・・・。


また、狩羽の鼓動が大きくなった。


「・・狩羽さん、どうぞこちらに・・・。」

「・・はい・・・。」

ゆっくりと、デビロの方へ歩み寄る狩羽。

足は震えている。


「狩羽さん・・・アナタの行き先ですが・・・
















・・・地獄です。」

狩羽の頭の中が真っ白になった。


解っていた。


自分があれだけの事をしたのだから・・・。


仕方が無い・・・。


だが、現実に地獄を突きつけられたこの瞬間。


もしかしたら・・・と思っていたものが、100%になったこの瞬間。


まさに絶望。


狩羽の足は固まり、その場で立ち止まってしまった。

「・・・狩羽さん・・・。

アナタはそれなりの事をしたのです・・・。


これは仕方の無い事・・・。

受け入れてください・・・。」

「え・・・ええ。わ・・・解っています・・・。」

狩羽は必死に歩みを進めた。

地獄の口が、だんだんと大きく見えてくる。

ヨロヨロとした狩羽に近づき、デビロは肩を貸した。

「・・・さ、私の肩に捕まって下さい。

無理もありません。

相当な恐怖でしょう。」


「あ・・ありがとうございます。」

狩羽はデビロに捕まった。




そして地獄へのゲートに、

一歩・・・


  また一歩と近づく・・・。

怖い・・・



 怖い



嫌だ


 行きたくない・・・。



でも、



  行かなきゃ・・・。



でも怖い・・・。



 できることなら、引き返したい・・・。



狩羽の心はかなり動揺していた。




「デ・・・デビロさん。

も、もう大丈夫。

一人で行けます。」

狩羽は覚悟を決めた。


震えながらも、力強く、

デビロにそう言って、肩から手を離した。


そんな狩羽の姿を見て、デビロもいたたまれない気持ちになった。



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