奇妙な1週間(9)

創作の怖い話 File.264



投稿者 でび一星人 様





薄暗い密室。

テーブルを囲んで座る男女七人に、世話役のデビロ・イチーゾが静かにそう言った。

「わかりました。」

里美はひとつ頷き、語り始める・・・


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

    【 チェーンロック 】


これはまだ、私が二十歳くらいの頃のお話・・・


「数週間くらい前からなんですが・・・誰かにずっとつけられてる気がするんです・・・。」

とある夕方

私はバイト先の先輩に相談していた。


とても優しい【好青年】といった感じの先輩だ。


「アハハ。里美ちゃんは心配性だなぁ。気のせいだよ。そんなの。」

「・・・そうだといいんですが・・・。」

私がこんな相談をすると言うのも、ここ最近身の回りで不可解な事が頻繁に起こるからだ。


外を歩いていると視線を感じたり、

夜道を歩いていると、早足で後ろから迫ってくる人が居たり、

買い物中、私の買い物カゴの中身をじっと見つめる人が居たり・・・。


・・・でも、ま、気のせいかもしれないな・・・。

最近仕事が忙しく、普段のシフトよりも余分に働いている。

でも、家に帰ってからくつろぐ時間というのはついついいつも通りにとってしまうので、

結果、睡眠時間を削る格好となる。

 きっと、睡眠不足のせいだ。

そうだそうだ・・・。


私は自分にそう言い聞かせた。



 ある日、

私はいつものように帰宅し、鍵をした後、チェーンロックをかけた。

防犯の為、チェーンロックは必ずかけるようにしている。


鞄を玄関に置き、まっ先にお風呂に入る。

お風呂と言ってもシャワーだけで、浸からないんだけど・・・。




 鼻歌を歌いもってシャワーを浴びている時だった。









 ドンドン!




玄関のドアを叩く音が聞こえてきた。


(何だろう・・・気のせいかな・・・?)

ちゃんと玄関にはチャイムも付いてるし、

ドアを叩かれる言われは無いので、きっと気のせいだろうと、私はシャワーを浴び続けた。






ドンドンドン・・・







ドンドンドンドンドン!!!!





あまりの音の大きさに、私はビックリしてシャワーを止めた。






ドンドン!!!





気のせいじゃない。





うちの玄関を、





誰かが叩いている・・・。





私は浴室の外に置いてあるバスタオルで軽く体を拭き、




そのタオルを体に巻いて玄関に向かった。





そしてドアを閉めたまま、外の人に返事をしようとした時だった。








ガチャッ!




ガチャガチャッ




ガチャガチャガチャガチャッ!





ビクっとして、私は後ずさった。



外に居る誰かは、






鍵のかかっているドアノブをガチャガチャと回し始めたのだ。





ガチャガチャッ!


ガチャガチャガチャッツ!





ドアノブの取っ手が、動いている。




一体誰なんだろう・・・




何の為に・・・





きっと、普通の人では無いんだろう。




そう思い、私は恐る恐るドアに近付き、ノゾキアナから外の様子を見てみる事にした。






外には、なにやらフードのようなものを深々とかぶった人が立っていた。





ノゾキアナの範囲では手元まで見えないが、この人がドアノブをガチャガチャやっているんだろう。




ガチャガチャ!



ガチャガチャ!



ドアノブは依然として激しく暴れている。




とりあえず私は服を着る事にした。



パジャマ代わりに使っているジャージの上下を身に着ける。



慌てていたのでノーパンノーブラだ。





そして深呼吸し、再度ドアに向かう。




・・・?




心臓が止まるかと思った。





ドアが数十センチほど開いていた。




そしてその隙間から、




白い腕が1本、まるで生えているかのように出てきていた。



私はとっさにドアを閉めようと、ドアノブを握った。



そして力いっぱいドアを引く。



肉を力いっぱい挟んだ嫌な感触・・・。





「・・・いたいっ!」



外から声が聞こえた。




ドアに挟まった腕はバタバタと暴れている。





私は無我夢中でドアを閉めようとした。





半ばパニック状態だった。



悲鳴の一つも上げていたのかもしれない。




バタバタ




 バタバタバタ



ドアの隙間から生えている腕は暴れている。





ドアが閉まらない・・・。




その時、




腕が私の髪の毛を引っ張った。



「キャッ!!」


私は驚いて、とっさにドアノブから手を離した。




その隙に、腕はシュルリとドアの隙間から抜け出し、





タッタッタッタッタ・・・




という、だんだん小さくなる駆け足の音が聞こえていた・・・。














 −−−−次の日、




バイトに行くと、昨日相談した先輩が腕に包帯を巻いていた。



「先輩、どうしたんですか?その腕。」



私がそう聞くと、



「いやぁ・・・転んじゃってね。ハハハ・・・。」


と先輩は笑っていた。






 マンション等で一人暮らしをしている女性の方等は、


チェーンロックは本当に随時していたほうが良いと思う。



私ももしあの日、チェーンロックをしていなかったらと思うと、ゾっとする・・・。



 
 前の住人は同じ型の合鍵を持ってるかもしれないし、



何かの拍子に合鍵を作られているかも知れない。



そんな時、玄関の鍵は無力と化す・・・。



だから家に居る時には、チェーンロックを必ずかけるようにして下さい。









・・・あ、そうそう。




そのバイト先の先輩なんですが、




腕を怪我したその日、



ふとした事で階段から落ちてしまい、


打ち所が悪く、植物状態になってしまいました。




いろいろと相談に乗ってくれていた先輩なだけに、



とても残念です・・・。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「・・・以上が、私の怖いお話。

霊とかじゃなくてごめんなさいね。」



 やさしい表情でそう言った里美を見て、

隣に座る【樽田 出不夫】は萌えていた。

そして一言、

「ちょっと、トイレ行ってきます・・・。」


と言って【W・C】の看板がかけてある部分の板を外し、外へ出て行った。



それを見ながら、デビロは


(・・・おかしいですね・・・我々は死んだ身・・・便意はもよおさないはずなのですが・・・。)

と首をかしげていた。



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