CROSS(8)

創作の怖い話 File.225



投稿者 でび一星人 様





「・・・モヤシ君いわく、


『時空の磁場が最も不安定な場所で無いと、今の技術でのタイムトラベルは成立しない』


って理由で、


昨日、その場所を調べて行ってきたんだよ・・・。」



「おぉ!


へ〜〜〜。


なんか、そういうの、ウチ好きやわ。

ワクワク宝島や!


で、どうなってん?」



「・・・失敗だった・・・。


モヤシ君は落ち込んでたよ・・・。


『理論上、問題無いはずなのに・・・。』ってね・・・。」



「そっか・・・


モヤシ・・・可哀想やな・・・。」

「・・・うん・・・。

モヤシ君は今、【タイモヤシン2号 〜お酒と女はニゴウまで〜】の製作中なんだ・・・。

姉ちゃん、慰めてきてあげてよ・・・。

っていうか、姉ちゃんを見たらビックリ死するかもしれないけど・・・。」



「・・・そのサブタイトル、いらんやろうが・・・。


・・・せやけど・・・モヤシ、この奥の部屋におるんやな?


とりあえず、そこまで頑張ってるんやったら、ウチ、声かけてくるわ!」



「・・・うん・・・。

じゃ、トビラ開けるね・・・。

ここも指紋照合しないと入れないから・・・。」


鎌司はそう言うと、ピっと指紋をディスプレイに認識させた。




シャーーッ




鉄板で出来た自動ドアがゆっくりと開いた。






バババババババ・・・


    バババババババ・・・。




トビラの向こうでは、眩い光が飛び散っていた。



「・・・今、溶接中みたいだね・・・。


姉ちゃん・・・あの光を直接見ちゃいけないよ・・・。

目、焼けちゃうから・・・。」


「お、おう。

OKファーム。」

バババババババ・・・




     バババババババ・・・。




パチッ・・・パチパチッ・・・。





「・・・クレーター処理が終わったようだね・・・姉ちゃん、行こう・・・。」


「え・・・お、おう。」



ゆっくりと、モヤシの方へと歩いていく鎌司に、ウチは付いて行った。


モヤシは、手に持ったノズルを床に置き、茶色いマスクを顔から外して汗を拭っていた。



「・・・モヤシ君・・・お疲れ様・・・。」


鎌司がモヤシに声をかけると、モヤシはゆっくりと鎌司の方を見た。


「あぁ・・鎌司君・・・

来てたのか・・・ん・・・?」


モヤシは鎌司にそう言うと、隣にいるウチを見て目を細めた。


「・・・鎌司君・・・ここに、僕ら以外の人間を入れちゃぁダメって言ってたろ?

その娘は誰だい?」


モヤシは立ち上がり、ゆっくりと近付いてきた。


そしてウチと鎌司の前に立つ。



「よ・・・よぉ・・・モヤシ・・・。」


ウチは小さく手をあげた。



「・・・ん・・・え・・・?」


モヤシは一瞬、今目の前に居るウチを理解出来ないようにキョドった。


「・・・モヤシ君・・・

ここにいるのはね・・・姉ちゃん・・・の、霊なんだよ・・・。」



モヤシはゆっくりと鎌司の顔を見る。

「・・・霊・・・?」


「・・・そう・・・霊だ・・・。

どうやら、姉ちゃんは彷徨っていたらしいんだ・・・。

なにやら、四年前に僕が死んだと勘違いしててね・・・。」


モヤシは、ウチと鎌司の顔を交互に見た。そして、


「・・・鎌司君・・・

これ・・・

鍋衣さんじゃないか・・・。

・・・霊?

・・・霊なワケあるか・・・。」


モヤシはヒゲモジャの顔で、静かに言った。


「・・・モヤシ君・・・

信じられないのは解る・・・。

でもね・・・姉ちゃんはあの日に、この世から消えてしまってるんだよ・・・。」


鎌司は挙動不審的になったモヤシを諭すようにそう言った。


「・・・いや・・・鎌司君・・・。

・・・霊じゃないよ・・・。

とりあえず僕がわかるのは、それだけだけど・・・


だって・・・去年僕・・・【全国霊感の無い人王決定戦】で、全国二位になったじゃないか・・・。

霊だとしたら・・・僕に見えるワケが無い・・・。」



「・・・あ・・・そういえば、そうだったね・・・。

全国からあらゆる霊能力者が審査員として集まったあの大会・・・。

1位は母さんだった・・・霊感完璧な0・・・。

そしてモヤシ君も、霊感0.0000684で、

1000年生きて1回見るかどうかくらいの霊感の無さだったね・・・。」



「でしょ・・・

だから・・・こんなにハッキリ見えるって事は・・・

霊じゃないって事だよ・・・。

っていうか・・・

鍋衣さん・・・?

なんでここに・・・。」

モヤシは嬉しそうな顔とひきつった顔が合わさったような、不思議な表情だった。


「・・・う〜む・・・。」

鎌司はアゴに手をやり、色々と考えだした。


おそらく、鎌司自身が立てた【鍋衣オバケ論】が、モヤシの一言で否決されたので、

なぜ死んだはずのウチがここに居るのかを、また1から理論立てているんだろう。





「・・・鍋衣さん・・・。」


「え・・あ・・あぁ・・よっ!」



モヤシは少し落ち着いたのだろう。

考えモードに沈みこんだ鎌司を置いといて、ウチに声をかけてきた。


「・・あの・・・手・・・握らせてもらってもいいですか・・・?」


「・・・え?」


モヤシはウチの返事を聞かないうちに、そっと手を握ってきた。



「・・・暖かいなぁ・・・鍋衣さんの手・・・。」


モヤシの目から、ポロポロと涙がこぼれ出した。



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