CROSS(11)

創作の怖い話 File.228



投稿者 でび一星人 様





「アハハハ。

すいません。

いや・・・嬉しいです。」


「・・・ふん・・・。」




モヤシは、照れるウチに暖かいココアを出してくれた。

そして二人、散らかった机の前に座り、ココアをすすりながら話をした。


モヤシは、昨日の晩遅くまで、【ウチが元居た世界に返れる方法】を考えてくれていたらしい。

・・・だが、その答えまで辿りつく事はできなかったという事だった。




「・・・鍋衣さん・・・すいません・・・。

一生懸命に、鍋衣さんが帰れる方法を考えたんですが・・・。

どうも、上手く行かないんです・・・。


鍋衣さんが昨日やってきたあの場所なんですが、

昨日が最も時空の磁場が不安定になる時期でして、

・・・次に最も不安定になるのが、

169年後なんです・・・。」



「ひゃ・・・169年!!!?

ウチ、金さん銀さん超えしてまうやないか!」


「ふ・・・古いっすね鍋衣さん・・・。

・・・ええ・・・。


でも・・・まぁ、


なんとか、方法を考えてみます。

だから・・・それまではこっちの世界でゆっくりしてて下さい。

・・・もし、鎌司の家がムリなら・・・その・・・

ここで、僕と一緒に暮らしても・・良いので・・・。」


ドキン



胸がドキっとした。

「・・・あ、鍋衣さんすいません。

ちょっと僕、フロはいってきます。

昨日、そのまま寝ちゃったんで。」


モヤシはそう言うと、そそくさとフロに向かって歩いていった。

・・・モヤシも、言ったはいいものの、照れてるのはあきらかだった。


照れて逃げるくらいなら言うな!!


・・・いや・・嬉しかったけども・・・。






 モヤシがシャワーを浴びてる間


ウチはモヤシのデスクに座ってそのへんを眺めていた。


ちらかった机の上。

散乱したティッシュ。

モヤシがメモ書きしたであろうノートの切れ端。


そのメモ書きには、沢山ウチの名前が書いてあった。


゛鍋衣さんを救う方法゛

゛どうすれば鍋衣さんを救えるか?゛

゛鍋衣さんと結婚する方法は?゛



・・・なにやらおかしなのもあるが・・・でも・・・


モヤシはホンマにウチを心配しとったんやろうな・・・。

元居た世界。


モヤシはウチをフって、もう顔も見せてくれない・・・。


鎌司はもう居ない・・・。



こっちの世界では・・・モヤシもウチの事を想ってくれてるし、

鎌司も生きている・・・。




ウチは、元居た世界で必要とされてるんか?


・・・少なくとも・・・


・・・この世界では・・・ウチを必要としてくれる人が居る・・・。




ウチは・・・


ウチは・・・。









数分後、モヤシがフロから出てきた。

Tシャツの袖から出ている二の腕は、けっこうたくましい腕で、

向こうの世界のモヤシの細い腕とはまったく異なるものだった。


もう、【モヤシ】なんて呼び方じゃぁアカンのやろうな・・・。




 ウチは、モヤシと一言二言会話を交わし、家に帰った。


家ではオカンとオトンがご飯を食べていた。


ポロポロと、オトンはご飯をこぼしながら、


まるで子供のように食べていた。


そんなオトンが、


ウチの顔を見て笑った。



「・・ぁ・・・あぁ!・・・・な・・べぃ・・・。」


って、


名前を呼んだ。



オカンはそれを見て泣いていた。

・・・ウチは、それを見て決めたんだ。


















【この世界で、生きていこう】


って・・・。





この世界の皆は、

ウチを必要としている。


鎌司も、

モヤシも、


・・そしてオトンもオカンも。




向こうの世界のオカンやオトンには悪いけど、



ごめんな。

オトン、オカン。


向こうの世界のオトンとオカンは、きっと二人でも元気にやっていけるよ・・・。



不思議なもので、


ウチが死んでいるこの世界にこそ、

ウチがおらなアカンような気がするんや。


だから・・・



だからごめんな。



向こうの世界の、


オトンとオカン・・・。

この後、ウチはモヤシのところに行ってその意思を伝えた。


モヤシは「結果的に良かったのかな。」って言って、研究用のノートを閉じた。


モヤシの時空研究は、この日で終わりを告げたのだ。



鎌司も喜んでくれた。




それが本当の答えだったのか、ルール違反だったのかは解らない。


・・・でも・・・


今ウチの見える範囲の人は、


ウチのこの結論を喜んでくれてるみたいだから、


ウチはそれで良かったと思う。







こうして、



ウチはこの世界で暮らして行く事となった。



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