ツンデレラ(2)

創作の怖い話 File.249



投稿者 でび一星人 様





そっと両手で私の左手を持ち、眺める男の人。

「・・・ふ・・む。 なるほど。」


「・・・な、何かわかったの?」


男の人は、優しく私の掌をなぞり、

「今、悩み事ありますね?」と聞いてきた。

「え?」

「フフ。その反応から見て、図星ですね。 異性関係・・・かな?」


 当てられた・・・。

「な・・・なんでわかったの?」


「ハハ。 得意だって言ったでしょ?手相見るの。 あ、そうだ。 

もし暇なら、今から食事でも一緒にどうですか? もちろんオゴるんで。」


 私は少しこの男の人に興味を持った。

スラリと長い足。

細くしなやかな指先


 男の人は、何やらこじゃれたフランス料理のお店に連れて行ってくれた。


「美味しい?」


そういってニコっと微笑む笑顔に、私の心は惹かれて行った・・・。



 その日は電話番号を交換して、家に帰った。


正直、ステキな人だ・・・。

今日はツンツンしてしまったけど、

次は超デレっとしたい・・・。


そんな事をかんがえながら、この日は床に就いた。

昨日まで付き合っていた彼氏は記憶の中からほぼ消えていた。




 翌朝、会社に出勤すると独身で35歳の浜根さんが声をかけてきた。

「おはよう〜下山ちゃん。・・ん?もう大丈夫そうだね。 顔色がすっごく良いよ。」

「おはようございます・・・はぁ。そうですか・・・?」

正直、内面は昨日知り合った男の人とのデート?でまだウキウキしていた。

でも、私にはキャラがあるので会社ではツンツンっと反応してしまう。



 
 無難に仕事をこなし、PM5時と共にロッカーで着替えて、会社を出る。

いつものパターンだ。

携帯を確認してみると、不在着信が入っていた。

昨日の男の人だ!!!


番号を聞いたのだが、名前を聞き忘れたため、携帯の着信履歴には【オトコ ノヒト】と表示されていた。

私は急いでオトコ ノヒトに電話をかけ直す。


 プルルルル・・・


プルルルル・・・



プッ・

『はい。もしもし。』

「あ、あの、私。昨日の。」

『あぁ。静香さん・・・。ごめんね。着信入ってたでしょ?』

「・・・うん。 何か用だったの?」

『あぁ。 うん。 今日の夕方さ、暇だから、もしよければご飯でもどうかなって。』


 待ち合わせをして、私はマッハでオトコノヒトのところへ向かった。

今日はなにやら少し高そうな中国料理のお店に連れて行ってもらった。

クラゲという食べ物を始めて食べた・・・。

私的には木耳とそんなに変わらない感じがした・・・。


 オトコノヒトの名前は【雪夜】という名前だった。

雪夜君は、やさしく微笑んで私を見つめてくれる。

「・・・ねえ、何で、私なんかを誘うの?」

「・・ん。 何だろうね。【気になる】からかな。」


ドキっとした。


その日、私と雪夜君は【恋人】になった。


これで、また本当の私を出せる人が出来る・・・。

心の安定に、そういう人は欠かせない・・・。



  

  「あれ?下山ちゃん、やけに今日機嫌いいね?」

35歳 独身 小太りの浜根さんが声をかけてくる。

「・・はぁ。そうですかね? 」

・・・とは言ったが、おそらく、内面に詰め込んだウキウキワクワク(死語)が、外にはみ出しているのだろう。

 今日も帰りに雪夜君と会う約束をしている。

早く5時にならないだろうか・・・。

 
 なんて思っていても、時間は過ぎていくもので、あっという間に5時になった。

「お〜い、下山ちゃん。 たまには飲みにでもどう?」

「・・すいません。 急いでるんです。 用事があるんです!」

私は前に立ちはだかる35歳 独身 小太り テクノカットの浜根さんを押しのけ、階段を下り、会社を出た。



 電車に乗り二駅。 雪夜君との待ち合わせの場所に着いた。

雪夜君は改札の前で待っていてくれた。


「ごめんなさい。待った?」

「うううん。ちっとも。 行こっか。」


今日はどこに連れていってくれるんだろう?

ご飯でも食べようと誘われたんだけども・・・。


しばらく着いて行くと、少し古びたアパートのようなところに着いた。

「・・・静香ちゃん。ごめん。実はさ。 オレ、見得張って、

君を少し高いお店に連れてったんだけど、実はそんなにお金持ってないんだよね・・・。 

頑張って作るから、手作りで許してくれる?」


 このアパートは、雪夜君の住まいなのか・・・。

私はどちらかというと、2人だけの空間の方が良い。

「・・・良いけど。別に。」


ツンっと返事をした。



 部屋に入り、コートをハンガーにかけ、雪夜君は暖房を点けた。

「う〜寒いね。オレの部屋。 何食べたい?」

2人だけの空間。

誰も他に居ない。

私は無言で両手を雪夜君の方へと伸ばした。

「・・・ん?どした?」

きょとんとした顔でこっちを見る雪夜君。

「・・・ギュってして。」


「・・・ん?」

雪夜君は、おそらくビックリしているのかもしれない。

私の【初デレ】だから。


 ソソっと近づいてきた雪夜君は、ギュってしてくれた。

雪夜君の体は暖かかった。


しばらくそのままで、幸せを感じた。


そして離れた後、

「・・・静香ちゃんって、なんか外とイメージ違うね?」

と聞いてきた。

「・・うん。ごめんね。 ビックリした?これがホントの私なんだ。」

雪夜君は何度か頷き、下を向いた。


「どうしたの?引いた?」

「・・いや。」


雪夜君は続けて、

「【ツンデレ】っていうやつかい?もしかして?」

と聞いてきた。


「・・・うん・・・。 そんな言葉、あるね。 それだと思う。 でも・・・。 自然にこうなっちゃうんだよ・・・。」



「自然・・・か。」


雪夜君はそう言うと、台所に行って何かを炒め始めた。

私はそんな雪夜君の姿を見つめていた。



 10分もしないうちに、雪夜君は何かを作って持ってきてくれた。

「口に合うかわからないけど・・・どうぞ。」


野菜やお肉やキノコが色々入った炒め物だ。


一口食べてみる。


「ん・・・美味しい!」

今まで食べたことの無いような味だった。

これは美味しい!

「良かった。 そう言ってもらえて嬉しいよ。 オレも食べるね。」

雪夜君も、私の横に座って食べ始めた。

数分間、無言で食べる二人。

 おかずも減ってきて、雪夜君が口を開く。

「・・・ねぇ。静香ちゃん。 君、さっき『これが本当の私なんだ』って言ってたよね?」


あぁ。さっき【デレった】時の会話か。

「・・うん。言ったけど・・・迷惑・・・かな?」


「いやいや・・。迷惑なんかじゃないよ。ただ・・・。」


「・・・ただ?」


雪夜君は空になった茶碗をそっとテーブルに置いて、

「本当に、それが本当の自分なのかな?」

と言った。


 本当の自分。

そう・・・よ。そうに決まってる。

普段は、ツンツンしてバリアを張ってる。

それを好きな人の前では外せるのよ。


「・・・そうよ。 なんでそんな事言うの?」

「・・・いや。 言ったらさ、君は、二つの自分を使い分けてるワケだよね? 外の自分と、 今のような自分・・・を。」


「・・・そうだけど・・・。でも、今の私が本当の私よ?」

「うんうん。 それはわかった。 たださ、」

「ただ・・・何?」

「外の自分が、実は本当の自分なんじゃないか・・・って、考えた事は無いの?」


・・・え


外の自分・・・が本当・・・の?

あのツンツンした自分?

そんなワケないじゃない。

あんな嫌な私が、本物のワケないじゃない!


「そんなの、考えるまでも無いよ!今の私が本物の私!」

「そ、そっかそっか。 ゴメン。この話辞めよう。」

両手を前に突き出し、雪夜君は話を遮った。

その後は何気ない会話をして、テレビを見た。

その日は得に何をするでもなく、遅くなったので帰る事にした。


雪夜君が駅まで送ってくれた後、私はボーっと考えていた。


 雪夜君が言った、あの一言が頭の中をグルグルと回っていたのだ。

    『本当に、それが本当の自分なのかな?』

・・・考えてみると、もしかしたら本当の自分は【外】の自分なのかもしれない・・・。


もしそうだとしたら、私は彼の前で仮面をかぶっている事になる・・・。


もしかして、本当にそうなのだろうか?


・・・いや、そんなワケは無い。 彼の前だけ、私は本当の私になるのよ。

・・・でももしかしたら・・・。


なんだか私はわからなくなった。


わからなくて答えにたどり着けないので、

その日は帰りにコンビニで梅酒を買って例の【イッキ寝】をした。



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