でびるーるすまん(7)

創作の怖い話 File.238



投稿者 でび一星人 様





カー…



   カー…。






夕方。




私はヘロヘロな体で家に向って歩いていた。




…疲れた…。



人生で初めて働いた感想は、時間が長くも早くも感じる不思議な感じだった。




家まで20分かけて帰り付き、私は玄関にゴロンと寝転んだ。



「はぁ…。

首が痛い…」



普段使わない筋肉を酷使したため、私の体は悲鳴をあげていた。

…でも…。


筋肉痛が当日来るって事はまだ若いって事かな…。




「…あっ、そうだ」


私は今日もらった【給料】をカバンから取り出した。


白い封筒に入った給料。



…でび呂さんはあんな事言ってたけど、本当にそんなに稼げるんだろうか…。




私は封筒からお金を抜き出す…。




…!!????



「な、なにこれ…」



驚いた。



「こ…こんなに稼げるんだ…」



給料袋の中には、お金と一緒に店長からの手紙も入っていた。



【今日はおつかれさん。

お客さんの反応も良かったよ!

これから頑張ってもらう為に、今日の分は少し色つけといたから!

また明日からもよろしく!

             店長】






…涙がこぼれてきた。



私…感謝されているんだわ…。





感謝もされ、


お金ももらえて…。




でび呂さんの言っていた事は本当だった。




【お金】と【感謝】



働く事は、この二つを同時に手に入れる事ができる…。

私は今日稼いだお金を台所に隠し、少し疲れていたのでベッドで横になった。



ジャァアアァア…


   シャァアアアアァァ…。



「…」



「…はっ!」


ガバッ!!!


いけない!うっかり眠ってしまってた!!!



時計を見る。


10時30。




旦那が既に帰ってきてる時間だ!!!




慌てて私は台所に向う。



夕飯をつくらないと!!!








ダダダダダ!!!





「!?」



台所に辿り着くと、旦那がキッチンに立って何かを作っていた。



「あ…アナタ…」



ジャァアアァァ…



「…ん?おお院子。おはよう」



「お、おはようってアナタ…ごめんなさい。私、うっかり寝てしまって…」



「あぁ。帰ってきて電気真っ暗だったから、一瞬心配したけどさ、


気持ち良さそうにお前が眠ってた顔を見て安心したよ。


…疲れてんだろ?寝てなよ」



「…えっ?で、でも…」



「ハハハ。気にスンナって。


こう見えても、オレ、一人暮らしの頃はよく自炊してたんだから」



「…でも…お仕事で疲れてるでしょ…代わるわよ」



「いいっていいって!


…お前、最近ちょっと疲れ気味だっただろ?


体調悪いんだよきっと。


困った時はお互い様…だよ」




「…アナタ…」




…【最近疲れぎみ】…。



私が旦那からの誘いを受けたくないから言ってただけの言葉だ…。




その旦那は今私の事を心配してくれている…。





…旦那…ごめんなさい…。

「…あっ、そうそう院子」



旦那が私に背を向けたまま言った。




「…何?」




「ん…いや。



…普段さ、


照れくさくてハッキリ言えてないけど、




いつもご飯作ってくれたり、洗濯してくれたり、掃除してくれたり、


ありがとうな。




…言葉にはなかなか出来ないけど、


ちゃんと感謝してるから…」




「…アナタ…」







涙が止まらなかった。















…その夜、



私は久々に旦那と交わった。




旦那は私に感謝してくれていた…。



私はそれに気付いていないだけだった。




私は自分がとても愚かだと思った。










翌朝。



「じゃ、いってくる」

「うん。気をつけてね」



旦那を見送った後、私は大急ぎで家事をこなし、化粧をして家を出る。


…正直、旦那に対する罪悪感はバリバリになっている。


…でも、今の私は進む事しか出来ない…。


…多額のローン返済という目標があるからだ…。


…でも、ローンの返済が終われば、この仕事も辞める。



…旦那…。


…やっぱり、旦那が私にしてくれる感謝が、一番私を満たしてくれるんだと気付いたから。









私は今日も一日、沢山の男の人達を洗い、満たした。




どのお客さんも、満足そうに「ありがとう」と言って帰っていってくれる。



…旦那の「ありがとう」ほどではないが、


その言葉はとても嬉しい…。











この店で働き出し、一週間が経った。



大体の流れも理解できたし、


これからも私を指名してくれると言ってくれる人も三人ほど出てきた。






「京華ちゃん!今日もがんばってよ!」

「あ…はい」



【京華】というのは私の源氏名だ。


店長が「こんなのどう?」って言ってきたから、特にこだわりもないしそれにした。





…しかし、今日は少し暇だな。


…そういえば、でび呂さんどうしてるんだろう…。





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