ツンデレラ(3)

創作の怖い話 File.250



投稿者 でび一星人 様





それから、私は雪夜君と週三回くらいのペースで会った。

雪夜君はとても優しく接してくれた。

 最初に家に行った時にした【本当の私】の事は、あれ以来一切触れる事は無かった。

きっと、私が気にした素振りをしたので気にしてくれてるんだろう・・・。



 雪夜君と付き合って、一ヶ月が過ぎた頃。

いつも通り、夕方の駅で雪夜君が来るのを待っていると、携帯が鳴った。

雪夜君からだ。


 「はい。もしもし?どうしたの?」

『あ、ごめん。静香。  今日行けなくなった・・・。 

母さんが倒れたって・・・実家から電話があって・・・ ホントごめん!』


 「え!ホ、本当に? 私は気にしないで。 気をつけて診てあげてね!」



 雪夜君は実家に帰ったらしく、それから一週間ほど会わない日が続いた。

メールは1日に3回くらいはしていたが、雪夜君はあきらかに元気が無い様子だった。



 雪夜君が実家に帰って、十日ほど経ったある日、

雪夜君から『今日の夕方会えないか?』と電話があったので、喫茶店で待ち合わせをして会う事にした。


 言われた喫茶店に行くと、雪夜君が難しい顔をして座っていた。

そして私に気付くと、「やぁ。」と元気なさそうに言った。


 話を聞くと、どうやら母親の治療費に400万円ほどかかるらしかった。

なんとか貯金をはたいて200万は用意出来たという事らしい。

私は考えた。

私の貯金は、今で500万ちょっとある。

200万くらいなら・・・用立て出来る。

「・・・雪夜君。私、なんとかするよ。200万。 返すのはいつでもいいから。」

「・・え?いや、そんなつもりで言ったんじゃないよ。 勘違いしないで。 君からお金は受け取れない。」


 雪夜君は断った。

ただ、雪夜君が今日会ったのは、そのお金を作る為には今の仕事をしていても、

とても溜まらないので、夜の仕事をすると言う事だった。

 女の人と話しながらお酒を飲むといった内容らしく、

変に触ったりとかはしないらしい。

「そっか・・・。それくらいなら・・・。 私我慢するよ。 頑張って。」

「うん・・。ごめんな。静香。 理解してくれてありがとう。」


 それから、雪夜君は私と会っても「疲れてるんだ。」と言ってあまり構ってくれなくなった。

 毎日毎日、気苦労や飲みすぎで疲れるんだろう・・・。

でも、やっぱり私はいくら雪夜君が仕事で大変だからと言って、構ってくれないのは嫌だった。

ある日、その鬱憤を雪夜君にぶつけてしまった。

すると雪夜君は、

「じゃあ、一度で良いから客として来てみろよ! そしたら構ってやるよ!おれは金が必要なんだよ!」

と言われた。

売り言葉に買い言葉。

私は一度、雪夜君の客として店に行く事になった。




 【クラブ CO2】

それが雪夜君の勤めるお店の名前だった。

なんだか水と比べて環境に悪そうな名前だ。


 私は受付のおじさんに、雪夜君に来るように言われた事を話し、席に案内された。

 梅酒を頼み、しばらく待っていると雪夜君がやってきた。

「ごめんね。 来てくれて。 ありがと。」

雪夜君は申し訳なさそうな顔をしてそう言った。


 その日、私は雪夜君と久しぶりに楽しく話す事が出来た。

正直嬉しかった。

 飲み物をそんなに頼まなかったので、料金は二万少しでいけた。

 「今日はホント、ありがとね! 静香はやっぱり、特別な存在だ。」

雪夜君はそう言って店に戻って行った。


 なんだか嬉しかった。

そういえば、私は人の為に何かをした事ってあっただろうか?

自分が求めてばかりだったのではないか?




 それから、ちょくちょく私は店に来て雪夜君と会うようになった。

2万 5万 ・・・ひどい時は10万円。

だんだんとお金の感覚がマヒしてきたのかも知れない。

 私の貯金はみるみるうちに減って行き、

気がつくと貯金の額は6ケタを切ろうとしていた。


 これはヤバイ・・・。

私はとうとう、【クラブ CO2】に行くのを自粛する事にした。

 雪夜君は、そういえば「忙しい」を理由に、外では会ってくれなくなった。


会いたい・・・


雪夜君の声・・・顔・・・手・・・全部が恋しい・・・。


 ある日雪夜君から電話があった。

「最近、どうしたの?」

私は正直に、貯金の問題を雪夜君に伝えた。

雪夜君は怒らなかった。


 怒らずに、短時間で稼げる仕事を教えてくれた。

私は昼間OLをして、

週3回、夕方から接客の仕事をする事になった。

オトコの人に着いてお酒を飲み、触られる仕事だ。


正直、オッサンに触られるのは気持ち悪かったが、(キスとかもされる)

雪夜君に会う為には仕方ないと頑張った。


週三回、夜働き、

週4回、雪夜君に会いに行った。


 私の心の支えは雪夜君だけになっていった。

昼の仕事は、ウワノソラになり、失敗も増えた。

 なんだか、雪夜君以外はどうでも良い感じになってきた。

その為、仕事のどうでもいい人間関係は、以前のようにツンツンした感じでは無く、

どうでもいい普通の対応になってきた。




 ある日、雪夜君に会いに行くと、

「最近、静香変わったね。 前みたいに、人や場所で、自分を変えなくなったね。」

と言ってくれた。

そういえばそうだ・・・。

 もう、私は【ツンデレ】では無くなっていた。

【ツン】だった私か、【デレ】だった私かはわからないけど、

今の私は、【一つ】でしかなかった。


「・・・雪夜君のおかげだよ・・・。アリガトウ・・・。」

私は雪夜君に感謝した。



 とは言え、昼も夜も働き、さすがに疲れが溜まってきた。

体力的なものではなく、精神的な疲れが多い・・・。

雪夜君に会って癒されはするが、週4回ではなく、毎日会わないと耐えられないようになってきた。

それを雪夜君に話すと、

「忙しいからなぁ・・・。あ、そうだ、これ、試してみる?」

と言って、粉状の薬のようなものをくれた。


「精神安定剤みたいなもんだよ。あ、安心して。麻薬とかじゃないからさ。

 ちゃんと法律で認められてるやつだから。」





 凄い・・・。

家に帰って試してみたら、気分がハイになり、お酒なんかより全然嫌な事を忘れさせてくれた。

 世の中には、こんな便利なものがあったんだ・・・。



 四回ほど使うと、その薬は無くなった。


不思議なもので、あの薬がないと、不安で不安でたまらなくなった。

雪夜君に話し、あの薬を分けてもらえた。

特別に、4回分で1万五千円で譲ってもらえた。



  私はその薬で、またなんとか過酷な日々を乗り越える事が出来た。







 「・・・下山ちゃん?最近痩せたねぇ・・・。」

仕事の合間に浜根さんが私に言った。

あの薬を飲み初めてから、2ヶ月くらいが経っただろうか。

極端に体が痩せてきた。


 そういえば、雪夜君も「これを飲めば痩せる効果もあるんだよ!」といってくれてたし、

薬の良い作用なんだろう。


 ただ、一つ気になる事があった。

薬の効果が、日に日に薄くなってきたような気がする・・・。


 

 雪夜君にそれを相談した。

雪夜君は、

「あぁ。 何度も飲むと、そうなってくるんだよ・・・。

 ほら、【馴れ】ってあるでしょ? 人間の体は、馴れてくるからねぇ。」


 そんな理屈はどうでもよかった。

私の心を埋めて欲しい・・・。


雪夜君は、今度はまた違った色の袋に入った粉を出して、

「・・・これはさ、法律で認められてないんだ・・・。 

でも、いままでのより、少ない量で【効く】んだけど、 どうする? 値段も少し高いけど・・・。」


断れるはずが無かった。




 雪夜君の言う事は本当で、今までの薬よりはるかに効いた。

やっぱり、雪夜君は私にはウソはつかないんだ。

大好きだよ・・・雪夜君・・・。



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