奇妙な1週間(5)

創作の怖い話 File.260



投稿者 でび一星人 様





彼らがここに連れてこられて、三日目になった。

最初は怖かった彼らも、少しずつ慣れてきたようで、

高校生男子2人は、キャッキャ言いながら【手押し相撲】をしている。


 そんな2人を見て、クスクス微笑む者もいるし、

ツンツンしてる者も居た。


「・・・ちょっと・・・君達、時間だよ。座りなさい・・・。」

案内人のデビロが呆れ口調で言った。


「え?もう時間?すいませ〜ん。」

「すいませんすいません。」

早乙女じろ吉と狩羽健治は慌てて席に座った。


 「コホン・・・ええ、それでは、今日話してもらう方を発表します。

見事、24票を獲得されました、

早乙女じろ吉さん

おねがいします・・・。」


「え!お、おれ!?」

じろ吉が驚いた顔で自分を指さした。

「・・・ええ。アナタです。

とっとと話して下さい・・・。」

デビロは彼ら高校生のテンションに少し不機嫌なのだろう。

今日は笑わずに、無愛想な感じだ。

「え〜まいったなぁ〜。

おれ、最後の方だったらとっておきの話用意してたんだけどなぁ。

こんな最初のほうじゃぁ使えないよ・・。

まあいっか。

じゃ、話しますね。

これは友達に聞いた話なんですが・・・。」



 ロウソクの炎が揺らめく部屋で、

静かに早乙女じろ吉が語りだした・・・。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

【記憶にない】


なんだろう・・・

なんだか最近記憶に無い事が多いんだ・・・。



僕の部屋にはテレビとタンスが置いてある。

それ以外には何も無い。

布団も冷蔵庫も電子レンジも無い。



ちょっと前まではあった。


でも今は無い。



なぜ無いのかは恥ずかしながら解らないんだ。



気が付くと無くなってるんだ。


夜寝て、朝起きると何かが無くなってるんだ。


いっぺんに無くなるわけじゃなく、


少しずつ無くなっていったんだ。


そして今はもうテレビとタンスしか無い。



 夏が近付いてきたといってもまだ朝は肌寒い。



この時期に布団が無いのは少し辛い。



おかげですこし風邪を引いてしまった。




しかしなんでこうもモノが無くなるのだろう・・・。




もし今日寝たら





テレビとタンスも無くなるかもしれない。





そう思うとなかなか寝付く事ができなかった。





タンスはともかく、







テレビは痛い。







家に居てもする事がなくなってしまうからだ。








外に出るとお金がかかる。





なので僕は1週間眠っていない。






序々に幻覚が見えるようになってきた。




止まってるものが動くように見えるんだ。






コンセントの穴が形を変えたり、





電気の紐が長くなったり短くなったり








消しているテレビに女の人の顔が映ったり








幻覚だけじゃない







幻聴も聞こえる。







壁全体から







御経が聞こえてきたり







冷蔵庫のモーター音が









女の人の呟きに聞こえたり







でも寝ないので、テレビとタンスは無くなっていない。







それだけが救いだ。








最近よく髪の毛が抜ける。








寝ていないからだろう。








便に血が混じっていた







これも寝ていないからかな?







食欲も無い。








寝ていないからだろうか。







テレビとタンス







・・・そういえば、





よく考えたら、





家にタンスなんてあっただろうか?






タンスを買った記憶が無い・・・





もちろんもらった記憶も、







実家からもってきた記憶も・・・。







あのタンス、開けた事も無いかもしれない。







僕はムクっと起き上がった。






タンスを開けよう。






そう思い、ゆっくりとタンスに向かって歩いて行った。






・・・と、突然





テレビが勝手に点いた。





リモコンは手元に無い。






なぜか勝手に点いた。





これ自体も幻覚だろうか?





だとしたら重症だな・・・。





僕はそう思いながらもタンスに手をかけたまま、





そのテレビを見ていた。




テレビではニュースをやっている。





・・・と、とつぜんゴルフに変わった




とおもったら今度は野球



そして再放送のドラマ




チャンネルが勝手に変わる。





これはおかしい・・・。




幻覚だとしても、実際に起こってるとしても、




どちらにしてもおかしい。




おかしいおかしい









おかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしい








・・・ん?





テレビをそのまま見ていると、





僕はひととつの法則を発見した。


テレビの声が、





1文字言う毎に、




チャンネルがかわっている。





その一文字を、



よく聞いてみた。



『あ』






『け』






『る』







『な』







・・・








・・・





・・・【あけるな】?







あけるな・・・?



タンスの事か?






タンスを開けるなと?






僕はタンスを見た。






手をかけたタンスをよく見てみると、





ボロボロの木でできたタンスだった





とても古く、




今時の若者がもってるようなものでは無い。





今なら確信できる。





僕はこのタンスを買っていない。




・・じゃあ、一体なぜこのタンスがここに?





タンスにかけた手が離れない。





テレビは依然として『あけるな』を繰り返している。






あけてはいけないのだろうか・・・。





しかし気にもなる・・・。





コトコト・・・





コトコトコトコト・・・・






タンスが小刻みに震えだした。




僕の手が震えているのだろうか?




タンスの上にいつのまにか置かれた、




市松人形が笑う





コトコト・・・




 コトコト・・・



『 あ け る な 』



        コトコト・・・





コトコト・・・



『 あ け る な 』



    コトコト・・・














「・・・あけても良いよ。」




耳元で突然声がした。




おばあさんのようなひしゃがれた声。





なぜか僕は安堵感を得た。





そしてめいっぱい、




タンスを引いた。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・













―――数日後―――



「すいません・・隣の部屋から変なニオイがするんですけど・・・。」


その通報を受け、警察がやってきて部屋の鍵を開けると、ものすごい腐敗臭が鼻を突いた。



部屋に入り中を確認すると、開かれたタンスの前で一人の青年が横たわり息途絶えていた。




テレビは点けっぱなしだった。





テレビ、洗濯機、冷蔵庫、電子レンジ等、




部屋の中は特に異常は無く、



一人暮らしの青年に必要最低限なものがキレイに設置されていた。




「それにしても・・・なんだこのタンス・・・。」



刑事がしかめた顔でタンスを見て言う。




タンスの中には、あふれ出んばかりの御札が詰め込まれていた。




外から見ていた住人に話を聞いたところ、



このタンスは数週間前に、この青年が抱えて持ってきたらしい。



目はうつろで、何か独り言を呟きながら部屋に入って行ったらしい。



その後、その青年の姿を見かけていなかったという事だ。






気味が悪いので、タンスと御札は焼却処分する事となった。







その間、どこからともなく女の人の啜り笑う声が聞こえてきたらしい。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 「・・・はい、いじょっっ。」

じろ吉が鼻を親指でシュッてやりながら言った。


 「おつかれさまでした・・・では、皆さんお部屋にお戻り下さい。」

今日のデビロは機嫌が悪い。

とても機械じみた対応だ。


 「あ、ちょ、ちょっと待って下さい。」

皆が部屋に戻る途中、もうひとりの高校生、狩羽健治が口を開いた。

「何ですか?」

デビロがそう聞くと、狩羽は頭を掻きながら、

「あの・・・もしよろしければ、

明日話すの、僕にしてもらえませんか?

3番目ならではの話があるんです・・・。」

と、壁にある沢山のモニターに向かって言った。

「・・・ほほぉ。

おもしろいことをしますねぇ。

ギャラリーにおねだりですか・・・。」

デビロが少し笑っていると、

「あ、あの・・・。」

雪村桜も口を開いた。

「あの・・・私も実は三番目ならではの話があるんです・・・。

だからもしよろしければ私を・・・。」


「おい!何だよ!僕が三番目をお願いしてんだぞ!」

「で、でも・・・私も三番目ならではの話があるし・・・。」


少し怒った狩羽が雪村桜に詰め寄った。

「・・・まぁまぁ・・・。 結局はギャラリーが決める事です。

今日は部屋にお戻り下さい・・・。

でないと、地獄におっことしますよ・・・。」


デビロの優しい誘導に、2人は素直に応じて部屋に戻って行った。



→奇妙な1週間(6)へ



★→この怖い話を評価する



[怖い話]


[創作の怖い話6]