奇妙な1週間(4)

創作の怖い話 File.259



投稿者 でび一星人 様





今宵お話するのはこの方・・・






【下山 静香(24)】




それではどうぞ・・・



0000000000000000000000000000000000000000000000000000000000

「・・・ひょっひょ・・・

ひょーーーっひょっひょっひょっひょ・・・。」


四方が木の板で囲われた部屋。

部屋の壁の1面にはびっしりとモニターが備え付けられている。

そのモニターにはそれぞれ人の顔が写る。

その中の一人は、画面の前のアナタ・・・。

テーブルの上には怪談らしく、ロウソクが置かれていた。


 自称世話役、デビロ・イチーゾが笑っている。

「・・・うるさいわね!アンタ、その笑い方やめなさいよ!」

デビロの前のテーブルの周りには7人の男女が座っている。

その中の【下山 静香】が不機嫌そうに怒鳴った。

「・・・ひょっひょっひょ・・・。これは申し訳ありませんでした、下山さん。

この笑い方は癖なもので・・・なるべく控えます。

それよりも皆さん、昨夜はぐっすりと眠れましたか?」


 下山静香はその質問に答えなかった。

皆の前では強がってはいるが、実は今おかれているこの状況が怖くて怖くてたまらなかったのだ。

昨夜は布団の中で小さくなってずっと震えていた。

ずっとずっと震えたまま、何も出来ずに今を迎えていたのだ。

だが下山は表情を崩さない。

皆の前で【弱い自分】を見せたくは無いからだ。

「うるさいわね!

誰が寝たとどうとか関係ないでしょ!

とっとと進めてよ。

今日は誰が話せばいいの?

もう決まってるんでしょ・・・。」

「ひょ・・・っひょっひょ。

下山さん。せっかちなんですね・・・。

ええ。投票の結果は出ていますよ・・・

今宵お話していただく方は・・・

下山さん。

アナタですよ・・・。」


「・・・え?私?」

「・・ひょっひょ。

そう。下山さんアナタです。

見事33票をGETして堂々の1番です。

ちなみに2位以下はこうです。

じろきち 22票
雪村 桜 14票
樽田出不夫 8票
狩羽    5票
里美    4票 」



「フ、フン。

と、とりあえず私が話せばいいのね?

わ、わかったわよ。

私が働きだしてまだ間もない頃の話をするわ。」


「・・・楽しみにしていますよ・・・下山さん・・・。」

デビロが不気味に笑う。

他の6人も緊張の表情で下山を見る。

デーブルに立てられたロウソクが放つ光のゆらめきが、

ゆっくりと口を開く下山の顔を照らす・・・



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜






【ベランダ】


ベランダが妙に気になる・・・。

そんな時ってありませんか?

ベランダは外にあります。

なので暖かい日光を浴び、心地よい空間を創り出します。

・・・しかしそんな暖かい雰囲気ばかりではありません。

雨や風の日はのんびり過ごせる場所にはならないし、

夜には不気味に感じる事すらあります。

今回お話しするのは、そんなベランダに関するお話。



カタカタ・・・

  カタカタ・・・

ベランダから物音が聞こえる時って、ありませんか?

カタカタ・・・
  
  カタカタカタ・・・

風が強い日なんかは、物干し竿がカタカタ音をたてたりしますね。

カタカタ・・・

   カタカタ・・・

今日は日中良い天気でした。




カタカタ・・・




カタカタ・・・




でもなぜでしょう




 カタカタ・・・








布団を敷いて寝ようとすると




  カタカタカタ・・・






ベランダから音が聞こえます・・・。






 カタカタ・・・





シャーーッ





音が気になるのでカーテンを勢い良く開けました。






するとそこには・・・











・・・とても綺麗な夜景が広がっていました。









「あぁ・・・こんな綺麗な夜景を見たのは何年ぶりだろう・・・。」






そう。







私は多忙な生活の為、ゆっくりと夜景を眺める生活をしていませんでした。






「綺麗だな・・・。」




私は窓越しから、しばらくその夜景を眺めていました。





一際光輝くネオン




ぼんやりと淡い光を放つ照明




点滅している光







夜景には色んな種類がありました。





「人間と一緒だな・・・。」




光に色んな種類があるように、

人間にも色んな人が居る。







夜景を見ながら、そんな事を考えていると、自然に涙がこぼれてきました。









涙を拭いながら、私はゆっくりとカーテンを閉めました。






「ダメだな・・・こんな事で落ち込んでたら・・・。」






最近仕事でよく失敗をし、正直落ち込んでいました。



もう辞めてしまおうか・・・



なんて事もチラホラ考えていました。





それだけに、



今見た夜景はとても私の心に残りました。




【光に色んな種類があるように、

人間にも色んな人がいる】




文句を言う人もいれば、


慰めてくれる人もいる。






自分が失敗して、



いっぱいいっぱいになっていて、



怒られたりした印象が強かったけど、


私を励ましてくれている人もいるなって、




そう思える事が出来ました。




もしかしたら・・・




もしかしたら、




あのベランダから聞こえてきた『カタカタ・・・』という音、





あれは私にあの景色を見せる為に、




聞かせてくれた音なのかもしれない




そう思いながら、私は床に就きました。













―――――朝





いつもより早く目が覚めました。






五月も半ば、



涼しくて過ごしやすい朝です。





なんだか、



すがすがしい気分でした。



『失敗しても、怒られても、


私を支えてくれる人は必ずいる。』



そう思うと勇気が沸いてきました。




「がんばろう!」




シャーッ・・・




私は朝の日差しを浴びようと、カーテンを思いっきり開けました。
















するとそこには・・・
















昨日の夜景とはうってかわり、朝の日差しを浴びる静かな町並みが広がっていました。





「今日もまた1日が始まるな。」



私は気合を入れようと、パンパンと頬を叩きました。






そして部屋に戻ろうとした時、ある事に気付きました。








「・・・ん?」











ベランダに、













無数のどす黒い足跡が付いていました。













足跡は素足のものでした






ベランダを覆いつくすように、












それはもうびっしりと付いていました。








私はツッカケを履いてからじゃないとベランダには出ません











一体誰が家のベランダに居たのでしょうか












それもこんな大量の足跡が出来るくらい歩き回って・・・。














カタカタ・・・



   カタカタ・・・










ベランダからは今でもたまに音がします。





でも怖くて夜はカーテンを開ける事が出来なくなりました。













もし何かを見たらと思うと、開けられないのです・・・。









〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「・・・ひょっひょっひょ。

いかがでしたか?

下山さんのお話?」



 下山が第一夜の話を終え、皆が各自部屋に帰った後、

デビロが一人部屋のイスに座りながらモニターに向かって話している。


「下山さんは残念ながら最初の語りべになってしまいました・・・。

こういう会で、1番というのは不利ですよねぇ・・・。

場の空気もまだ出来上がっていなし、

何より今日下山さんがした話より怖い話を考える猶予が、

他の6人にあるのですから・・・。



→奇妙な1週間(5)へ



★→この怖い話を評価する



[怖い話]


[創作の怖い話6]