奇妙な1週間(12)

創作の怖い話 File.267



投稿者 でび一星人 様





「雨・・・止みましたね・・・。」
吉田里美が掌を軽く空に向けながら言った。
(いよいよ最後か・・・。)
席に座った狩羽健治は震えが止まらなかった。
おそらく自分が地獄行き。
自ら進んだ道だったが、やはり間近にそれが迫った恐怖というのは並大抵の物では無かった。
 そんな狩羽の手を、隣に座る雪村桜が、皆に気づかれないようにそっと握った。
「・・・桜ちゃん・・・。」
不思議と、狩羽の震えが収まった。

「・・・さぁ。それでは始めますか。」

星空・・・とまではいかないが、ところどころ雲の隙間から月明かりが差し込む夜空を見上げ、
司会役のデビロがそう切り出した。

最長老の百瀬が「よいしょ。」と椅子に座りなおし、ゆっくりと語り始める・・・。

「・・・このお話は、とある親子のお話なんだけどね・・・。」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

  【誕生日】

その日は、小学2年生になる裕史君の誕生日でした。
食卓には大きなケーキ。
裕史君はちょこんとテーブルの前に座っています。
「おかあさ〜ん、まだぁ?」
裕史君は台所で準備をしているお母さんに催促をします。
「フフフ。裕史はせっかちねぇ。もうちょっと待ってね。」
「はぁ〜い。」

裕史君は椅子の上で、足をバタバタさせながら待っています。
ケーキを早く食べたくて食べたくて仕方ありません。
(ちょっとつまみぐいしてやろうかな・・・。)
そんな事を思い、裕史君がケーキ上に乗っているいちごに手を伸ばした時でした。
「あっ・・・。」
裕史君はバランスを崩してしまい、まっ逆さまに椅子から落ちてしまいました・・・。

ガシッ!
「何やってるの!裕史!」



裕史君の目の前に、お母さんの顔がありました。

「おかあさん・・・。」
丁度タイミング良くテーブルに戻ってきたお母さんは、裕史君が地面に落ちる前に受け止めたのでした。

「ごめんなさい、おかあさん。」
「もう。裕史は変におっちょこちょいなんだから。フフフ・・・。」

裕史君はお母さんに抱えあげられ、また椅子の上に座ります。
お母さんも裕史君の向かいに座り、いよいよ二人だけの誕生日パーティーがスタートします。
「・・お父さんも、一緒に出来たらよかったのにね・・・。」
裕史君は寂しそうに、棚に置いてあるお父さんの写真を見つめ、そう言いました。
「・・・そうね。」
お母さんも悲しげに、写真を見つめそう言いました。
「・・・さ、裕史。せっかくの誕生日なんだから、笑って迎えよう。」
お母さんはニコっと笑い、ケーキに立てたロウソクに火を灯しました。
「・・・うん。」
裕史君も笑顔を作り、火を灯すお母さんの手を見つめていました。

「・・・さ、裕史歌おう。」

八本のロウソク全部に火をつけたお母さんは、裕史君に優しくそう言いました。
「・・・お母さん・・・電気・・・。」

「・・・ん?あ、ゴメンゴメン。消さなきゃね(笑)」

お母さんは立ち上がり、部屋の電気の紐を引きました。

カチカチッ・・・。

部屋の明かりは、ぼんやりとしたロウソクの光だけとなりました。

「・・・さ、裕史歌おう。」
「うんっ!」

「ハッピバ〜スデェ〜トゥ〜ユ〜・・・」

母と子の歌声が、この小さな食卓に流れています。

母と子は、とても楽しそうな笑顔でいっぱいでした。

そして歌が終わります。

「・・・さ、裕史、火を吹き消して。」

おかあさんは笑顔で裕史君に言いました。

「うん!」

裕史君が火を吹き消そうとした、その時でした。

ヒュゥゥゥゥゥ・・・



どこからともなく、生暖かい風が部屋に吹き込んで来ました。


「・・あっ・・・。」

その風で、ケーキに立てられたロウソクの火は全て消えてしまいました。


「・・・。」

うつむく裕史君。

「・・・あ、窓・・・開いてたね・・・。ゴメンネ裕史。」

お母さんは部屋の電気を点け、窓を閉めに行きました。
(変ね・・・窓閉めたと思ってたんだけど・・・。)
おかあさんはそう思いながらも窓を閉め、鍵をかけました。

そしてロウソクにまた火を灯し、部屋の明かりを消すと、

「・・・さ、裕史。仕切り直しましょう。」

と言って、また裕史君の向かいに座りました。

「じゃ、裕史、火を吹き消して。」

おかあさんは裕史君の顔をやさしく見つめています。」

「うんっ!」

裕史君が火を吹き消そうとしたその時でした。

「・・・あ。」

裕史君は棚の方を見ています。

「どうしたの?裕史。」

「・・・アレ。」

裕史君は棚を指さしました。

「・・・ん?」

お母さんが棚の方を見ると、棚の上に立てかけられていたお父さんの写真が倒れていました。

「・・・あら・・・。さっきの風で倒れちゃったのかな。」

お母さんは立ち上がり、棚の写真をきちんと立て直すとまた裕史君の向かいに座り直しました。

「・・・なんか、雰囲気壊れちゃったね・・・ゴメンね裕史。」

「うううん。そんな事ないよ!」

裕史君はなんだか申し訳なさそうなお母さんを気遣い、精一杯の笑顔でそう言いました。

「・・・ありがと、裕史・・・さ!じゃあ、火消そっか!」
「うん!」

裕史君が三度火を吹き消そうとしたその時でした。

コトコト・・・




   コトコトコト・・・









 コトコト・・・





なにやら音が聞こえてきます。

「・・・何かしら・・・この音・・・。」


お母さんは不安げな顔をしています。




コトコト・・・






 「・・・なんか、玄関の方から聞こえてくるね、おかあさん。」

裕史君も音が気になる様子です。

「・・・見に、行ってみようか。」


お母さんはそっと立ち上がりました。

「僕も行くよ。」

裕史君も一緒に立ち上がりました。




コトコト・・・






   カタカタ・・・



   コトコトコト・・・




依然として、音は玄関の方から聞こえてきます。

不安げな顔の裕史君とおかあさん。










 

 裕史君とお母さんが、玄関の前に立った時でした。












 ガチャリ・・・。









 「・・・えっ・・・。」



突然、玄関の鍵がひとりでに開きました。



・・・ゆっくりとドアノブが回ります。


「・・裕史!こっち!」


なにやら危険を察知したお母さんは裕史君の手を引き、とっさにトイレの中に隠れました。





 ゴソゴソ・・・




   ズ・・


ズルズル・・・




 ズルズル・・・



玄関から何かを引きずる音が聞こえてきます。

ズルズル・・・



   ズルズル・・・



その音は裕史君とお母さんが隠れるトイレの前を横切っていきます。



ズルズル・・・。



裕史君は、トイレのドアの下の方にある通気口から見てしまいました。


何か白くて大きなものが、さっきまで裕史君とおかあさんが居た部屋に向かって引きずられて行くのを・・・。

おかあさんは震えています。

裕史君はそんなおかあさんの手を握り締めていました。


強く・・・強く・・・。




 「・・・火ガ・・・ツイテ・・・ル・・・。」



台所に入ったであろうその何者かの声が聞こえてきました。

おかあさんの手が汗でびっしょりになっているのがわかります。


裕史君は小さな声でお母さんに言いました。

(・・・僕、様子を見てくるよ。)


お母さんは首を振り、


(ダメよ!危ない!)

と、裕史君の耳元で言います。


(でも、泥棒だったら大変だよ・・・。)

裕史君は震えるおかあさんに言います。


そんな裕史君の目を見て、おかあさんも意を決しました。

(・・・そうね。行きましょう。)


おかあさんと裕史君は近くにある武器になりそうなものを手にとり、

ゆっくりとさっきまで居た部屋に向かって歩き出しました。

ゴソゴソ・・・







    ゴソゴソ・・・



「ド・・コダ・・・ドコダ・・・。」



その何者かは、何かを探しているようでした・・・。




ゴソゴソ・・・



 ゴソゴソ・・・



部屋からは物音が聞こえてきます。




ゴクリ。



おかあさんは、唾を飲み込むと、部屋のドアノブに手をかけました。


・・・



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