CROSS(9)

創作の怖い話 File.226



投稿者 でび一星人 様





「・・・モヤシ・・・。」



「・・・すいません・・・感極まってしまって・・・。」


「・・・いや・・・

鎌司から聞いたで・・・オマエが、ずっとウチの事想って、


・・ウチを助けるために、【タイモヤシン】を創ってる事を。」



「・・・全部・・・聞いたんですか・・・

そっか・・・。


出来れば・・・タイモヤシンで過去に行って・・・

自分で鍋衣さんに気持ちを伝えたかったんですがね・・・ハハ・・・。」


「フフ・・・

もうな、オマエの気持ちは、既に聞いてたんやで。

四年前にな。」


「・・・えっ?」


「・・・何や、

お前らの話では、四年前にウチが死んだ事になっとるみたいやけども、

ウチの記憶ではやな、

四年前に死んだのは鎌司なんや・・・。」


「・・・四年前に死んだのが・・・


鎌司君・・・?」



「そうや・・・。

それがやな、

なんかしらんけど、ある日山登りして、家に帰ったら鎌司がおってやな。

・・・ウチは四年前に死んだって言われて・・・。

鎌司、頭良いから、ウチもそんなん聞いたら、ウチはオバケなんかなって思ってしもうてやな・・・。

ある意味マインドコントロールやでこんなもん・・・。」

「・・・山・・・?」


モヤシは、【山】という言葉を聞き、急に真面目な表情に変わった。


「・・・鍋衣さん・・・もしかして・・・

その山というのは、鎌司の実家から、歩いて行く事のできる、あの山ですか・・・?」


「え?・・・お、おう。

・・・そうやけど・・・それが何か?」



モヤシも、鎌司と同じようにアゴに手を当てた。


「・・・鍋衣さん・・・

もしかして・・・もしかして・・・ですよ?

あの山道の、中ほどに、大きな石があるんですが・・・

その近辺に立ち寄ったりとかしましたか・・・?」



「え・・・大きな石・・・?」


ウチは山に登った時の事を思い出した。


・・・山に登り・・・疲れて・・・


・・・大きな石のところに腰かけて・・・



「・・・あ!

・・・大きな石のところに立ち寄った!

・・・っていうか、腰掛けた・・・

・・・アカンかったんか?」



「・・・そうか・・・やっぱり・・・。」


モヤシはそう言うと、急いで【事務所】の方に走り、何やら資料みたいなものを持ってきた。


そしてそれを床に広げて、「ぶつぶつ・・・。」と言いながら目を通している。



「お・・・おい!モヤシ!

何とか言うてくれや!

・・・ウチ、何か悪い事してもうたんかと軽くヒヤヒヤなんやぞ!」


「ぶつぶつ・・・。」



モヤシの耳には、まったくウチの声が届いていないようだ。

・・・ホンマに、ウチに会いたかったんやろうか・・・。




それから数分が経ち・・・




「・・・やっぱり・・・


うん。たぶんそうだ!」

モヤシは突然立ち上がった。



ウチは立ったまま寝かけていたのでビクってなった。

そんなビクって起きたウチに反応し、

鎌司も近寄ってきた。

「・・・モヤシ君・・・『たぶんそうだって』・・・何・・・?」

モヤシはコクリと一つ頷き、何やら小難しい説明を始めた。


「うん。

どうやら、タイモヤシンを創ろうと今まで頑張ってきたけど、

僕は根本的に間違った理論を立ててしまっていたらしい・・・。


・・・僕は、この世界の時間は、常に1本道で流れていると思っていた・・・。

たとえば、今目の前にAとB二つの道があったとする。


Aを選んだとしよう。

選んだように見えて・・・実際はAを選ぶ未来しか存在しないのだ。

Bを選ぶ未来は存在しないのだ。


時の流れは、常に一つの流れでしかない。

・・・タイムマシンを創る上で・・・それは大前提の事だったんだよ・・・

僕の中では・・・。」




「は・・・はぁ・・・

な、なるほどな。」


ウチはとりあえず返事をした。


「・・・姉ちゃん、9割5分は筒抜けだろ・・・。」

鎌司にすかさずツッコまれた。


モヤシはそんなウチらをチラ見した後、尚も話を続ける。



「・・・【時の流れは、常に一つ】・・・この理論が・・・

どうやら間違っていたのかもしれない・・・鍋衣さん、あなたの出現でそう思い直したのですよ・・・。」

「は、はぁ!?

ウチのせいで???

どいう意味やねん!」



「いや・・・鍋衣さんのせいというワケでは無いですよ(笑)

・・・今回・・・鍋衣さんが僕らの前に姿を現した事・・・という意味です。」


「ウチが、オマエらの前に姿をあらわした事?」


「はい。

・・・とりあえず・・・結論から言いますね。

鍋衣さんは・・・




・・・この世界の人間ではありません。」




「は?」



「・・・そうかなるほど・・・。」


ちんぷんかんぷんなウチの横で、鎌司は何かに納得したように頷いた。


「お、おい鎌司!

何納得しとるねん!

どういう事やねん!

ウチは何や?うちゅーじんって事か?」


「・・・まあ・・・

ある意味姉ちゃんは宇宙人だけど・・・

そういう意味じゃないよ・・・。

・・・モヤシ君が言おうとしてる事は・・・たぶん・・・


同じ時間軸の別の世界の人間だ・・・って事だろう・・・。」


「・・・同じじかんじくの、別の世界・・・?

何やねんそれ・・・。

モヤシ、説明せいや。」


モヤシはうっすらと笑っていた。

ウチをバカにしとる!!!


「ハハ・・・。

鎌司君の言う通りですよ。


・・・今から四年前・・・鍋衣さんは死んだ・・・。

僕の看護師への指示の甘さで・・・。」


「だ、だからウチは生きとるで!

ガッチガチやぞ!」


「・・・ええ。

そう。鍋衣さんは生きている。

・・・鍋衣さんの世界ではね。」


「は?

ウチの世界?」

「そうです。

四年前、鍋衣さんの世界では、

鍋衣さんが死なずに、鎌司君が死ぬ事となった・・・。

なぜそうなったかまではわかりませんが、

・・・それまで一本だった時の流れが、

そこで二つに枝分かれしたんです。


つまり、鍋衣さんが生きている世界と、

鎌司君が生きている世界の二つに・・・。


この二つの世界は、平行に同じ時間軸を進む事となった・・・

決して交わる事無くね・・・。」




う〜ん・・・。

ちんぷんかんぷんや・・・。


ライト フォー レフト。



「・・・姉ちゃん・・・

また右から左状態になってるでしょ・・・?」


「え?

そ、そんな事な、ないで!」


鎌司が助け舟を出した。


「・・・無理しなくて良いよ姉ちゃん・・・。

姉ちゃんはオラウータンばりの強さと知能を持ってるんだからね・・・。


つまり、あれだよ。

【パラレルワールド】って、

姉ちゃんが昔読んでた漫画に出てきてたでしょ・・・?」

「お?

おお!

パラレルワールドな!

あの、同じ月日やけど、ちょこっと違う世界のやつやな。」


「・・・そう・・・。

モヤシ君はそれを言ってるんだよ・・・。

・・・今居るこの世界では、姉ちゃんは既に死んでいる・・・。

姉ちゃんが生きている世界では、僕が死んでいる・・・。



・・・で、なぜかは僕は知らないけれど、

・・・姉ちゃんはこちらの世界に迷い込んでしまった・・・。」



「ぶは(^ω^ )

なんやそれ?

漫画やがな!

そんな事あるかい!」


「・・・モヤシ君・・・。

たしかにそこは僕も気になってるんだ・・・。

説明してもらえないだろうか・・・?」

鎌司がそう聞くと、モヤシはゆっくりと頷いた。


「うん。

とりあえず、

パラレルワールドは理論上ありえないと考えていたんだけれど、

・・・どうやらそれは違うらしい・・・。

現にこうして、鍋衣さんが目の前に居て、

鍋衣さんのここ四年の記憶を聞くかぎりでも、

そうとしか考えられない・・・。


それに、鍋衣さんが休憩したと言っていたあの山中の大きな石。

あの場所が実は、理論上タイムトラベルが唯一出来る場所である、【時空の磁場が最も不安定な場所】・・・なんだよ・・・。」



「・・・そうか・・・なるほど・・・。」


・・・鎌司だけが、うんうん頷く・・・。


「僕は昨日、タイモヤシンをあの場所まで運んでタイムトラベルを試みた。

マシンの回転数も順調。

トラブルらしいトラブルは一切無い。


・・・でも、結局たどり着いた場所は、現在のまったく同じ時間だった。



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