奇妙な1週間(11)

創作の怖い話 File.266



投稿者 でび一星人 様





ザッ・・・ザッ・・・



「お〜い!こっち、もうちょっと土もってきてくれ〜!」

「あいよ〜!」



 【怪談の会】最終夜に備え、数人のグラウンドキーパーがトンボ片手に整備を行っている。

最後の1話は外で行う事になったからだ。


本当は昨日に行われるはずだった。


だが、昨夜はひどい大雨の為、延期となったのだ。

 今宵は雨も降らっておらず、問題なく怪談の会が行われる。

・・・誰もがそう思っていた。


しかし、現実はそう甘いものではなかった。

この土地は水はけが悪く、雨が上がって数時間経った今でも、まだ地面がグジュグジュだった。


「・・・まだかなぁ・・・整備終わるの・・・。」

早乙女じろ吉が窓にもたれかかり、グランドを見ながら言った。


「う〜ん・・・なかなかてこずりそうですねぇ・・・。」


デビロがじろ吉の隣にやってきてそう言った。


「・・あぁ、デビロさん・・・。 もう室内で最終夜やっちゃえば良いんじゃないっすか?」

「・・・いえ。それは出来ません・・・。」

「・・・なんで?最後の1話だけ外でやらなきゃいけない理由があるんですか?」

「・・・ええ。」

「納得いかないですよ。理由を教えてください!」

「・・理由ですか・・・。」

「はい。納得行く理由をお願いしますよ!」

「・・・けっこう、経費かかちゃったんですよ・・・あのグラウンドキーパー雇うのに・・・。」

「・・・じ・・・人件費っすか・・・。」

「・・・うん・・・ゴメン・・・。」

「・・・いえ・・・聞いてゴメン・・・。」


じろ吉は、あんまり打たない新外国人選手を、前半はずっと使い続けるプロ野球監督の姿をデビロに重ねていた・・・。





皆が部屋の窓からグラウンドを見もって談笑等を嗜んでいるとき、

狩羽健治は一人、屋上に居た。


屋上から空を眺めていた。



「・・・キレイな空だ・・・。」


屋上で仰向けになり眺める空は、

死ぬ少し前に見上げた夜空を彷彿させた。


狩羽はゴロンと仰向けになった。


そして目を瞑る。



 あと1日。


あと1日でこの会も終わる。




そうしたら・・・




きっと自分は地獄行き・・・。




 明日にも自分は地獄に行くと考えると、やっぱり少し怖くなった。


・・・でも、自分で出した答え。


これで良いのだ・・・これで・・・。


受け入れよう。




 狩羽はそんな事を考えながら、目を開けた。



「・・・ん?」


目の前に女の子の顔が・・・雪村桜の顔があった。


「桜ちゃん。・・・よいしょっと・・・。」


狩羽は起き上がった。


「ど、どうも。」

桜はペコリとおじぎをした。

「どうしたの?皆、部屋で談笑してるんだろ?」

狩羽が聞くと桜は、

「・・・ええ。そうなんですけど・・・狩羽さんは皆と一緒に過ごさないんですか?」

と心配そうな顔をした。


「ハハ・・・心配してくれてるんだ桜ちゃん。 サンキュー。」

狩羽は笑って見せた。

内心は【地獄】の恐怖でいっぱいだった。

だが、余計な心配を周りに与えたくは無い。

だから狩羽は平静を装った。



「・・・狩羽さん・・。」

桜はそんな狩羽の目をじっと見つめながら言った。

「・・ん?」

「狩羽さんは・・・あの日、ワザと怖くない話をした・・・のではないですか?」

「え・・・な、なんでそんな事を・・・。」

「なんとなくです。どうなんですか?」


桜にじっと目を見つめられてそう言われると、狩羽も変にはぐらかしてはいけない気がした。

「・・・ハハ・・・まいったな。・・・図星だよ。桜ちゃん。よくわかったね。」

「一体・・・なんでそんな事をしたんですか・・・?」

「なんでそんな事を・・・か。

少し長くなるかもしれないけど、聞くかい?」

「はい。」


桜は狩羽の隣にゆっくりと腰を降ろした。

狩羽は少しドキっとした。


「・・・実はね、僕さ・・・あの話をした前日に、

自分が死んだ日の事を思い出したんだよ。」


「・・・自分が死んだ日?」

「うん・・・僕は・・・人を殺している・・・。」

「・・・え?」

「それも、一人や二人じゃ無い・・・何人も何人も・・・殺して食べた。」

「・・・なんでそんな事を・・・。」

「わからないよ・・・。あの時はきっと、どうかしていたんだ。

・・・だからね、僕は決めたんだ。

これだけ人を殺したんだから、きっと間違いなく僕は地獄行きだろう・・・って。

・・・だからさ。

どうせ地獄に行く人間なんだからさ・・・。

僕が最下位になったとしても、

元のままだろう?

・・・そう思ったのさ。」

狩羽は少し寂しそうな目をして笑った。

「狩羽さん・・・。で、でも、じろ吉さんみたいに、『1位を狙って、地獄行きを逃れよう』とは考えなかったんですか?」

「ハハ・・・たしかに・・・そういう考え方もあるんだろうねぇ・・・。

でも、僕はやっぱりさ、

自分が犯した罪から逃げちゃいけないと思うんだ。

・・・だから・・・

受けるべき刑は受けるよ・・・怖いけど・・・。」

狩羽は震えていた。

「そうですか・・・。

狩羽さん・・・スイマセン。こんな事聞いちゃって・・・。」


「ハハ・・・。いや、話せて少し楽になったよ。ありがとね、桜ちゃん。

・・・ところで、桜ちゃんは自分が死んだ時の事はもう思い出したの?」


「ええ・・・昨日、私も思い出しました。

気になりますか?

もし気になるんなら、【コメント1】にリンクを貼っておくんで、

また後で覗いてみてくださいね。」


「なるほど。了解。後で覗いてみるよ。」




・・・と、その時

『お〜〜〜い!』

遠くから声が聞こえてきた。


タッタッタッタッタ・・・


駆け足の音も聞こえる。


ガチャッ


階段に続く扉が開いた。

そこからじろ吉が出てきた。

「お、何だお前ら、デートか?いつの間にそんな仲になったんだ・・・?

・・・まあいい。

どうもグラウンドの状態が悪いみたいでさ。

今日も中止だって!

明日の深夜にはグラウンド復旧するみたいだぜ!」


「・・・また延期か・・・どうもあの世話役、ダンドリが悪いなぁ・・・。」

狩羽はしかめっつらをしてそう言った。










「へっくしょん!」


グラウンドの隅っこで、デビロは大きなくしゃみをした。




→奇妙な1週間(12)へ



★→この怖い話を評価する



[怖い話]


[創作の怖い話6]