ジュウシチネンゼミ(1)

創作の怖い話 File.252



投稿者 でび一星人 様





17年、土の中で暮らす。

そして、2週間だけ、大空を舞い、元気に鳴く事が出来るジュウシチネンゼミ。

僕はそんな教科書に載ったジュウシチネンゼミを見るたびに思い出す・・・。



 高校3年生、冬。

僕は18回目の誕生日を迎えた。

周りにはちらほら車の免許を取りに行く者もいたが、

僕はマウンテンバイクが好きだったのでソチラの方にはまったく興味が無かった。

 「オイ、村井。合宿で取ったら、早くとれるらしいぜ?一緒に行こうぜ。車は絶対必要だって!」

 親友というほどでは無いが、仲の良い吉戸が声をかけてきた。

「・・いや、いいよ。やっぱり。 大概の距離なら自転車で行けるし、それ以上の距離なら電車があるじゃん。」

 
 そう言うと、一瞬顔をしかめて吉戸は歩いて行った。

ノリが悪いと言うか、煮え切らないというか、

僕はそういうタイプだった。

だからと言って成績が良いかというと、並といった所で、

得にオシャレなワケでもなく、

そんな感じだから、もちろん彼女なんて出来る気配すら無かった。



 学校が終わる。

帰宅部の僕は、【愛車】であるマウンテンバイクにまたがり最短距離で家に帰る。


「ただいま。」

・・・と言って家に入るも、返事は無い。

両親は共働きで、この時間は誰も家に居ない。


  「ふぅ。」

一息つき、僕はベッドに腰掛けた。

そのまま横になり、小一時間昼寝をした。



 

 子供の声がして、僕は目を覚ました。

窓から外を見てみると、数人の子供達が楽しそうに遊んでいる。

「・・・雪・・・か。」

雪が降っていた。


 雪はふわふわと綿のように舞い、

独特の優しさを空に描いていた。


 

 翌朝。

いつものように着替え、いつものように自転車にまたがり学校へ行く。

 昨日降った雪の痕跡はまったく残っていなかった。

雪が積もった時の自転車は、恐ろしく怖い乗り物と化すのだが、

そういうのは置いといて、いくつになっても雪が積もると少し嬉しい気分になるものだ。

(北国の人、ゴメン)


 マウンテンバイクで、8キロの道のりを駆ける。

学校に近付くと、ちらほら同じ制服の学生を見かけるようになる。

 僕はけっこう速く走るので、そんな彼らをグングン追い抜いて行く。



 いつもほぼ同じ時間に家を出て、

ほぼ同じ速度で走るもんだから、

大体追い抜く人の顔もおぼえて来た。


 野球部の坊主頭・・・

テニス部の【ガングロ君】・・・

生徒会長の里那さん・・・。



・・・ん?

ある女子生徒が、目の前を自転車にまたがりゆっくりと走っている。

見慣れない後ろ姿。

でも、制服は同じ学校のものだ。


僕は追い抜き様、横顔をチラ見した。

相手に気付かれぬよう、一瞬だけチラ見した。



その瞬間。

僕の中の【時】が止まった。


追い抜く僕の気配に気付いたのか、

彼女もこちらを向き、目が合ってしまった。


白い肌・・・。 細い足・・・。


「あっ・・・。」


ズザザー・・・。


・・・僕は豪快に転んでしまった。


 「いでで・・。」

数箇所、擦り剥いたみたいだ・・・。


「大丈夫ですか?」

さっきの彼女だ。

自転車を押しながら、心配した様子で僕の方へと歩み寄ってくる。

「あ、だ、大丈夫です。 す、すいません。」


なんで謝ってしまったのかは意味不だが、

僕は慌ててカバンを拾い上げ、マウンテンバイクにまたがり学校へと向かって行った。


 胸が高鳴る。

顔が火照る。



この時、僕は恋をした。

生まれて初めて、人を好きになった。






 「あれ?村井、お前どうした?顔擦り剥いて?」

友達の吉戸が笑いながら話しかけてくる。

「な、なんでもないよ。」

まさか女の子に目をとられて転んだなんて言えるワケがない。



 なんとなく授業を受け、

なんとなく1日が終わる。

 二月初頭。

周りは受験勉強で必死な生徒たくさん居る。

でも僕は平々凡々に過ごしている。

なぜならもう就職が決まっているから。



 就職組みはこの時期、ほんのり優越感に浸れる。


 駐輪場に行き、自分のマウンテンバイクの鍵を開けようとする。

マウンテンバイクなので、鍵はタイヤに巻くタイプだ。


 僕はいつものようにブレザーの内ポケットから鍵を・・・

鍵・・・・


鍵が無い!


他のポケットに入れたのか?

ポケットを片っ端に調べた。

でも鍵が無い!


 右ポケットからは、食べかけのビスケトが出てきた。

そんなの食べてる場合じゃない!

ダメだ。鍵が無い。

腹いせに、ビスケットが入ったポケットを叩いた。

ビスケットは二つに増えた。

割れただけだけど。



 あぁ・・・最悪だ・・・。 自転車の鍵を無くしてしまった・・・。

肩を落としてしょんぼりしていると、


「あの・・・。」

後ろから声が聞こえてきた。

僕はゆっくりと振り返った。




!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!




そこには、今朝投稿してくる時に見かけた、あの色白の彼女が立っていた。


 頭が真っ白になった。

なぜ、この子が僕に声を???


「あ、あああ、あ、すいません。 大丈夫ですから。 朝はどうも!」

また、ワケのわからない事を口走っている。

そういえば、中学以来、女子と話をしていないかもしれない。

女性に対する免疫の薄さが、こうもおかしな行動を生んでしまうのか。


 僕はマウンテンバイクを担ぎ上げ、駆け足でその場を去ろうとした。


「す、すいません。じゃ、サイナラ!」

「あ、ちょっと待ってくださ・・・。」


彼女がそう言うのを聞こえないフリして、僕はマウンテンバイクを担ぎ、門の方に向かった。


「ちょっとーーーー!」

後ろから、彼女の叫ぶ声がする。

でも、僕は聞こえないフリをしてひたすら走る。

 絵的には、片方をもぎとられた【ガンキャノン】なのかもしれない。

でも、頭が混乱して、僕にはこうする事しか出来なかった。


 駐輪場から、グラウンドに出た。

あとはこのグラウンドを横切り、門に到着すれば万事OKだ。

近くの自転車屋で、鍵を壊してもらおう。



 僕は必死にグラウンドを走る

その横を、さっきの彼女が自転車にのって優雅に登場。


「・・あ。」


さすがに、この【片方ガンキャノン】ではいくら走っても自転車に叶うはずもない。

でも僕は走った。

なぜかって?

ここで止まったら、この行動がおかしな行動と自分で認めてしまう事になるから。


「・・あの、」

彼女が声をかけてくる。

「ハァハァ・・な、なんですか?」

冷静を装い、僕は言葉を返す。


「しんどく・・・ないですか?」


しんどいに決まってるじゃないか!

なんて事を聞くんだ!この子は!


「べ・・ハァハァ・・・別に、平気ですよ・・。ハァハァ。」


「そ、そうですか・・・。 あの・・。」


「ハァハァ・・ま、まだ何か用ですか?・・ゼェゼェ・・・。」



彼女は、ブレザーのポケットから、何かを取り出し、僕に見せた。


「あの・・・これ、朝アナタが落としたみたいなんですけど・・・。 その自転車の鍵じゃないですか?」



「・・・あ・・・。」


ズザザーーー・・・


僕はこの日、二度も転倒した。





 


・・・う〜ん・・・。

1時間後、

僕はマクドナルドに来ていた。

向かいには、さっきの彼女。


 どうやら、鍵を拾ってもらったお礼に、マックをご馳走するといった展開になっているらしい。

 女の子と2人でマック・・・。

人生で初では無かろうか?

 何を話したら良いのか。


僕はトレイに敷いてある広告をひたすら読んでいた。

ハッピーセットを一つ買うと、1円がマクドナルド財団に寄付される事を完璧に記憶してしまった。


 
 彼女は、退屈ではないのだろうか?

ほぼ無言で1時間も・・・。


 「あの・・・。」


彼女が声をかけてきた。


「はぃぃ?」

ちょっと変になった返事をした。


「美味しいですね。このお店。 私、お店で何か食べるのって初めてなんです。」

「あ、そ、そうなんですか。」

彼女は微笑んでいた。


・・・やたらとまた、緊張してきた。

胸が高鳴る・・・。



 アイスレモンティーの入ったストローをくわえながら、

彼女は寂しそうな目をしてこう言った。

「・・・私、実は病気で、ずっと家か病院で過ごしてたんです。

実は、今日始めてなんですよ。 こうやって学生らしい事するのって・・・。」


「・・え?」


 朝、

彼女を始めて見かけたのはそういう事だったのか・・・。



 「・・・だから、友達もまったく居なくて。 

今日アナタとこうやって知り合えるきっかけがあって、本当に嬉しいです。 ありがとうございます。」


「・・・いや・・・。」


一人舞い上がり、まともな対応が出来なかった自分が情けなかった。

そして彼女に申し訳なかった。


 「あの、僕、村井 和弘って言います。アナタは?」


 「村井・・・君ですね。よろしくお願いします。 私は雪村 桜って言います。 二年生です。」



 (と、年下かぁ〜〜〜・・・。)



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